凝固・出血傾向の異常値はココを見る!
- 公開日: 2018/11/11
日常の看護の中でよく目にする検査値のことをきちんと理解していますか。毎日チェックするのは特定の項目ばかりで、そのほかは自信がない…… そんなことはないでしょうか。確かにいつもの検査項目の異常値がわかれば、すぐに困ることはありません。でも、検査値の変化には理由があり、互いに関連しあっていることも多いのです。目の前の異常値だけでは、異常かどうかがわからないケースもあります。
この記事は、基本的な検査項目の異常値からホントの異常を読み取るコツをご紹介します。その値から「今何が起こっているのか」を察知し、一歩進んだ看護に結びつけましょう。
1. 凝固・出血傾向は検査項目のココを見る!
出血傾向のある患者さん、例えば皮膚に点状の紫斑がみられる、ぶつけたところがあざになりやすい、口腔粘膜や歯肉から出血している、採血時に出血が止まりにくいなどの症状がみられる場合は、凝固・線溶系の検査をしたほうがよいでしょう。
まずは血液一般検査をして血小板数(Plt)をみます。Pltが減少していなければ、止血スクリーニングとして用いられるプロトロンビン時間(PT)や活性化部分トロンポプラスチン時間(APTT)、フィブリン・フィブリノゲン分解産物(FDP)、出血時間などを測ります。
凝固・出血傾向の異常を知るには、凝固と止血のメカニズム(図)を理解しておくことが大切です。凝固機能が亢進する場合として、特に白血病をはじめとするがんや重症感染症、重症熱傷などの疾患があります。これらの疾患により、本来は凝固しない血液が、血管内で微小血栓をつくります。この微小血栓が多数形成されるために、Pltや凝固因子がたくさん使われて減少し、出血傾向をきたします。一方止血は、血管から出血すると、Pltが凝集して血栓をつくることで行われます。このときに過剰にできた血栓を溶解する現象、つまり凝固したフィブリノゲン(FIB)やフィブリンを溶かすことが線溶(線維素溶解現象)です。
特に注目! 血小板数(Plt)
出血があった場合、まず止血の働きをするのがPltです。出血箇所の血管内壁を保護し、粘着し、凝集して血栓を形成し、損傷部位を覆って止血します。ですから、Pltに異常があれば、凝固作用が正常に働かないことになります。
2.異常値を読み取ろう!
血液一般検査
Plt
Pltは骨髄でつくられ、止血のために血管内で消費されるか、寿命により血管外に排出され脾臓で破壊されることで、一定数を保っています。減少する場合には、産生量が減るか、消費量・排出量が増えるかのいずれかの状態で、凝固機能が低下します。10万/μL以下を血小板減少症と呼び、5万/μLになると出血傾向がみられます。2万/μL以下は重症とされ、外力がなくても容易に出血します。Pltが低下している患者さんには、採血後の止血を十分に行うなどの注意が必要です。一方増加すると、血栓を形成しやすくなる場合があります。また、末梢血液検査用試験管内にある抗凝固剤(EDTA)で血小板凝集を生じ、Pltの値が低くなってしまうこともあります(偽性血小板減少)。
◆異常値からコレがわかる!
【高値(増加)】
[腫瘍性]本態性血小板血症(ET)、慢性骨髄性白血病、真性多血症(PV)、骨髄線維症など
[反応性]悪性腫瘍、感染症、貧血(鉄欠乏性、溶血性)、出血、脾臓機能の亢進など
【低値(減少)】
特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、急性白血病、再生不良性貧血、抗がん剤や放射線による骨髄抑制、全身性エリテマトーデス(SLE)、播種性血管内凝固症候群(DIC)、敗血症など
凝固検査
PT/APTT
外因系血液凝固系にかかわる血液凝固因子を血液(検体)に加え、フィブリン塊ができるまでの時間を測ってその活性をみる検査です。凝固のメカニズムには内因系と外因系があり、血管内で血管内の成分で進行する内因系に対して、外因系は血管外の組織因子もかかわる凝固を指します。血液凝固因子は12種類あって、内因系・外因系・共通系に分けられ、PTでは外因系と共通系の5因子のスクリーニングを行います。これらのいずれかが減少すると凝固時間が延長します。また、血液凝固因子は肝臓で産生されるため、劇症肝炎や肝硬変など重症肝障害がある場合も凝固時間の延長がみられます。肝臓での合成にビタミンKを要する血液凝固因子もあり、ビタミンKの不足によっても同様に延長がみられます。
APTTは、PTに対し、内因系と共通系の8因子によるフィブリン塊ができるまでの時間を測定します。
◆異常値からコレがわかる!
【高値(増加)】
先天性血液凝固因子異常(APTTに延長がない場合はⅦ因子欠乏症)、肝障害、ビタミンK欠乏症、DIC、菌血症、血管炎、ワルファリンなど経口抗凝固薬の服用、検体へのヘパリンの混入など
FIB
血液凝固の第Ⅰ因子であり、凝固過程でトロンビンによって刺激を受けて活性化され、最終凝固産物のフィブリンとなって血液を凝固させます。そのため数値が低い場合は出血傾向を示し、高い場合は血栓傾向が認められます。また、肝臓で産生されるために、強い肝障害があると低値を示すので、肝疾患の評価にも用いられます。さらに急性期蛋白質でもあるので、感染症などの炎症性疾患で高値を示します。
◆異常値からコレがわかる!
【高値(増加)】
感染症・悪性腫瘍・組織破壊性病変を含む炎症性疾患、脳梗塞、心筋梗塞、ネフローゼ症候群、糖尿病、妊娠など
【低値(減少)】
[先天性]低FIB血症、無FIB血症など
[後天性]DIC、大量出血、ショック、血栓溶解療法、慢性肝炎や肝硬変など慢性肝疾患など
FDP/Dダイマー
止血の働きを行ったフィブリン塊が線溶により分解されると、フィブリン(1次線溶)とフィブリノゲン分解産物(2次線溶)ができます。さらにフィブリノゲン分解物の分解が進むと最終的にDダイマーとなります。FDPは血管内感染症により低下し、症状が改善すると上昇します。このときPltも同様に変化するため、同時に確認するとよいでしょう。FDPは播種性血管内凝固症候群(DIC)の診断には欠かせない検査項目で、Dダイマーは肺塞栓症の評価にも有用です。
◆異常値からコレがわかる!
【高値(増加)】
DIC、深部静脈血栓症や肺塞栓症など各種の血栓症、動脈瘤、心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症、肝硬変、炎症性疾患、悪性腫瘍、TTP、妊娠など
column 見直しておこう-DIC
DICでは、血液の凝固能が亢進して微小血栓がたくさん形成され、末梢血管が詰まり、臓器に血栓症が発生します。このとき、血小板や凝固因子が消費されるため、出血傾向をきたします。同時に血栓を溶解するため線溶も亢進。出血傾向はさらに助長し、全身性の出血や多臓器不全に陥ります。血液の凝固と出血という相反する現象による症状が発生する疾患です。白血病をはじめとする悪性腫瘍や重症感染症などが原因となって起こります。
この記事はナース専科2016年7月号より転載しています。
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