環境整備とは|看護師が行う意義と目的、方法~根拠がわかる看護技術
- 公開日: 2018/4/5
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環境整備の意義・目的
病室は、患者さんの治療の場であるとともに生活の場です。患者さんが安全で安楽に過ごすことができるように環境を整えるのは、看護師としての責務です。
特に臥床状態にある患者さんでは、自分で環境を整えることができません。自分で動くことができる患者さんであっても、不快な環境はストレスの原因となります。また患者さん自身が環境を整えてしまうと、余計な体力を消耗させることにもなります。
看護師が個々の患者さんにとって適切な環境をアセスメントし維持することで、患者さんは余計な体力を消耗せずに、自身の力を疾患の治癒に注力することができます。患者さんが回復していくためにも、環境整備は重要なのです。
環境整備のキホン
環境整備における大切な要素
環境整備で大切な要素は、空気(清浄さ、室温、湿度)、明るさ、音、においです。これは、フローレンス・ナイチンゲールの『看護覚え書』で示されている看護の要素、「新鮮な空気、陽光、暖かさ、清潔さ、静かさを適切に整えること」1)そのものです。
これらに加えて、患者さんに生活を感じさせるような配慮も必要です。回復過程において、患者さんは治療中心の生活から日常の生活へと戻っていくためです。
例えば、患者さんがみることができる位置にカレンダーや時計を置き、現在の時間や日付がわかるようにします。患者さんが日時をわかるようにすることは、せん妄予防においても重要です。
また、壁にホワイトボードが掛けられれば、日付とその日のスケジュール(リハビリや入浴の時間など)を書いておくのもよいでしょう。
さらに理想的なのは、“患者さんらしさ”を反映できるものを病室に置くことです。患者さんが趣味で作ったものや好きな写真や絵など、治療に差支えのない範囲で置くとよいでしょう。
患者さんの感覚に合わせる
環境整備を実施するときの基本は、“患者さんの身になって考えること”です。温度にしても、ベッドで寝ている患者さんと始終動き回っている看護師では感じ方は異なります。しかも、患者さん個々によって、その感覚はさまざまです。
1日の時間による変化を考慮する
看護師が訪室する時間帯だけではなく、患者さんが24時間にわたり、快適に過ごせるように適宜、環境を調整する必要があります。
例えば、季節や時間帯、部屋の位置によって、窓からの彩光の状態は変化します。患者さんが眩しさなどを感じることがないように、時間帯によってカーテンで調整する必要があるでしょう。
患者さんの経時的な変化を考慮する
日々、患者さんの状態は変化していきます。臥床状態から歩行が可能になった場合は、ベッド柵の位置を変更するなど、患者さんのADLに合わせて、環境を調整していくことが大切です。
また、不要になった物品を病室にそのまま置いておくのではなく、片づけることも重要です。
整理整頓の重要性
病室は治療の場です。特に急変時、すぐに治療態勢がとれるように、整理整頓されている必要があります。
環境整備とともに安全も確認する
環境を整えるとともに、患者さんの安全が保たれるように配慮しましょう。一番重要なのは、ナースコールの位置です。患者さんの手元になければ命にかかわります。
また転倒や転落のリスクを考え、ベッド柵や履物の位置は適切か、動線上に余計な障害物はないか、床が濡れていないかなどを確認しましょう。
患者さんに害を与える可能性はないか、患者さんの行動をイメージするとともに先を読む力が必要となります。
環境整備の実施
環境整備のアセスメントのポイント
●空気(清浄さ)……換気を適切に行う。窓を開けて換気をする際には、患者さんに直接風が当たることによる影響を配慮し、カーテンなどで調整する。
●温度……看護師自身の感覚で判断するのではなく、患者さんに確認します。適温の目安は24℃前後です。また、入室前や清潔ケアの前には部屋を暖めておきます。
多床室では、患者さんによって感じ方が異なる場合もあるため、寝具などで工夫をします。
●湿度……湿度は施設全体でコントロールされている場合が多いのですが、必要に応じて、加湿器で調整をします。
