【ループス腎炎(SLE)】検査値の看護への活かし方
- 公開日: 2016/2/17
- 更新日: 2021/1/6
検査値が何を示しているのか、また検査データを踏まえてどのような看護を行えばいいのか、実際のデータをもとに読み解いてみましょう。今回は、「ループス腎炎(SLE)」です。
事例
入院中の患者さん(女性、20歳代)、主訴・症状は以下のとおりでした。
鼻出血が止まらない
検査データ[入院時]
尿一般検査
- 比重:1.015
- pH:7
- 蛋白:2+
- 糖:-
- ウロビリノゲン:±
- ビリルビン:-
- ケトン体:-
- 潜血:+
- 沈渣(赤血球):3-5/毎
- 沈渣(白血球):4-5/毎
- 沈渣(硝子、顆粒、赤血球円柱):3-5/毎
- 沈渣(脂肪変性上皮):1-2
血液一般検査
- RBC(万/μl):295
- Hb(g/dl):9.6
- Ht(%):28
- WBC(/μl):3300
- 棹状核好中球(%):5
- 分葉核好中球(%):58
- 好酸球(%):3
- 好塩基球(%):1
- 単球(%):5
- リンパ球(%):28
- Plt(万/μl):5.8
凝固検査
- APTT(秒)(対象):75(33)
- PT(秒)(対象):12(11.5)
- FIB(mg/dl):320
- FDP(μg/ml):9
生化学検査
- ALP(U/l):169
- AST(U/l):98
- ALT(U/l):54
- LD(U/l):1470
- γ-GT(U/l):20
- CK(U/l):93
- T-Bil(mg/dl):1.3
- D-Bil(mg/dl):0.3
- TP(g/dl):4.5
- Alb(g/dl):2.2
- BUN(mg/dl):40
- Cr(mg/dl):1.68
- UA(mg/dl):7.2
- T-Cho(mg/dl):170
- TG(mg/dl):118
- HDL-Cho(mg/dl):55
- Glu(mg/dl):110
- HbA1c(%):5.5
- Na(mEq/l):142
- K(mEq/l):4.5
- Cl(mEq/l):110
- Ca(mg/dl):7.8
免疫血清検査
- CRP(mg/dl):0.1
- 抗核抗体(辺縁型+びまん型):160倍(+)
- CH50:19
- C3(mg/dl):55
- C4(mg/dl):10
- IgG(mg/dl):1960
- IgA(mg/dl):290
- IgM(mg/dl):250
- HBs抗原:-
- 梅毒RPRカード:+
- TPHA test:-
続いては、「検査値の読み方のポイント」です。
検査値の読み方のポイント
入院時の尿検査で蛋白尿と潜血反応が陽性、血液一般検査でRBC(赤血球数)、WBC(白血球数)、Plt(血小板数)の低下が認められました。検体検査に異常値が多く、幅広い疾患が考えられる症例だといえます。
まず、「鼻出血が止まらない」という患者さんの主訴について、Plt値を確認します。ここでは、5.8万/μlと低値ですが、その原因が造血にあるのか、造血後の消耗にあるのかに着目する必要があります。
前者の場合、急性白血病や再生不良性貧血など血液疾患が疑われ、後者の場合では、特発性血小板減少性紫斑病や膠原病などが疑われます。
腎臓の障害も認められること、患者さんが女性であることなどから、膠原病(全身性エリテマトーデス:SLE)の可能性を考えておく必要があります。
次に、生化学検査に注目します。ポイントは、LD(乳酸脱水素酵素)値が1470 U/lとかなり高いことです。LDは組織の破壊によって高値を示す検査値で、腎臓、肝臓、骨格筋、心臓、赤血球などに大量に含まれています。
診断のポイント
LD値の異常高値は、5つ存在するアイソザイムを調べることで、どの細胞が破壊されているかが特定できます。あわせて、肝臓ならばALT値が、筋肉ならばCK(クレアチンキナーゼ)値が著しく上昇してもよいわけですが、この患者さんにはその徴候はみられません。
LDとASTのバランスから、赤血球に由来すると考えるのが妥当です。従って、溶血性貧血が疑われます。貧血の原因も同様です。つまり、疑われる疾患がSLEなら、赤血球に対する自己抗体ができて、それを壊している状態であると推測できます。
なお、このケースで注意してみておきたいことがあります。1つは炎症マーカーのCRP値です。
一般的にCRPは、炎症性疾患や組織壊死がある病態で高値または陽性になるので、この患者さんの場合、上昇していても不思議ではありません。しかし、検査値は0.1mg/dlと正常です。SLEや免疫抑制療法中の患者さんでは、このような例外もありうるということを覚えておくとよいでしょう。
また、凝固検査でAPTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)が75秒に延長していますが、これは凝固因子の異常によって延長したわけではなく、自己抗体が検査データに影響したものと考えます。
診断をより明確にするためには、赤血球の自己免疫反応を調べるクームステスト(抗グロブリン試験)を実施します。この患者さんは陽性でした。
また、抗核抗体(抗DNA抗体)という膠原病の自己抗体が高値(陽性)を示し、それが診断の決め手となりました。なお、CH50(血清補体価)の低下は自己免疫反応が強く起こったことを示しています。
診断・経過観察時に必要なその他の検査
この患者さんはSLEが原因となって生じる腎障害=ループス腎炎を発症していました。SLEの予後に影響するので、血液検査、尿検査のほか、腎生検による組織所見が重要です。腎炎の改善には、尿検査データの正常化、Pltの上昇が必要です。
看護のポイント
非麻薬性鎮痛薬で疼痛を緩和する
膵炎は活性化した膵酵素が周囲の組織を破壊している状態で、激しい痛みのほか、発熱や悪心・嘔吐を伴うことがあります。激痛は上腹部に1週間ほど持続するので、非麻薬性鎮痛薬で疼痛を緩和していきます。
データとともに経過をみる
尿蛋白、尿潜血などの陽性反応は、腎機能の低下を示します。大量の尿蛋白は透析導入にもつながるので、尿検査やBUN(尿素窒素)、Cr(クレアチニン)などのデータとともに経過をみていきます。
清潔動作では力を入れ過ぎないように指導する
Plt、WBCが減少していることから、易感染、易出血状態にあることがわかります。発熱やCRP値から感染徴候を早期にキャッチするとともに、歯磨き、爪切りなどの清潔動作では力を入れ過ぎないように指導します。
食事療法や血糖コントロールを指導
確定診断がつくまでは、さまざまな検査を実施するため、不安が大きいと思われます。そのため、精神的フォローが必要になります。
診断が確定すれば、ステロイド剤による薬物療法が開始されます。ステロイド剤投与は糖・脂肪代謝に影響を与え、高脂血症や高血圧、高血糖を誘発します。血圧、血糖値、HDL-Cho値などで経過確認しながら、食事療法や血糖コントロールの指導などを行います。
精神面に寄り添えるケアを心掛ける
SLEは基本的に痛みがなく、ADLにも問題が生じない疾患です。しかし、薬物治療によるムーンフェイス、血糖値測定、カロリー制限(治療食)、増悪予防のための行動制限などが、患者さんにとって大きなストレスになることがあります。身体的に現れる症状だけでなく、精神面に寄り添えるケアを心掛けます。
(『ナース専科マガジン』2013年8月号から改変引用)