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【連載】産科で必要な看護技術を学ぼう!

帝王切開(予定帝王切開)の看護|適応、検査、入院時・出産前(術前)・出産後(術後)のケアなど

  • 公開日: 2025/2/14
帝王切開には、予定帝王切開(選択的帝王切開)と緊急帝王切開があります。ここでは、主に予定帝王切開について解説します。


帝王切開とは

 帝王切開は分娩方法の1つで、何らかの理由で経腟分娩は困難と判断された場合に、母体の腹部と子宮を切開して児を取り出す手術です。事前に手術日を決めて計画的に行われる「予定帝王切開(選択的帝王切開)」と、急激に母体や児の生命にリスクが生じた際に行われる「緊急帝王切開」に大別されます。

 帝王切開の手術時間は約1~2時間です。基本的に局所麻酔(脊髄くも膜下麻酔、硬膜外麻酔)で行われますが、緊急帝王切開でより緊急度が高いケースでは、局所麻酔よりも早く麻酔の効果が現れる全身麻酔が選択されることもあります。

帝王切開の適応

 予定帝王切開は、児頭骨盤不均衡、胎位異常、胎盤位置異常、多胎妊娠、母体合併症(心疾患、腎疾患、脳血管障害、子宮筋腫など)や帝王切開の既往がある場合などに適応となります。

 妊婦本人が希望しても適応がなければ行うことはできず、母体や児の状態により選択されます。予定帝王切開を計画していても、胎位が骨盤位(子宮内で児頭が上側にある状態。逆子ともいう)から頭位(子宮内で児頭が下側にある状態)に戻った場合などは、経膣分娩に変更になることもあります。

 一方、緊急帝王切開は、胎児機能不全(NRFS)、臍帯下垂・脱出、妊娠高血圧症候群、子宮破裂、子宮内感染、常位胎盤早期剝離などが適応となります。

帝王切開の術前検査

 帝王切開を安全に実施するために、血液検査で輸血に必要な血液型、貧血や感染症の有無を調べます。また、局所麻酔を行う際に、血小板数の低下や凝固異常があると硬膜外血腫を起こすリスクが高くなることから、血小板数、プロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の値を確認したり、Dダイマーの値から肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症の発症リスクを予測したりします。

 心機能の確認や疾患のスクリーニングを行うために、心電図検査や胸部X線検査も実施されますが、胸部X線検査については、母体や児には影響がない被ばく量であり、安心するように伝えます。

帝王切開の切開方法

 帝王切開の切開方法には、下腹部の正中を縦に切開する「腹部正中縦切開(縦切開)」と下腹部を横に切開する「下腹部横切開(横切開)」があり(図1)、それぞれメリットとデメリットがあります(表1)。予定帝王切開では多くの場合、整容面で優れた横切開が選択され、緊急帝王切開では術野が広く、児娩出までの時間が横切開と比べて短いことから、縦切開が選択されます。

図1 帝王切開の切開方法

表1 切開方法によるメリット・デメリット

メリットデメリット
縦切開●術野が広くとれる
●児娩出までの時間が早い
●創部が目立ちやすい
横切開●創部が目立ちにくい(通常はビキニラインで切開するため、創部は下着で隠れる)
●術後の痛みが縦切開に比べて少ない
●視野が取りにくい
●手術技術が複雑になることがある

帝王切開の合併症

 通常の手術と同様、術中の出血や臓器損傷、術後の創部感染、縫合不全、組織や臓器の癒着、肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症などの合併症のほかに、麻酔による副作用や合併症が起こることもあります。中でも、肺血栓塞栓症の発症リスクは経膣分娩と比べて高く、特に注意が必要です。

帝王切開による母体・児への影響

 帝王切開では、経腟分娩と比較して子宮復古が遅れるとともに、手術による痛みや不快感が続き、回復期が長くなります。新生児への影響としては、経膣分娩と比べて呼吸障害を起こすリスクが高く、場合によってはNICU管理となります。

帝王切開(正期産)の看護(予定帝王切開の場合)

入院前

知識・情報の提供

 妊娠後期の保健指導、出産準備教室などで、帝王切開での出産に関する知識や情報を提供します。妊婦が疑問に思うことや気になることをあれば、適切な説明を行い、手術に対する不安を軽減できるように努めます。

