【連載】看護学原論に立ち戻って考える!KOMIケアで学ぶ看護の観察と看護記録
第11回 KOMIケアを実践しよう―②KOMIチャートを使って看護記録をつけるための観察項目
- 公開日: 2016/1/31
- 更新日: 2021/1/6
そもそも「看護」って何だろう?何をすれば看護といえるのだろう?本連載では、看護とはどのようなことであり、どのような視点で患者を観察し、また記録するのかについて、ナイチンゲールに学びながら解説します。
前回からスタートした、チャートを使ったKOMIケア実践法。今回は第2ステップに入ります。columnでは「観察の目的」をお話しますのであわせて学習しましょう。
「生命の過程」の状況をアセスメントする
前回解説したように、患者さんの情報を把握するために、第1ステップとして「基本情報シート」を使ってフェイスシートを作り、主訴や既往歴、薬歴をはじめ、趣味や嗜好、家族関係などをまとめるところから始めます。
今回解説する第2ステップでは、患者さんの生命過程を16項目に分けて観察します。それぞれの判定項目に合わせて、患者さんの状態や症状の程度を記録していくことで、その人の生命力の姿を描きます。
生命過程を判定する16項目
①呼吸
- 自然な呼吸
- 軽い息切れ・軽い息苦しさ
- 強度の息切れ・強度の息苦しさ
- 自力での呼吸ができない
②循環
- 正常範囲:最高血圧139以下かつ最低血圧89以下
- 注意:最高血圧140-159(99以下の低血圧)または最低血圧90-99
- 要注意:最高血圧160-179または最低血圧100-109で不整脈がある、もしくは最高血圧180以上または最低血圧110以上
- 異常:最高血圧70以下、脈拍50以下の徐脈
③体温
- 正常範囲
- 微熱(37.0~37.9℃)または低体温(35.5℃以下)
- 中等熱(38.0~38.9℃)
- 高熱(39.0℃以上)
④咀嚼・嚥下
- 何でも噛めて飲み込める
- ときどきむせる
- 柔らかいものなら噛めて飲み込める
- 噛むことはできないが飲み込める
- しばしばむせる、または、嚥下ができない
⑤栄養
- 正常範囲
- 体重に変化はないが、栄養指標が気になる状態
- ここ数カ月で体重の減少または増加が著しい
- 不明
- 不健康な痩せ、極度の肥満がある
⑥排便
- 正常範囲
- 軽度の障害(3~4日以上に及ぶ便秘・一過性の下痢・少量の便もれ等)
- 中程度の障害(1週間以上に及ぶ便秘・連続した下痢・便失禁)
- 不明
- 十度の障害(便色異常・下血・強度の腹痛・腹部膨満など)
⑦排尿
- 正常範囲
- 軽度の障害(頻尿・残尿感・尿が出にくい・少量の尿もれなど)
- 中等度の障害(尿失禁など)
- 重度の障害(乏尿・尿閉・血尿・多尿など)
- 最重度の障害(無尿・人工透析など)
⑧上肢の自由
- 上肢が自由に使える
- 上肢の不自由さが少し生活に支障をきたしている
- 上肢の不自由さが生活の広範囲で支障をきたしている
- 上肢を使ったすべての動作に介助が必要である
⑨起居・移動
- 座る・立つ・歩行が自由にできる
- 立位保持は可能だが、移動には介助を要する
- 座位保持は可能だが、立ち上がりに介助を要する
- ベッドからの起き上がりに介助を要するが、座位保持は可能
- 寝返りや座位保持に介助を要する
⑩皮膚の状態
- 正常範囲
- 軽い変化・損傷(発赤・乾燥・痒み・すり傷・汚れなど)
- 中程度の損傷(水泡・湿疹・びらん・紅斑・内出血・黄疸・軽度の浮腫など)
- 重度の損傷(出血・潰瘍・広範囲のびらん・瘻孔など)
- 最重度の損傷(壊死・強度の全身浮腫など)
⑪聴覚
- 普通に聞こえる
- 大きめの声・音なら聞こえる
- 耳元の大きな声・音なら聞こえる
- ほとんど聞こえない
⑫視覚
- 普通に見える
- 新聞の大見出しなら見える
- 顔や物の輪郭ならわかる
- 光はわかる
- まったく見えない
⑬快・不快
- 疼痛や身体の違和感などの不快症状はまったくない
- 不快症状が少しある、または時々起こる
