クーリング(冷罨法)とは|目的と方法〜根拠がわかる看護技術
- 公開日: 2018/4/3
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クーリングとは
クーリングとは、後頭部、鼠径部、腋窩、頸部、背部といった体幹付近、または表在性に大きな動脈のある部位や炎症部位を冷却する看護技術のことです。冷罨法とも呼ばれます。
温罨法と同じく、医師の指示のもと行われることもありますが、看護師の判断で行うことができるケアです。
クーリングの効果・目的
皮膚表面に寒冷刺激を与えることによって、血管・循環器系、筋肉・神経系に作用して、急性疼痛の緩和、急性炎症の緩和、止血、熱の放散などの効果をもたらします。
最近では、放射線治療後や手術後に患部に熱感がある場合に、クーリングを行うこともあります。
以前は、発熱時に解熱を目的としてクーリングが積極的に行われていました。しかし、皮膚の上から動脈を冷やしたとしても、全身の体温が下がるという明確なエビデンスがなく、その有効性は疑問視されています。また、発熱の段階によっては、クーリングが症状を悪化させることもあります(コラム参照)。
クーリングの目的 |
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・急性疼痛・急性炎症の緩和 |
・止血 |
・高体温症など体温調節機構の障害:熱の放散の促進 |
・発熱時:安楽、苦痛の緩和 |
【コラム】解熱を目的としたクーリング
体温は通常、一定の温度(セットポイント)になるように視床下部の体温調節中枢にて調節されています。発熱物質によって、このセットポイントが高い温度に設定されると、そこまで体温を上昇しようとします。
この体温上昇期においては、熱産生を増加させるために悪寒・戦慄などのシバリングが起こります。このときにクーリングを行うと、かえって症状を悪化させてしまいます。
体温がセットポイントに達すると(極期)、身体は熱を放散させようとします。すると、悪寒・戦慄は消失し、熱感を生じるようになります。
この段階では、解熱が目的ではなく、患者さんの安楽や苦痛の緩和を図ることが目的であれば、クーリングが有効です。
また、高体温症(熱中症など)で、体温調節機構が障害されている場合は、熱の放散を促すためにクーリングが必要となります。
安楽のためのクーリング 実施方法
臨床では、発熱時、患者さんの安楽を目的としたクーリングを実施することは少なくありません。その実施方法について解説します。
クーリングの禁忌・注意したい患者さん
患者さんの状態によっては、寒冷刺激の作用が侵襲を与えることがあります。例えば、循環障害がある、血栓を形成しやすい、寒冷蕁麻疹がみられる場合などは禁忌となります。
また、意識障害や知覚鈍麻があり、温度を感じることができない患者さんでは凍傷に注意が必要です。看護師が継続して観察することができない場合は実施しないようにしましょう。
その他、皮膚が脆弱な患者さんや全身衰弱のある患者さんでは、実施の可否を検討する必要があります。実施する場合は時間や温度に配慮するなど慎重に行いましょう。
禁忌 |
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・循環障害 |
・血栓を形成しやすい(血管収縮と血流抑制による血栓形成のリスクがあるため) |
・急性炎症の消退後 |
・開放性損傷(血流抑制や代謝の低下による創傷治癒の遅延のリスクがあるため) |
・寒冷蕁麻疹 |
慎重に実施する必要のある患者さん |
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・意識障害・知覚鈍麻、麻痺がある(継続した観察ができない場合は禁忌) |
・皮膚が脆弱な患者さん |
・高齢者(知覚が低下しているため) |
クーリングに用いる道具の種類
クーリングに用いる道具には、さまざまな種類があり、乾性(乾いた状態)と湿性(湿った状態)に分かれます。湿性のほうが熱伝導率が高い、つまり冷たさが伝わりやすくなります。
道具によって使い方や注意点は異なります。医療施設では、氷枕やアイスパックを使用することが多いでしょう。
<乾性>
- 氷枕
- 氷嚢
- アイスパック
<湿性>
- 冷湿布(薬剤や冷水を含ませたガーゼ・冷水で絞ったタオル)
- 冷パップ
実施時の注意点
実施前には、患者さんの状態をアセスメントします。また、道具に破損や汚染がないかを必ず確認します。水滴が肌に触れることを防ぐため、必ずカバーかタオルで覆いましょう。
実施中は定期的に患者さんの状態を観察することが大切です。効果が得られているか、発赤や蒼白など皮膚の異常はないか、悪寒や戦慄はないか、症状が悪化していないかなどを確認しましょう。
また、水漏れなど道具の状態や温度の確認も怠らないようにします。患者さんの安楽のためにクーリングを行っても、冷やしすぎると不快感につながるので注意しましょう。
クーリングの手順(氷枕で後頭部を冷やす場合)
ここでは、氷枕を利用し、主に安楽を目的としたクーリングの方法について説明します。
必要物品
- 氷枕(ゴム製)
- 留め金(2本)
- 氷(ベースンなどにいれておく)
- 氷すくい
- タオル(水滴を拭き取るため)
- カバーもしくはタオル(氷枕を覆うため)
準備
1 氷枕に破損がないか、汚れがないかを確認します。
2 氷枕に少量の水を入れ留め金(1本)をし、逆さにして漏れないことを確認します。
3 氷を氷枕の2分の1~2分の3程度入れます。
※細かく砕かれた氷(クラッシュアイス)ではない場合、ベースン内の氷に水を入れて、氷の角をとります。
どうして?:氷に角があると、頭にあたり、不快感を生じさせるためです。
4 氷枕に水を入れます。氷枕の表面に凹凸が出なくなるくらいの量が目安です。
5 氷枕内の空気を抜きます。底から注入口に向かって、氷枕を軽く押します。
どうして?:空気があると熱伝導率が低下するためです。また、凹凸をなくして、安定させるためです。
6 留め金を留めます。留め金は2本使用し、互い違いに留めるようにします。
どうして?:留め金が外れて水が漏れることを防ぐためです。
7 水滴がついている場合は拭き取り、逆さにして水が漏れないことを確認します。
8 氷枕にカバーをかけます。留め金が見えないようにします。
実施
1 目的とともに方法を説明して同意を得ます。
2 患者さんの訴えや皮膚の状態など、アセスメントを行います。
3 枕をはずし、氷枕を患者さんの頭の中央にくるようにおきます。氷枕が肩に触れないようにします。
4 患者さんに氷枕の位置や冷たさが快適かどうかを確認します。
5 実施中は定期的に観察を行います。必要があれば氷枕を交換します。
観察のポイント |
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・施行前後の症状 |
・皮膚の状態(発赤や蒼白など色の変化) |
・感覚消失の有無 |
・患者さんの表情や言動(快適であるか) |
・カバーや寝具の状態 |
・氷枕の温度 |
・氷枕の水漏れ |
【コラム】アイスパックを使用する場合
アイスパックを使用すると簡便ですが、使用後は平坦になるように形を整えましょう。凹凸が残ったまま冷凍すると、形を整えるのに手間や時間がかかってしまいます。
参考文献
1)看護技術がみえる vol.1 基礎看護技術.メディックメディア,2014.
2)聖路加国際大学学生用WEBサイト ルカーツ
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