乳がん患者さんの療養生活のQOLを高めるために―皮膚障害とケア―01
- 公開日: 2016/3/15
- 更新日: 2021/1/14
女性のがんの第1位を占める乳がん。その治療は長期にわたる集学的なものであり、手術・化学・放射線療法のいずれに対しても有害事象としての皮膚障害が現れやすいことがわかっています。
そこで今回は、乳がん患者さんの療養生活におけるQOLを高めるために欠かせない、皮膚障害とそのケアに焦点を当て、長い闘病生活を支える看護の視点を含めて、がんにかかわる認定看護師の方々にお話しいただきます。
左から、金井 久子さん、佐野 加奈さん、根本 弘美さん
01 乳がん患者さんの治療と皮膚ケア
―乳がん治療は集学的であり、副作用としてさまざまな有害事象が発生します。今回は特に皮膚障害にスポットをあててお話をお聞きします。それぞれのお立場からよく遭遇する乳がん患者さんの皮膚障害とケアについてお聞かせいただけますか。
金井: 私の立場からですと、化学療法によるものが多くなります。症状としては、抗がん剤による脱毛、ざ瘡様皮疹や爪囲炎、手足症候群などがあります。
脱毛すると、頭皮が外的刺激を受けやすくなり、ざ瘡などができやすくなります。また帽子やウィッグを着用すると、頭皮に直接縫い目が触れてこすれたり、蒸れて皮膚の状態が悪化しがちです。このような患者さんには縫い目のないシームレスな製品や、刺激の少ない素材でできた製品を紹介しています。
ざ瘡様皮疹では、清潔を保って抗生物質やステロイド軟膏で症状の軽減をはかります。爪障害は、抗がん剤の投与中に冷やすことで症状が抑えられるため、フローズングローブやフローズンソックスなどを用いた保冷を勧めます。手足症候群では、保湿と保護をしっかり行った上で、やはりステロイド軟膏を用います。このように、それぞれの有害事象に有効なケアを行いつつ、症状がひどいときは皮膚科につなぎ、治療を依頼します。
また、患者さんには化学療法を始める前のオリエンテーションで、自分の皮膚や爪、頭皮の状態をよく観察することをお願いしています。湿疹や乾燥があると有害事象も起こりやすくなりますので、保湿剤を使って予防的スキンケアを実施してもらいます。
根本: 乳房温存、切除後の放射線療法に伴う有害事象として、グレード1(CTCAE v4.0)の放射線性皮膚炎は、急性期に必発する症状の1つです。そこで当院では、初診時に看護師が必ず患者さんの皮膚の状態を確認しています。
乳がん治療は集学的治療です。化学療法を併用している場合は、すでに皮膚がダメージを受けていることが多く、強く乾燥していることがあります。このようなときは基本的なスキンケアとして保湿ケアをお勧めしています。あらかじめ保湿を継続することで、乾燥によって生じる掻痒感を軽減することができるのです。
掻痒感の軽減は、皮膚を掻くという物理的刺激を回避することにつながり、症状を悪化させるリスクを低減できるものと考えています。また、低刺激性の下着※などを紹介し着用してもらうことで、日々の物理的刺激の緩和にもつながります。乳房温存、切除後の放射線療法では、皮膚・排泄ケア認定看護師(以下、WOC)に依頼するようなグレード2以上の遷延する症状を有する症例はほとんどいないため、介入依頼をすることはほぼありません。まれに開始前の創部の状態によっては、コンサルトする場合があります。
佐野: 当院でも、化学療法や放射線療法にあたっては、皮膚障害が起こることを前提に、予防的スキンケアを実施しています。予防的スキンケアの原則は、皆さんのお話のとおり清潔・保護・保湿の3つです。治療前から適切な保湿剤を用いることにより、有害事象の発現を軽く抑えることができ、放射線療法後でもグレード2に及ぶ障害はほとんどありません。
ただ、保湿剤には油分が含まれているため、放射線照射部位のマーキングが消えないような注意が必要です。この点について、いま、当院のがん放射線療法看護認定看護師と乳がん看護認定看護師、外来看護師と共に患者さん指導のすり合わせを行っています。WOCの立場としては、予防的ケアを優先してほしいのですが、放射線科ではマーキングが消えない程度にしてほしいと考えており、患者さん指導にずれが起こらないように調整しています。
また当院では術創のトラブルはほとんどありません。外来時に皮膚が脆弱な患者さんであることがわかれば、術前から被膜剤の提案など予防的スキンケアに対する指導を行いますので、私たちWOCが介入することはほとんどありませんね。
--次のページでは、患者さん指導にあたってのポイントをお話しいただきます。