膵炎の分類・診断と看護ケアのポイント
- 公開日: 2019/10/1
膵炎とは
膵臓は、胃の背側に後腹膜臓器として存在しています。その働きは大きく2つです。1つは、内分泌臓器として血糖を下げるインスリンなどのホルモンを血中に分泌すること。もう1つは、外分泌臓器として、膵管を経由し十二指腸に炭水化物を消化するアミラーゼや、脂肪を消化するリパーゼなどの消化液を分泌しています。
膵炎とは、通常膵内では働くことのない消化液が何らかの原因で活性化され、膵臓を自己消化し、そこに炎症を生じる疾患と定義されます。
膵炎の分類と原因
急激に症状を生じるものを急性膵炎、長期間にわたって炎症が持続することにより、正常の膵の細胞が破壊されて繊維組織に置き換わり、症状(消化吸収不良、糖尿病)が徐々に進行するものを慢性膵炎といいます。それぞれについて、以下に記します。
急性膵炎
急性膵炎は男性に発症することが多く、好発年齢は男性60歳代、女性70歳代とされています1)。
急性膵炎の日本における成因として挙げられるのは、1)アルコール、2)胆石、3)特発性(原因不明の膵炎)の3つです。成因にも性差を認め、男性ではアルコール性の頻度が胆石性より多いのに対し、女性では胆石症が大きな割合を占めます。小児例では、先天性胆道拡張症や流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)が原因となることがあります。
ほかに危険因子として覚えておかないといけないものとして、内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査(endoscopic retrograde cholangiopancreatography:ERCP)に代表される内視鏡的な処置後に生じる膵炎や膵がん、膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm:IPMN)などの腫瘍性病変によって引き起こされる膵炎が挙げられます。
ERCP後の膵炎の発症頻度は3~5%とされ、重症例は0.4%程度です2)。また、膵がんの患者さんに急性膵炎が発症する場合や、逆に急性膵炎患者さんに膵がんが存在することもあります。
慢性膵炎
慢性膵炎の成因としては、長期間にわたって大量の飲酒をすることが挙げられます。慢性膵炎は初期診断が非常に難しく、診断がつかないまま移行期に至ることもあります。いったん内分泌および外分泌機能の低下が起こると治癒は難しく、症状のコントロールが治療の主体となります。代償期に正しく診断をすることが非常に重要な疾患です。
膵炎の症状・臨床所見
急性膵炎と慢性膵炎、それぞれの症状の特徴を以下に説明します。
急性膵炎
急性膵炎の初発症状は腹痛が最も多く、88.6%の患者さんにみられます3)。それ以外に嘔気・嘔吐、背部への放散痛、食欲不振、発熱、腸蠕動音の減弱を認めます。腹痛部位は上腹部、次に腹部全体、圧痛部位は腹部全体が多く、次に上腹部となっています。
痛みの程度としては比較的強いとされており、NRS8/10以上である場合が多いです。
特徴的な臨床徴候として皮膚の着色斑があり、出現する部位に応じてそれぞれGrey-Turner(側腹壁)、Cullen(臍周囲)、Fox(鼠径靱帯下部)と名付けられています。しかし、出現頻度は低く、診断的意義は限定的と考えられています。
慢性膵炎
慢性膵炎の初期症状としては上腹部痛、腰背部痛、腹部膨満感、全身倦怠感があります。腹痛は約80%の患者さんにみられ4)、鎮痛薬の効きにくい難治性の痛みです。痛みが強い場合は急性膵炎に準じた治療を行うことがあります。
痛みは食後数時間を経て始まりますが、腹痛が改善すると日常生活が支障なく送れるようになります。そのため、アルコール摂取などの生活習慣の改善が行われないまま腹痛が反復し、徐々に病状が進行していきます。
膵炎の検査
まずは血液・生化学検査ですが、白血球数や炎症反応の上昇を認めます。膵炎で比較的特異的な項目としては、血中リパーゼ、血中アミラーゼ、尿中アミラーゼなどが挙げられますが、アルコール性であれば肝酵素・胆道系酵素(AST、ALT、γ-GTP)の上昇、胆石性ではBilの上昇を認めることもあります。
