第23回 摂食嚥下障害の臨床Q&A「義歯はいつから使えば良いですか?」
- 公開日: 2016/8/23
誤嚥性肺炎で入院中の78歳男性。治療が順調に進み、そろそろ経口摂取を開始したいと思っています。義歯はありますが、入院直後から使っていません。いつごろから使えばいいですか?
誤嚥性肺炎は細菌や食事、胃液からの逆流物を誤嚥したときに発症する肺炎です(「第4回 誤嚥と誤嚥性肺炎の予防―不顕性誤嚥を例に」参照)。この誤嚥性肺炎の治療は基本的に経口摂取禁止で行われます。患者さんが食事しないなら、という理由で義歯を外してしまうのではないでしょうか。
しかしながら義歯の役割は食事をする(咀嚼)だけではありません。顔貌の維持、体幹の保持、構音という役割も担っています。そのため義歯は経口摂取禁止中でも肺炎治療の急性期を過ぎたら装着した方が良いでしょう。
今回は入院中の義歯装着と経口摂取について考えてみます。
【義歯装着について】
入院したからといって必ずしも義歯を外す必要はありません。義歯は総義歯・部分義歯にかかわらず入院中もできるかぎり装着する方が望ましいです。前述したように義歯は咀嚼の他にも役割があるため、経口摂取がまだ始まっていなくても装着しましょう。入院治療のため義歯を外していた場合はできるかぎり早く再開します。義歯の装着は、患者さんが覚醒していて体調も安定していれば可能です。
患者さんの覚醒がまだ低く体調も安定していなければ、義歯の不適合を訴えられず誤飲する危険もあるため、装着は見合わせてください。特に小さい部分義歯は誤飲に注意してください。
【義歯の確認】
口腔内の状況は日々変化しています。義歯を外していた期間が長くなればなるほど適合が悪くなり、装着ができないこともあります。
まずは義歯の装着が可能か試してみましょう。義歯を装着したとき、安定しているか、ゆるくて外れてしまわないかを確認します。義歯が安定していて外れにくければ使うことができますが、不安定で外れやすければ誤飲する危険があります。歯科医師に診てもらい、装着の許可が出るまでは外しておくようにします。
【義歯装着の拒否】
義歯を長期間外していた患者さんのなかには義歯の適合が良くても義歯を外していることに慣れてしまい、装着を嫌がることもあります。
看護師さんは義歯の役割が咀嚼だけではないことを患者さん・ご家族に説明して、義歯装着の再開を促してください。方法としては1日1回2~5分程度装着する時間を決めます(例:朝の口腔ケア後に2分)。少しずつ時間を長くしたり、回数を多くしたりして、義歯に慣れてもらいましょう。
このとき、患者さんが装着を拒否されるかもしれませんが、義歯装着を諦めないで数日は試してください。それでも拒否されるのであれば、義歯装着の再開は難しくなります。このようなことにならないためにも、義歯を外している期間をできるだけ短くすることが大切です。
【経口摂取について】
義歯を装着して食事を再開したとき、患者さんは久しぶりに義歯を使用して食事することから疼痛や違和感を訴えることがあります。そのため、食事が食べ終わるまで義歯を装着し続けることができないこともあります。
食事形態はミキサー、ペーストなど食塊形成が必要ないものから開始すると良いでしょう。義歯を装着して食べることに慣れてきたら、段階的(例 ミキサー→粥、ペースト→刻み→一口大)に食事形態を変更してみましょう。義歯の装着ができなかった場合はミキサー・ペースト・あんかけなど咀嚼が必要ない食事形態になります。
今回の患者さんが入院後に義歯を外していた理由は分かりませんが、覚醒していて義歯の装着が可能か確認してください。 義歯の装着が可能と分かったら、できるだけ早く再開しましょう。
退院時看護サマリーには食事の経過についての記載がありますが、入院中の義歯について(使わなかった理由、歯科受診の有無など)は記載してないことがほとんどです。
看護師さんが作成する退院時看護サマリーに義歯についての情報(歯科治療も含む)が記載してあれば、退院先の施設職員、ご家族が参考にして食事内容や形態を速やかに検討できます。このような情報が無いとどのようなものが食べられて、義歯が使える状態なのかも分かりません。退院後の患者さんがよりよい食生活を過ごすためにも、義歯や歯科治療に関する情報の記載をお願いします。
義歯の保管について
いざ義歯装着を再開しようとしても、外していたときの保管方法が誤っていたために破損してしまった、無くしてしまったということもあります。義歯は保管ケースに水を入れて浸すようにし、破損・紛失しないような管理が必要です。
イラスト/たかはしみどり