 なお、当院では分娩方法を問わず、妊娠中から出産までに知っておいてほしい知識、入院時のスケジュール、出産後のケアなどの情報を掲載した専用のサイトを設けています(図2)。保健指導の際もこのサイトを活用して説明を行っており、妊婦自身がパソコンやスマートフォンでいつでも確認できるようにしています。

図2 東京かつしか赤十字母子医療センターの妊婦専用サイト

東京かつしか赤十字母子医療センターの妊婦専用サイト

心理的支援

 帝王切開に臨む妊婦には、手術への不安、経膣分娩ができないことへの否定的感情など、さまざまな思いや葛藤が生じます。そうした思いを傾聴して受け止め、帝王切開を選択したことを肯定的に捉えられるように支援します。帝王切開の既往がある場合は、過去の出産経験が影響するため、その経験をどう受け止めているか確認します。

バースプランの作成

 バースプラン(出産計画書)は出産や授乳、育児に関する希望・要望をまとめたもので、妊婦が主体性をもってお産に臨めるようにかかわりながら作成します。バースプランを考えることで、妊婦が自分の気持ちを整理し、現状を受け入れることにつながります。医療的制約や施設の規則により実施できないこともありますが、できる限り希望に添えるように配慮します。

★希望の例
・分娩中の環境(音楽を流すなど)
・分娩中のサポート(看護師に手を握っていてほしいなど)
・出産時の写真やビデオ撮影
・立ち合い出産(予定帝王切開の場合も可。ただし、施設による)
・早期母子接触、母子同室
・授乳方法

入院時(術前)

問診

 現在の健康状態や過去の病歴、手術歴、アレルギーなど、外来で収集している情報について再度確認します。帝王切開では、分娩後出血を予防することを目的として、術後に子宮収縮薬の投与が行われますが、子宮収縮薬には気管支喘息の悪化・再発を招くものもあります。そのため、気管支喘息の既往の有無は必ず確認します。

オリエンテーション

 病院施設の案内、手術の流れやスケジュール、術後のケアや回復期間について説明します。特に飲食に関しては、麻酔中の悪心・嘔吐を予防するとともに、胃内容物が逆流して気管内や肺に入るのを防ぐため、絶飲食の期間を守るように伝えます。質問に対しては丁寧に答え、妊婦の不安を軽減できるように努めます。

メンタルケア

 妊婦が病院に到着したら笑顔で迎え入れ、安心感を与えます。手術前の不安や緊張を和らげるため、希望に応じて音楽を流したり、アロマ(妊娠中でも使用できる精油)を使ったりするなど、リラックスできる環境を提供します。特に、翌日の手術や術後から始まる育児に備え、よく眠れるように配慮することが大切です。

肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症の予防

 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症の予防のため、弾性ストッキングを着用してもらいます。着用の際は、弾性ストッキングのサイズが合っているか確認し、下肢全体に適切な圧がかかるように正しい着用方法を指導します。

胎児心拍数、子宮収縮の状態の観察

 胎児心拍数モニタリング(non-stress test:NST)を行い、胎児心拍数と子宮収縮の状態を確認します。異常があれば、すぐに担当医に報告します。

その他

 手術部位の剃毛を行います。また、早期母子接触や育児の際に児を傷つけないようにするため、爪が長い場合は切ってもらい、マニキュアをしていると酸素飽和度を正しく測定できないため、マニキュアをしている場合は落としてもらいます。

出産後(術後)

 出産後は、母親と出産児の双方にさまざまなケア・処置を行っていきます。ここでは、母親を対象としたケアや支援を中心に解説します。

バイタルサイン、疼痛、子宮収縮の状態などの観察

 産後2時間は、子宮収縮や出血など全身状態が変化しやすい時期のため、バイタルサイン、疼痛、悪心、創部の状態、悪露の量・性状、子宮収縮の状態を定期的に観察します。子宮が過度に伸展していた多胎妊娠や胎盤異常があった場合は、出血が多くなる傾向があり、特に注意が必要です。

 妊娠高血圧症候群の既往がある場合は肺水腫のリスクがあるため、呼吸困難などの症状に注意します。脊髄くも膜下麻酔を行うと血圧が一過性に低下しますが、術後経過中に再び上昇してくることがあるため、降圧薬の投与とあわせてモニター管理を行います。