腹部X線検査では、急性膵炎であれば周囲の腸管の麻痺や浮腫に伴うcolon cut-off sign(大腸)やsentinel loop sign(小腸)を認め、慢性膵炎では、膵石の存在を認めます。
腹部超音波検査では、腹水や膵周囲の炎症所見の確認、膵管の拡張・蛇行・膵石の存在を認めます。ドップラーエコーを使用することで膵仮性嚢胞や仮性動脈瘤についても鑑別できます。
腹部CT検査は、腎機能に問題がなければ造影ダイナミックCTを行うべきです。重症度判定にも必要になるほか、膵周囲の炎症や膵の壊死所見の確認ができます。この検査でも膵仮性嚢胞や仮性動脈瘤の形成についても確認可能です。
腹部MRI検査もバイタルが安定している症例では施行可能です。胆道結石の診断や出血を伴う膵壊死についてはCTより有用である場合があります。
膵炎の診断
急性膵炎や慢性膵炎における症状については上記の通りですが、膵炎に特徴的な症状ではないために他疾患との鑑別が必要です。最も訴えの多い上腹部痛を生じる疾患としては食道・胃・十二指腸・胆道系疾患が多く、主に以下の疾患が挙げられます。
【上腹部痛を生じる主な疾患】
・消化器系疾患
胃・十二指腸潰瘍、腸閉塞、大腸炎、憩室炎、虫垂炎、胆のう炎、胆石症、消化管穿孔、胆管炎、肝膿瘍、肝炎、肝腫瘤、膵炎
・血管系疾患
急性冠症候群、心筋炎、心内・外膜炎、大動脈解離、上腸間膜動脈解離・閉塞
・尿路系疾患
腎結石、腎盂腎炎、尿管結石、腎・副腎梗塞
・その他
呼吸器疾患(肺炎、肺塞栓、膿胸)
上腹部痛に伴う背部痛やショックが認められる場合は、膵炎の可能性が高いと考えます。ただし、ショックの場合は意識レベルも低下することがあり、そのために腹部症状の訴えがはっきりせず、診断が困難になることもあります。
なお、2008年に厚生労働省難治性膵疾患調査研究班により定められた急性膵炎の診断基準(表1)があり、3項目中2項目以上を満たし、他の疾患の可能性が除外できるものを急性膵炎と定めています。
表1 急性膵炎の診断基準
武田和憲,他:急性膵炎の診断基準・重症度判定基準最終改訂案,厚生労働科学研究補助金難治性疾患克服研究事業難治性膵疾患に関する調査研究,平成 17 年度総括・分担研究報告書 2006;27-34.より引用
膵炎の治療
急性膵炎と慢性膵炎、それぞれの治療方法について以下に説明します。
急性膵炎
急性膵炎と診断された場合、通常は入院治療を行います。入院後は呼吸・循環モニタリングと初期治療を開始します。
モニタリングでは意識状態・体温・脈拍数・血圧・尿量・呼吸回数・酸素飽和度を測定し、初期治療では、絶食による膵の安静(外分泌機能刺激を減らす)、十分な初期輸液、鎮痛薬(ブプレノルフィン、ペンタゾシン)や蛋白分解酵素阻害薬(ガベキサートメシル酸塩)による除痛を行います。
また、急性膵炎と診断された段階で重症度判定(表2)を実施し、重症度に応じたモニタリング、治療を行うことも重要です。病状が変化することがあるため、重症度判定は経時的に繰り返し行います。
急性膵炎の場合に実施すべきことを10項目にまとめた、Pancreatitis Bundles 2015(表3)もあります。診断・治療の経過の参考にしてください。
表2 急性膵炎の重症度判定基準
厚生労働省http://www.nanbyou.or.jp/kenkyuhan_pdf/houkoku1_2.pdf(2019年8月12日閲覧)p.50より引用
表3 Pancreatitis Bundles 2015
急性膵炎診療ガイドライン2015改定出版委員会 編:急性膵炎診療ガイドライン2015 第4版,金原出版,2015年,Pancreatitis Bundles,p.52より引用
慢性膵炎
慢性膵炎では、疼痛コントロールと生活習慣の改善(禁酒・禁煙、脂質の高い食事の食べ過ぎに注意など)が治療の中心となります。急性増悪を生じた場合は、急性膵炎に準じた治療が行われます。
膵炎の予後
急性膵炎と慢性膵炎、それぞれの予後について以下に説明します。
急性膵炎
急性膵炎の再発率は、成因や治療の有無によりさまざまです。主な成因であるアルコール性では46%に再発を認め、さらにその80%が4年以内に発生したという報告があります5)。もちろん禁酒によりその再発リスクは大きく低下します。一方、胆石性では初回発症時に胆石に対する処置を行わなかった場合、再発のリスクが高まります。