●明るさ……自然光はヒトのサーカディアンリズムを整えるために重要です。治療による制限がない限り、朝や日中は陽光を浴びることができるように配慮しましょう。ただし、直射日光が患者さんに当たらないように、時間帯によってカーテンで調整します。
照明は自然光と合わせて快適な明るさになるように、夜間は睡眠を妨げないように調整します。
多床室の場合、夜間、テレビの光や照明ができる限り漏れないように、個々のスペースのカーテンを閉めるようにし、テレビの位置などを調整します。消灯時間を守ってもらうことも重要です。
●音……看護師など医療者の話声、処置の音、機器の作動音などに対して、患者さんが不快に感じることがあります。事前に説明をする、ドアを閉める、患者さんの近くでスタッフ同士が大きな声で話さないなど、できる限り配慮します。
多床室の場合、同室の患者さんのいびきや物音がストレスや睡眠障害の原因になることがあります。テレビなどはイヤホンを使ってもらう、ベッドの位置をできるだけ離すようにする、人数の多い面会はデイルームでしてもらうなど工夫をします。必要に応じて、病室の変更も検討します。
●におい……病棟には、食事や排泄物など、さまざまなにおいが発生します。換気の実施や消臭剤、脱臭装置などの使用により、患者さんが不快にならないように配慮します。
●病室のチェックポイントの例 ※施設によって異なる場合があります。
①窓
・患者さんに直射日光が当たらないようにする。
②時計
・日時がわかる時計などを、患者さんが見える位置に置く。
③ベッドランプ
不要な場合は消す。
④ベッド位置
・麻痺や障害など患者さんの状態に合わせる。
⑤枕
・患者さんに合った枕を選択する。
⑥ベッド上
・清潔に保ち、シワのないようにベッドに整える。リネン交換のタイミングでなくても、汚れていれば交換する。
・カテーテルが挿入されている場合、汚染を防ぐために、横シーツなどを配置する。
アドバイス:患者さんがいないときを見計らって、こまめにシーツのシワをのばす、掛布団などを移動して湿気を取り除く、ベッド上の汚れ(抜けた毛、食べかす、乾燥した皮膚の落屑など)を粘着ローラーで取り除くなど、寝具を整えましょう。
ただし、ベッドの上に患者さんの私物が置かれている場合は、患者さんの了解をあらかじめ得てから行いましょう。
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⑦ベッド柵
・転落のリスクがなく、移動の妨げにならないように位置を調整する。
⑧オーバーテーブル
・移動したら元の位置に戻す。
⑨床
・濡れていたら拭き、ごみなどを除去する。
・履物を置く位置も考慮する(患者さんが探してしまう場合、転倒のリスクになる)
・転落のリスクのある患者さんの場合、離床マットを配置する。
⑩ベッドのキャスター
・ストッパーがかかっているか確認する。
⑪床頭台
・不要なものは置かないようにする。(施設によっては、ここにテレビが配置される)
⑫全体
・動線上に移動を妨げるものはないか、点滴台を持ちながら移動できるかなどを確認します。
●ナースコールの位置
・患者さんの手元に置くようにし、患者さんに置き場所を伝える。
アドバイス:ベッド柵にナースコールを吊るす場合、留め具は柵のレールを滑らない位置に置きましょう。
間違った例 この位置の場合、ナースコールが滑りおちてしまう可能性がある。
●洗面所
・鏡をきれいに保つ。
・不要なものは置かない。
・シンクが濡れていたら拭くなど、清潔に保つ。
・洗浄剤やペーパーがある場合は、残量を確認し、適宜、補充をする。
環境整備実施の後は
退室するときは、必ず全体を見渡し、安全・安楽を提供できる環境になっているか、指差し確認を行いましょう。
引用・参考文献
1)フロレンス ナイチンゲール:看護覚え書き 改訳第7版.現代社,2011.
2)聖路加国際大学 学生用学習サイト「ルカーツ」
3)佐居由美:ANRAKU In Nursing.http://plaza.umin.ac.jp/sakyo/
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