疼痛管理

 術後2~3時間で麻酔から覚めて痛みを感じるようになり、その後、強い痛みが数日間持続します。痛みがあると、その後の離床や育児に影響するため、疼痛管理は非常に重要です。定期的に痛みの程度を確認し、適切な鎮痛薬の投与により、疼痛を継続的にコントロールします。痛みを我慢しないように伝え、早めの鎮痛を心がけます。また、体動により痛みが出るため、体を動かすときには創を軽く手で押さえるなど、生活上のアドバイスも伝えます。

飲水・食事の管理

 腸管機能の早期回復を図るため、悪心がなく、全身状態が安定していることを確認してから、医師の許可のもと飲水(水またはお茶)を開始します。食事は術後翌日の朝食から開始されます。

更衣介助

 出産後翌朝まではベッド上安静となります。術後は清拭をして病衣に着替えますが、術後の痛みがあるため、必要に応じて更衣の介助を行います。

早期離床・歩行の支援

 術後翌日より離床を開始します。腸管機能の回復、深部静脈血栓症の予防のためにも早期離床は重要です。離床時に痛みが強くなることがあるため、事前に鎮痛薬で疼痛をコントロールしたうえで行い、血圧低下や呼吸困難など、肺血栓塞栓症の徴候にも注意します。離床後は、歩行やシャワー浴が開始になりますが、必要に応じて看護師が介助を行います。

 筋力や体力を維持するために、歩行やベッド上でできる体操を勧め、積極的に体を動かしてもらうようにします。

早期母子接触、育児支援

【早期母子接触】

 母親と児が触れ合う時間を大切にし、母子の絆を深めます。希望がある場合は、出産後、手術室にて早期母子接触を行います。母子の状態に異常がないことを確認してから、母親の胸のあたりに児をのせます。必ず看護師が児を支え、母子の状態の確認を怠らないようにします。手術台は狭いため、児の転落には細心の注意を払い、呼吸を妨げないように児の姿勢にも配慮します。

【家族との面会】

 母子の状態に応じて、家族との面会を行います。

【育児支援】

 自宅での育児をスムーズに行えるようにするためにも、入院中の育児支援は重要です。

 術後、全身状態に問題がなければ授乳を開始します。母親の体調を確認しながら授乳をサポートし、授乳のタイミング、乳房ケアなどについても指導を行います。手術当日は看護師の全介助で直接授乳を行い、できないときは乳頭刺激を行います。

 手術翌日からは、母親の体調や希望を確認したうえで母子同室が開始となり、母親による育児も始まります。初産婦の場合は、授乳、抱っこ、おむつ交換、沐浴といった育児指導を行います。ただし、数日間は痛みなどにより動作が困難になることがあるため、必要に応じて看護師が介助を行い、児の安全に配慮します。母親の体調や心理状態にも配慮し、自身のペースで育児ができるようにかかわります。

退院前

セルフケア指導

 退院後、自身でケアができるように、創部のケアの方法や鎮痛薬の使用方法を説明します。創部は治癒するまで、感染症や傷が開くといったトラブルが発生したり、肥厚性瘢痕やケロイドが生じたりすることがあります。感染を防ぎ、傷を目立たずきれいに治すために、貼付剤で創部を保護し、創部にかかる刺激を軽減させるなど、適切なケアが重要であることを伝えます。生活上の注意点(表2)や受診のタイミングについても指導を行います。

表2 生活上の注意点

運動運動により創部が伸ばされるため、激しい運動は控える
入浴血流の増加により炎症が生じることがあるため、長時間の入浴、サウナは控える
アルコール血流の増加により炎症が生じることがあるため、過度の飲酒は控える(母乳への影響もある)
日光・紫外線対策紫外線は創部のシミの原因となるため、薄着の際には紫外線対策を行う

退院後のフォローアップの説明

 定期的な健診の重要性を伝え、次回の受診日を確認します。乳房ケア外来や産後ママ相談など、施設で提供している産後のフォローアップ体制も紹介します。

参考文献

●村越 毅,編:特集 いま一番新しい 帝王切開のケア.ペリネイタルケア2022;41(5):12-55.
●村田佐登美,編:特集 保健指導のQ&good Answerエビデンスと伝えるワザ.ペリネイタルケア 2024;43(5):64-70.
●村越毅:帝王切開バイブル.ペリネイタルケア2018年新春増刊2018,p.8-15.
●小野寺洋平,監:ママと医師・助産師みんなに読んでほしい きずのセルフケア.ジョンソンエンドジョンソン,2023.

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