- 不快症状は激しくないが常時ある
- 激しい不快症状が常時ある または不快症状の有無を表出できない
⑭気分・感情
- 安定している
- 少し落ち込んでいる、または乱れ(イラつきなど)がある
- かなり落ち込んでいる、または大きな乱れがある
- 表出がほとんどないか、錯乱状態である
⑮意思疎通
- 普通にできる
- 工夫すれば十分できる
- 工夫すれば少しできる
- まったくできない
⑯知的活動
- 乱れがなく、まったく生活に支障がない
- 軽度の乱れがある
- 大きな乱れのために生活の広範囲で支障をきたしている
- 24時間、常時の見守りがなければ生活できない
コチラから上記の生命過程判定シートのPDF版をダウンロードできます。
このような16項目を4~5段階で評価し、KOMIレーダーチャートに段階評価をプロットしていきます(図1)。
図1 KOMIレーダーチャート
16項目は、人体の構造と機能を軸に、呼吸器系、循環器系、消化器系、泌尿器系、骨筋肉系、感覚器系、神経系という順番で並べてあります。それゆえに、どの領域に乱れがあるかがつかみやすくなっています。
このKOMIレーダーチャートを使うことで、その時、その患者さんの「生命力の姿」をひとめでわかるように視覚化することができるのです。
KOMIレーダーチャートで生命力の消耗をみる
図2 Aさん(64歳・男性)
図3 Bさん(80歳・女性)
図2は「脳梗塞のAさん・60歳代」です。急性期は脱しましたが、まだ意識混濁(こんだく)があり、身体機能も回復していませんので、生命力全体が小さくなっていることが図柄でわかると思います。
また、図3は「大腿骨頸部骨折後の後遺症があるBさん・80歳代」です。一人で動くことはできませんが、自宅で自分の時間を家族とともに楽しんでいます。年齢相応の物忘れなどはありますが、状態は比較的安定しています。
このようにKOMIレーダーチャートでは、身体上の情報の詳細を伝えることはできませんが、生命力がどのように消耗しているのか、身体全体の様子を一目でわかるように伝えることが可能です。またそれがKOMIレーダーチャートの強みでもあります。
第2ステップの最後にKOMIレーダーチャートを使って、得られた情報を整理することになりますが、「基本シート(1)(2)」の時と同様に、ここでも「看護のものさし」を使ってアセスメントし、その結果をプラス情報とマイナス情報に分け、「アセスメント(2)」(図4)に書き込んでいきます。
図4 看護のアセスメント票
コチラからPDF版をダウンロードできます。
column「観察の目的」ナイチンゲールの言葉
観察の目的を見失わないようにしましょう
「観察の技術」を身につけることが重要だとわかったとしても「何のために観察するのか」、「それを看護にどう活かせばよいのか」がわからなければ、看護実践は方向軸を失ってしまいます。
ナイチンゲールはこの点について鋭い指摘をしています。
《正しい》観察がきわめて重要であることを強調するにあたっては、何のために観察をするのかという視点を見失うようなことは、絶対にあってはならない。観察は、雑多な情報や珍しい事実をよせ集めするためにするものではない。生命を守り健康と安楽とを増進させるためにこそ、観察をするのである
F.ナイチンゲール著(湯槇ます、薄井坦子ほか訳)『看護覚え書』/「十三、病人の観察」P96-P210
「看護であるもの」を、看護の眼で集めた情報を基にして組み立てなければ、看護の専門性は形になりません
ですから、看護の目的をしっかりと頭に入れて、目的に合った事実を情報としなければなりません。ナイチンゲールが強調したかった視点を紹介しました。
次回は、KOMIチャートの使い方「第3ステップ」と「観察の基本」を解説します。
「ナイチンゲールKOMIケア学会」同学会は、理事長である金井一薫がナイチンゲール思想を土台にして構築した「KOMIケア理論」により、現代の保健医療福祉の領域において21世紀型の実践を形作り、少子高齢社会を支える人材の育成に寄与することを目指します。