事例で見る地域包括ケア病棟の看護の実践
- 公開日: 2021/12/5
地域包括ケア病棟は地域の医療体制によって入院してくる患者さんは多岐にわたります。今回は事例を元に具体的にどのようなケアを行っているのかを紹介します。
地域包括ケア病棟での看護の実際
地域包括ケア病棟の入院患者さんの疾患は多種多様であり、亜急性期、慢性期、回復期から終末期のケア、必要に応じて看取りのケアも求められます。特に看取りのケアでは、看取りの場として利用されることもありますし、住み慣れたご自宅で最期を過ごすことを目的に地域包括ケア病棟で症状コントロールを行うというケースもあります。
管理上の話をすると、地域包括ケア病棟で、お看取りをした場合は在宅復帰率の母数から除外してもよいため、在宅復帰率への影響はありません。また、症状コントロールを行い、ご自宅に戻って在宅サービスの中で亡くなった場合も在宅復帰の扱いとなります。
このような柔軟な対応が可能であるからこそ、地域包括ケア病棟で働く看護師は「なんでも屋さん」のように感じるかもしれません。しかし、どのような患者さんが多く入院してくるかというのは、前回お話しした「地域の医療提供体制」によって違いがあります。これが各施設の地域包括ケア病棟の特徴が全く異なる理由でもあります。
地域包括ケア病棟の看護提供事例
事例1
患者さん情報
70代の女性。他施設の回復期リハビリテーション病棟入院中に、がんが発見されました。CVから高カロリー輸液、経鼻経管によって胆汁を低圧持続吸引しています。意識レベルはJCSⅡ-20くらいでした。将来的にご自宅で介護したいという、強いご家族の希望があり、当院の地域包括ケア病棟に転院して来ました。
予後予測としては3カ月と言われていましたが、入院したその日から末梢のチアノーゼや全身の浮腫もありました。予後評価の難しい状況であり、大変厳しい話をしなくてはなりませんでした。ご家族は、「自宅で介護したい」とは決めていても、「亡くなる可能性について」は受け止め切れておらず、「そんな嫌な話をしないでください。病院で使っている機械を全部持っていけば大丈夫でしょう?」とのお考えでした。
ケアの実際
予後について実際の状態とご家族の受け止め方との間にギャップが生じているケースはよくあります。予後の予測が難しい状況ではありましたが、ご家族の「自宅で介護したい」という気持ちを尊重してケア提供を考えました。
具体的には、スタッフは点滴の交換や持続吸引などの管理指導を担当し、私は主治医とともに、ご家族にバッドニュースを伝えながら、精神面を支え、ソーシャルワーカーとともに医療機器管理も可能な訪問診療と訪問看護ステーション、ケアマネージャーさんとの連絡調整を行いました。入院されて1カ月くらいで自宅の準備が整い退院されましたが、在宅ケア開始後3日目にお亡くなりになりました。看護スタッフは日々丁寧にご本人をケアしつつ、医療機器の安全使用管理、在宅療養へ向けた準備に尽力していました。
事例2
患者さん情報
50代の男性。進行性胃がんのターミナル期でしたが、「もっとやれる治療があったなら、やってほしい。治療中止に納得しないのだから、ホスピスや緩和ケア病棟には行かない」という思いがあり地域包括ケア病棟を選ばれました*。入院当初はケアに対してを拒否されることもありました。
*地域包括ケア病棟では、重症度、医療・看護必要度の基準がありますが、緩和ケアで使用するオピオイド等は、この看護必要度の評価項目に該当します。
ケアの実際
治療を望む一方でケアを拒否することもあるということは、患者さんが自身の状態について受け止められていない状況であると考えられます。患者さんを精神面でのサポートも行うために多職種でケアを行うとともに信頼関係を築けるようかかわっていくことが必要があります。
このケースでは、精神科医師、臨床心理士に介入してもらいました。受け持ち看護師を中心とした看護チームと主治医による症状マネジメントとケア、精神的なサポートによって「もう少しそばにいてほしい、頭を洗ってもらおうかな」等の言葉が聞かれるようになり、苦しみの中にあってもスタッフとの新たな関係を築いていき、そのかかわりの中で最期をお迎えになりました。
これらの事例はほんの一例です。重症度、医療・看護必要度では、C項目で手術が該当しますので、手術に対応している地域包括ケア病棟もあるかと思います。「必ずこれができないとならない」ということはありませんが、基本をしっかりを学び、実践でき、一人ひとりの患者さんに適切な看護を患者さんの意思に基づいて、提供していただけたらとよいな考えています。