急性膵炎発症後の慢性膵炎への移行には、膵炎の成因や程度が関与すると考えられています。予後不良因子として臓器不全と膵壊死が挙げられ、壊死性膵炎に臓器不全を伴うと、死亡率は50%に達します6)。特に発症早期に臓器不全を伴う症例や48時間以上臓器不全が継続する症例では死亡率がより高まります。
なお、急性膵炎による死亡リスクは年齢とともに増加し、死亡時期としては発症後2週間以内の早期死亡と、それ以降の後期死亡に分類されます。死因としてはそれぞれ循環不全に伴う臓器不全と、感染性合併症(特に感染性膵壊死に起因)とされています。徐々に減少する傾向にありますが、急性膵炎は早期死亡する割合が比較的高いといえます。
慢性膵炎
慢性膵炎は完治が極めて難しい疾患ですが、適切な治療や生活習慣を改善することで進行を遅らせたり、死亡リスクの低下が期待できます。なお、慢性膵炎の患者さんは、膵がんに罹患するリスクが高い傾向にあります。
膵炎患者さんのケア
膵炎は比較的死亡率が高い疾患です。重症化のリスクを防ぎ、治療を継続できるようなかかわりをもつことが重要です。ここでは、膵炎の患者さんへのケアの注意点について解説します。
重症度の確認
急性期においては、その全身状態も刻々と変化するため、こまめにバイタルサインを観察します。重症度判定で重症化が認められるようであれば、一般病棟から集中治療室への搬送や、高次医療機関への転院も必要になる場合があります。常に医師と密接なコミュニケーションをとり、必要に応じて診察を依頼します。
疼痛コントロール
膵炎では強い疼痛が表れることが多く、鎮痛薬や蛋白分解酵素阻害薬を用いて疼痛コントロールを行います。蛋白分解酵素阻害薬では血管内壁の障害による静脈炎、血管外への漏出による潰瘍・壊死を生じることがあります。投与の中止が必要になる場合もあるため、穿刺部の皮膚の状態をこまめに観察することが重要です。
生活・食事指導
急性期の治癒後や慢性期には、膵炎を繰り返さないことが急性膵炎おいても慢性膵炎においても重要です。成因により異なりますが、アルコール性であれば禁酒を促し、再発を予防します。
喫煙も慢性膵炎の発症・進行させるリスク因子であるため、禁煙も非常に大切です。また、高脂肪食は腹痛や急性増悪の誘因となることから、脂肪分の過剰な摂取には注意するよう指導します。
【引用・参考文献】
1)急性膵炎診療ガイドライン2015改定出版委員会 編:急性膵炎診療ガイドライン2015 第4版,金原出版,2015年,p.22.
2)急性膵炎診療ガイドライン2015改定出版委員会 編:急性膵炎診療ガイドライン2015 第4版,金原出版,2015年,p.183.
3)急性膵炎診療ガイドライン2015改定出版委員会 編:急性膵炎診療ガイドライン2015 第4版,金原出版,2015年,p.56.
4)日本消化器学病会 編:慢性膵炎診療ガイドライン2015 改定第2版,南江堂,2015年,p.2.
5)Pelli H, Sand J, Laippala P:Long-term follow-up after the first episode of acute alcoholic pancreatitis: timecourse and risk factors for recurrence. Scand J Gastroenterol 2000;35: 552-55.
6)日本消化器学病会 編:急性膵炎診療ガイドライン2015 第4版,金原出版,2015年,p.34.
●急性腹症診療ガイドライン出版委員会 編:急性腹症診療ガイドライン2015,第1版,医学書院,2015年
●武田和憲,他:急性膵炎の診断基準・重症度判定基準最終改訂案,厚生労働科学研究補助金難治性疾患克服研究事業難治性膵疾患に関する調査研究,平成 17 年度総括・分担研究報告書
●下瀬川 徹,他:急性膵炎全国疫学調査.厚生労働科学研究補助金難治性疾患克服研究事 業難治性膵疾患に関する調査研究,平成 21 年度総括・分担研究報告書
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