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【連載】野原幹司先生のこんな時どうする!?摂食嚥下ケア

第20回 摂食嚥下障害の臨床Q&A「どう対応する? ムセがひどくて食事が進まない患者さん」

  • 公開日: 2016/5/24
  • 更新日: 2021/1/6

 脳卒中後の73歳の女性、食事が再開となりましたが、頻繁にムセるため経口摂取が進みません。考えられる原因とその対応法が知りたい。


 脳卒中後の嚥下障害は、脳卒中後遺症の中でもっとも対応が必要とされる障害のひとつです。食事中の頻繁なムセ、つまり誤嚥の原因は、脳卒中後の場合はいくつかの原因が疑われます。ここでは、脳卒中症例でよく遭遇する「ムセ」の原因とその対応を急性期、回復期、慢性期の3つのパターンに分けて考えたいと思います。


急性期での症状と対応

発症時に意識障害を認めた症例では、嚥下障害がほぼ必発することが知れています(脳幹部の覚醒を保つ部位と嚥下反射の中枢は脳内の場所が近いため、同時に障害されやすいと言われています)。特に急性期は、出血などによる頭蓋内圧の亢進により脳実質が圧迫され、一時的に嚥下機能も低下していることが多く、このような場合、覚醒レベルの改善とともに嚥下機能も回復してきます。そのため、最良の治療法は「覚醒や嚥下機能の回復を待つ」ことです。待ちの期間はもちろん症例により様々ですが、急性期では数日単位でも回復するため「少し待つ」だけでも大きく症状が改善することがあります。

回復期での症状と対応

急性期を過ぎ意識障害が改善しても、頻繁にムセる場合は球麻痺や偽性球麻痺の可能性があります。特に、脳卒中により損傷を受けた部位が脳幹を含む場合は、球麻痺の発症を繰り返している、あるいは脳の左右両側が障害されている場合は偽性球麻痺の可能性が強くなります。このようなときは、いわゆる脳卒中後の嚥下リハの対象となります。多くの場合、食事を一度中断し、嚥下訓練(第5回参照)から始めていく必要があります。ただし、球麻痺や偽性球麻痺が疑われても、経過とともに症状の程度は改善を認めることが多く、症状は固定されていません。そこでこの時期は、肺炎を予防しつつ、積極的に訓練を行っていくことで機能の回復を目指します。直接訓練に関しては、姿勢の調整(第10回参照)や食形態の調整(とろみの付与)(第9回11回参照)が有効です。訓練開始時は、一回の摂取量が増えると(咽頭残留などにより)誤嚥してしまう人が多いため、一回の摂取量を増やすのではなく、訓練の頻度を増やす方が安全に訓練を継続できます。

また球麻痺症例のなかには、症状が軽度でも声帯麻痺が生じており、頻繁にムセてしまう人がいます。声帯に麻痺が生じると、唾液や食物の気管への垂れ込み(=誤嚥)を防ぐことが難しくなり、特に水分で顕著に誤嚥してしまいます。ムセを認める症例では、嗄声(かすれ声)の有無に注意し、嗄声がある場合は声帯麻痺を疑い、とろみの付与など反回神経麻痺に準じた対応(第8回参照)を行います。他にも、pushing exerciseなどの声門閉鎖訓練も有効な場合があります。

慢性期での症状と対応

急性期、回復期を過ぎても残る嚥下障害については、積極的な訓練による改善は期待できなくなってきます(廃用の要素は改善が期待できます)。この時期に必要とされる対応は、「待ち」や「訓練」ではなく、その人の残している機能を活かした「食支援」です。これは、本人が変わる(回復する)ことが難しいため、その人に合ったケアを提供できるよう、環境を整えて、その人を支える周りが対応を変えようという考え方です。

ムセ、つまり誤嚥を改善させる食支援としては、これまでも述べてきたように姿勢の調整、食形態の調整、水分のトロミの付与などが多くの症例で有効です。この時、訓練ではなく食支援としての姿勢や食形態の調整で注意したいことは、食支援は生活のなかでの経口摂取を支えることが目的だということです。つまり訓練の時とは異なり、姿勢の調整に関しては、頚部の傾斜や回旋を複雑に取り入れ、咽頭残留や誤嚥が改善する「理想的な」姿勢よりも多少リスクがあっても、毎食ごとに「無理なくとれる」姿勢を設定します。また食形態は、「細かな条件をたくさん守れば安全に摂取できる」形態ではなく、日々の体調の良し悪しや、介助者によるスキルの違いなども考慮して毎日の食事として、「誰がいつ提供しても、安全に摂取できる」ことを目指した形態にすることです。嚥下訓練の時と用いる対応法が同じでも、目的が変わることに注意してください。

またどの時期にも大切ですが、特に慢性期では、防ぎきれない誤嚥(唾液誤嚥も含む)への対策として口腔ケアが非常に大切になります。


脳卒中発症後に生じる嚥下障害への対応の変化のイメージ解説イラスト

 このように、脳卒中後に見られるムセ(嚥下障害)の原因には、発症後の時期により原因とその対応は様々なものが考えられます。また全身状態と同じく、嚥下障害についても症状は固定されてはおらず、必ず変化します。「今どのような時期なのか」、また「有効なのは訓練なのか支援なのか」を考えながら対応しましょう。


イラスト/たかはしみどり


引用・参考書籍
認知症患者の摂食・嚥下リハビリテーション
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