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【連載】看護・医療の今を知ろう!

第3回 対立関係を修復に導く「医療メディエーション」

  • 公開日: 2012/1/12
  • 更新日: 2020/10/22

患者さんや、他の医療者との間に起こったトラブルにどう対処したらよいのか、悩んだ経験はありませんか。今回は、医療者と患者さん、医療者同士の信頼関係を修復する方法として臨床現場でも支持されつつある、医療メディエーションについて取り上げます。


対話を促進させる「医療メディエーション」

近年、「医療メディエーション」という新しい考え方が、医療安全の分野を中心に注目されています。メディエーションは医療事故の後期解決のモデルなどといわれますが、実は、もっと前向きな価値、臨床現場で大いに活用できる可能性があります。

医療メディエーターとして活動経験のある北里大学東病院看護部長の花井恵子さんは、医療メディエーションの意義と役割について次のように説明します。

「医療メディエーターは常に中立的な第三者の位置に立つよう努めます。当事者である患者さん、医療者の双方の発話を促し、隠れた思いや情報を引き出 して、当事者同士の直接対話を支えていきます。

もちろん、誠実な真実開示を前提に、双方に誤解があればそれを解き、関係性を修復します。患者さんと医療者の対話を促進させ、信頼の再構築を目指し、協調的な問題解決に導く、それが医療メディエーションおよび医療メディエーターの役割です」

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医療紛争だけじゃない! 日常的な協調促進のモデルとして注目

ここで注目したいのが、医療メディエーションとは、医療事故のための対処法という狭い範囲にとどまらず、病棟や外来など、患者さんと医療者が接する、さまざまな日常の診療や看護の医療現場で円滑なコミュニケーションを成立させる概念であるという点です。

「医療メディエーションは大きな意味でのコミュニケーションモデルです。医療事故の発生時だけでなく、その考え方は普段の診療・看護の中で『ケアと しての対話』として生きてきます。常に、患者さんの言葉を大切にし、患者さんの気持ちに寄り添うという医療メディエーションのスタンスは、ケアを真摯に考 える人にとって、日常業務において非常に参考になるでしょう」

深読みkeyword 医療メディエーション

医療事故から医療訴訟へと進みがちなトラブルを早期に解決し、双方にとってより前向きな解決と信頼回復を目指すコンフリクト・マネジメント手法の一つ。当事者となった患者(家族)・医療者の双方が、直接互いの意見や立場を冷静に語れる場を作り、さらに双方が対話を通じて、目に見えない互いの想いや状況を知り、納得のいく合意と関係再構築ができるよう支援する、「対話促進型調停」の考え方に基づいている。「患者中心の医療」が叫ばれる今、協調的な問題克服に向けての汎用的モデルと位置づけられる。

一方で、対話を通して認知の変容を促す医療メディエーションは、院内で発生する(例えば医療者同士の)さまざ まな意見・利害・行為・感情・価値などの対立を乗り越えるためのマネジメント手法としても注目されている。病院経営者の理解が必要となるが、将来的には、 各病棟や外来に医療メディエーター・マインドをもった医療者を組織的に導入することが期待される。

医療メディエーターは、日本医療機能評価機構や日本医療メディエーター協会などによって認定研修が行われている。

院内のさまざまなコンフリクトを防止するために

医療メディエーションは、患者・家族と医療者をめぐるコンフリクト(人間同士の衝突・対立、見解の不一致など)に対処する具体的な方法として、医療安全管理者などを中心に普及してきました。

「医療メディエーションが求められるようになった背景には、時代の流れも影響しているのかもしれません。現代の医療現場は情報の開示が進み、納得した説明を受けたいという患者意識が高まっています。一方で、医療事故がマスコミで報道されるようになり、医療に対する不信感も強まっています。そうした状況下では、第三者が当事者同士の対話を橋渡しし、問題解決を図る手法が重要になっているのだと思います」

医療者の中には、「自分たちなりにコミュニケーション・スキルは磨いている」と考える人がいるかもしれませんが、コンフリクトの真っ直中にいる当事者の人間関係を修復させるには、理論に基づく倫理的な姿勢と技法が必要です。医療メディエーターがクローズアップされるのはまさにこの点にあります。医療メディエーション概念が重要なコミュニケーションモデルとして臨床現場全体に浸透する鍵は、医療者一人ひとりが、その理念と理論を理解することにありそうです。

代弁者ではない、対話仲介者としての役割

では、問題に対してどのように対峙すればよいのでしょうか。そこでは、必要に応じて、事実関係調査、原因分析、司会役、連絡係などを柔軟にこなしながら、対立関係にある当事者間の溝を取り除いていくよう支援していくことになります。

