10.看護師のQOL向上に重要な自己効力感を高める教育側のかかわりと対策
- 公開日: 2019/11/13
看護師自身のQOL向上に重要な自己効力感
前回の「9.相互作用で看護を高めあう人的技術方略と組織的な取り組み」では、相互作用で看護を高めあう人的技術方略として、カンファレンスなどのグループ討議で重要なファシリテーターによるファシリテーションスキルの研鑽が大切であることをお伝えしました。
また、QOL向上の組織的な取り組みとして、コンフリクト・マネジメントの視点から、働く人々に対する組織的な対策や管理職のマネジメントのあり方についてお伝えしました。
今回は、相互作用で看護を高めあう人的技術方略とのつながりとして、まずは看護師個々のQOLについて考え、続いてQOL向上の要素だといわれている自己効力感を高める教育側のかかわりについて述べたいと思います。
看護師のQOL向上についての先行研究
看護師のQOLとその向上について、現在の研究ではどの程度までわかっているのかについて、先行研究である池田ら1)の研究をもとに検討してみたいと思います。
「看護師のQOLと自己効力感が離職願望に及ぼす影響」の緒言で、看護師を対象に健康関連QOLの研究報告はみられますが、主観的幸福感(subjective well-being)を評価した全体的QOLの報告はみられないと述べられています。私は、看護師は少なからず「命」と向き合う医療従事者であり、命を考える上でその人が幸福であるか否かという概念ははずせない内容であると考えます。このため、健康に関するQOLも他の職業と比べて、主観的幸福感の影響が大きいのではないかと感じます。
そして自己効力感とは、「行動の積極性、失敗に対する不安、能力の社会的位置づけによる側面から、“仕事においてうまく行うことができるという個人の確信”を指す」と定義されており、日常生活に生じる問題に対して建設的に対処するための能力は、良好なQOLに不可欠であり自己効力感が影響する、と述べています。
また、看護師の生活や仕事の満足度と自己効力感、QOLと仕事の満足感は、共に正の相関関係にあるというCimeteらやO’Brienらによる研究を引用して、自己効力感の向上はQOLの向上にもつながると考える、と述べています。私は、看護師の仕事は患者さんの日常生活に生じる問題を、建設的に対処するための能力が必要であるため、看護師の良好なQOLが重要であり、自己効力感を高める必要があると考えます。
これらのことから、看護師の自己効力感の向上がQOLの向上の鍵である、といえます。
看護師の自己効力感を高めるためのかかわり
次に、看護師の日々の業務の特徴から、自己効力感を高めるには、どのようなことが大切なのかについて考えてみたいと思います。
まずは看護師の業務において、カンファレンスや日々の申し送りや報告などでも多様な視点で科学的な思考によるアセスメントを行うことが求められるため、判断能力の育成の例を考えてみましょう。
よくある例を挙げると、アセスメントを行うための十分な情報など判断するための要素を把握できない状態で、不安や緊張があって考えることができない環境下であるにもかかわらず「考えて判断しなさい」という教育方法です。このような状況では、看護師の判断能力は育成されるどころか、つらい思いをするだけです。
これは、教育する側が、育成するべき「段階」を精査できていない状態です。教育する側が教育される側の個人や集団のレディネスを認識できておらず、整っていない段階で育成しようとすることが原因であると考えられます。
このような教育や指導が自己効力感を低下させている可能性を考えると、教育する側・される側の双方が努力することが重要だと思います。つまり、看護師個人や集団のレディネスを把握したうえで学習意欲を刺激するようかかわることにより、判断能力が育成される状況づくりとは何かを、自然と双方が考えて努力することができるようになるのではないでしょうか。そしてそのことが、看護師の自己効力感の向上につながるのではないかと思います。
自己効力感が向上することにより、自己効力理論でいう効力予期が高まり、看護師の行動変容につながる可能性があります2)。これは「できそう」、すなわち、自己の効力を信じられるようになる状態により、自分でもできるのではないかという自信につながり、行動変容の意欲が高まるためだとされています2)。
自己効力感を高めるかかわりでは、何事も己を基準に評価する人間の傲慢さをいさめ、その反省はまずは自らに向かうように思考することが重要だと思います。人間に対する寛容な考えが柔軟性のある組織へとつながり、そこに所属する人間のポテンシャル(可能性)を引き出すのではないでしょうか。
引用文献
1)池田道智江,他:看護師のQOLと自己効力感が離職願望に及ぼす影響.日本看護科学会誌 2011;31(4):46-54.
2)アルバート・バンデューラ編:激動社会の中の自己効力.本明寛,他監訳,金子書房,1997,p.2-41.