「実は看護師が得意とするところなのですが、誰かの『代弁者』になろうとすると、対話の橋渡しはうまくいきません。例えば、患者さんの代弁者になれば、医療者からは『あなたは病院の職員なのになぜ患者側に立つのか』と思われ、信頼は得られなくなります。また、患者さんに対して医療者の代弁者として振舞うと、患者さんの理解や信頼は得られなくなります。代弁者ではなく、主役は当事者であるということを忘れず、両当事者に信頼される状況を作らなければ、その役割は果たせないのです」

中立的立場で当事者双方の信頼を得ることから始まる

中立的になるにはどうしたらよいのか、その点が大いに気になります。 「あくまで当事者双方に偏りなく寄り添い、当事者の語り得ない痛みや苦しみに共感しながら、それを語れるように援助し、対話を促進させることが大切です」

「例えば、患者さんには『不安や不満を感じていませんか。もし感じているのなら、あなたの不安や不満を医師に伝えてはどうでしょうか』と問いかけ、医師には『患者さんはまだ少し理解されていないところがあるようですから、もう一度、わかりやすく伝えたらどうでしょうか』と問いかけます。そして、直接語り合える対話の場を作るのです」

患者さんから聞いた言葉を医師に伝えるやり方では、いつまでたっても患者さんと医療者の信頼関係は構築できません。黒子となり、直接対話の場を設けて双方の信頼の再構築を図る「認知フレームの変容」がポイントになるのです。


深読みkeyword 認知フレームの変容

人にはそれぞれものの見方、考え方に違いがあり、パターン化された「認知フレーム」を通して現実をみている。認知フレームは環境や社会的立場により異なっていて、コンフリクト状況では、このフレームの対立に起因する誤解が対立の原因となっている場合がよくみられる。コンフリクトを抑制して解消するためには、当事者双方の異なる認知フレームに働きかけ、共通の認知フレームに変容させることがポイントとなる。

メディエーション・モデル

メディエーション・モデル

その場に同席するだけではトラブル解決にならない

花井さんは、かつて北里大学病院で医療事故防止を目的とする医療安全管理者の立場であった頃、忘れられない体験をしています。

「あるとき、以前手術を受けた患者さんから『中心静脈カテーテルが体内に残っているのではないか』『医療事故ではないのか』というクレームがきまし た。何年も前の出来事だったので、当時その患者さんに関与していた医師は一人もおらず、別の医師によるカルテ上の説明となりました。

話し合いの場に同席し た私は、『困った案件だな』と思ったものの、ただただ双方のやりとりを聞いているだけ。患者さんへのケアも医師へのケアもできずに悶々としていたのを覚え ています」

その後、安全管理に関する研修に参加するなかで医療メディエーションに出合い、日本医療機能評価機構が開催するメディエーション研修に参加。背景にあるケアの理念に共鳴した花井さんは、次第に医療メディエーションの可能性を確信するようになります。

「医療安全管理者だけでなく、すべての医療者が医療メディエーションの概念を理解して診療・看護にあたれば、日々のちょっとしたトラブルがなくなるのではないかと感じました」

対立関係のまま患者さんとの関係を終わらせたくない

医療メディエーターとして活動を始めた頃には、手術時の医用機器の不具合によって合併症を起した患者さんと医療者の対話を支援するケースに介入したこともありました。

当初は、患者さんと医療者がそれぞれの立場で言い合う状況が続いたのですが、話し合いを重ねるうちに、医師は患者さんのつらい気持ちを理解し、また患者さんは病院側の誠意ある対応を評価するに至ったといいます。

「解決から1年半後、患者さんを訪問した際に、あのときはどんな感覚だったかを聞いてみたのです。すると、『医療メディエーターのあなたがいたから落ち着いて、医師たちとの話し合いもできた。気持ちのうえでも病院とつながっている気がした』という話をしてくれました」

医療メディエーションを知らなければ、対立関係のまま患者さんとの関係が切れていたかもしれません。そして、このような経験を重ねるにつれて、花井さんはもっと医療現場にその考え方を普及させたいと願うようにもなりました。

患者─医療者間以外への応用を視野に入れて

「院内にはさまざまなコンフリクトがあります。患者さんと医療者以外にも、看護師と看護師、看護師と医師、医師と薬剤師、専門医と研修医などで起こるコンフリクトに対して、医療メディエーションの考え方は有効だと考えます」

包み隠さずきちんとした説明が聞きたい、なぜ事故が起きたのか理由が知りたい、誠意ある対応をしてほしい──。ぎくしゃくしがちな医療現場の人間関係を再構築する概念として、その可能性がますます期待されます。

メディエーション・モデルのポイント

メディエーション・モデルのポイント

次回からは、心不全診療の新しい流れについてお伝えします。

(「ナース専科」マガジン2010年10月号より転載)

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