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新しい様式 〜変化する体圧分散ケア〜【PR】

  • 公開日: 2020/10/30
  • # 学会・セミナーレポート
  • # 注目ピックアップ
  • # 褥瘡ケア

2020年9月11日~ 12日の2日間、第22回日本褥瘡学会学術集会がオンラインで開催されました。11日に行われた講演「新しい様式〜変化する体圧分散ケア〜」では、臨床実践に根差した研究に取り組まれている四谷淳子先生が、臥床患者さんに対する体圧分散ケアに加え、新たな褥瘡予防として注目される「Microclimate(マイクロクライメット)の管理」について解説しました。

(共催:株式会社ケープ/第22回日本褥瘡学会学術集会)


体圧分散寝具の機能を生かす適切な管理とベッドメーキング

 体圧分散寝具は、NPUAP*1により、「組織への外力を管理する圧再分配、寝床内環境管理、その他の機能を特別に設計された用具」と定義され、Support Surfaceと呼ばれています1)


 体圧分散寝具は、寝具に身体を沈み込ませる「沈む」機能、身体の凹凸に順応し接触面積を広げて圧を低くする「包む」機能、エアマットレスのように接触面を変え、接触面の圧を低くする「接触面を変える」機能という3つの機能(圧再分配機能)を持ち、褥瘡の発生を予防します。


 体圧分散寝具を効果的に使用するには、自力体位変換能力、骨突出の有無、ギャッジアップの頻度など、患者さんの状態に合った寝具の選択が求められるのはもちろん、適切な管理が重要となります。導入後は簡易体圧測定器を使って体圧を測定し、寝具の適否を評価・管理します。


 体圧測定は褥瘡発生や重症化の予防に有効なだけでなく、数値として客観的に評価することで、スタッフ間で共通理解を持つためのツールになるほか、患者さん・家族への指導にも活用できます。


 ウレタンフォームを使用する場合は、劣化「へたり」の確認も必要です。例えば、臀部にへたりのあるマットレスでは、ギャッジアップ時に底付きが起こり、褥瘡発生リスクが高まります。使用頻度やウレタンフォームの素材などでも異なりますが、5~6年を目安に交換することが望まれます。


 体圧分散寝具の機能を生かすには、寝具そのものの選択・管理に加え、ベッドメーキングにも注意します。体圧分散寝具の上にシーツを強く張るとハンモック現象を起こし、身体が沈みにくくなり、接触面積が十分に得られなくなります。


 寝たきり高齢者臀部モデルを用いた研究では、ベッドメーキング方法の違いにより骨突出部にかかる圧力が約1.8倍上昇することが明らかになっています2)。体圧分散寝具にシーツを敷く際は、ピンと張らず、緩みやたるみを持たせることが大切です。


Point
シーツにゆるみを持たせたベッドメーキングで、エアマットレスの体圧分散機能を生かす。

新たな体位変換の考え方 スモールチェンジ

 新たな体位変換の考え方として、スモールチェンジという概念が登場しています。スモールチェンジとは、少しずつ身体の向きを変えることをいいます。徐々に荷重部位を変えることで、患者さんへの負担を最小限に抑えた体位変換が可能になります。

 

 今回、体位変換の手法の違いが患者さんの睡眠に影響を与えているのか調査を実施しました。同じ患者さんで、スタッフによる夜間の体位変換(0時と3時)を行った日と、スモールチェンジシステム搭載のエアマットレス(スモールチェンジ ラグーナ®)を使用し、スタッフによる体位変換を行わなかった日の20時~6時までの睡眠状況を睡眠計で測定しました。


 その結果、スタッフによる体位変換では、患者さんはしばらく覚醒した状態が続いたのに対し、体位変換をスモールチェンジシステム搭載のエアマットレスに任せた日では、長時間の覚醒はみられないことがわかりました。従来の定期的な夜間の体位変換で、患者さんは目を覚ましていたのです。


 褥瘡予防に加え、患者さんの安眠やスタッフの負担軽減にもつながるため、夜間の体位変換のケアは状況に応じて、このようなマットレスを活用するのもよいでしょう。


Point
スモールチェンジ機能を搭載したエアマットレスの活用で、夜間の患者さんの安眠、介護負担の軽減につなげる。

新たな褥瘡予防法 Microclimateの管理

 褥瘡発生の外的要因として、最近特に注目されているのがMicroclimate(マイクロクライメット)です。Microclimateとは、皮膚と支持面間の温度・湿度の状態を指す言葉で、Microclimateを適切に管理すること、つまり、温度の上昇を予防し湿度を透過させることが、褥瘡予防には重要だといわれています3)


 その理由の1つが圧迫への影響です。Microclimateが適切に管理できていないと、体温が上昇し代謝が亢進するとともに、酸素や栄養素の消費が増して不足しがちになります。その結果、組織に十分な酸素や栄養素が行き渡らなくなり、圧迫による組織耐久性の低下を生じます。

 

 ずれや摩擦への影響もあります。体温上昇に伴う発汗により皮膚が浸軟すると、皮膚のバリア機能や組織耐久性が低下します。浸軟した皮膚の摩擦力は通常時よりも高くなり、わずかなずれや摩擦で損傷が起こりやすくなります4)


 2014年版NPUAP/EPUAP*2/PPPIA*3による国際ガイドライン( 以下、ガイドライン) では、Microclimateを管理する上で、「体圧分散用具を選ぶ際に、温度・湿度の管理機能など追加機能の必要性を考慮すること」としています3)


 Microclimateは、専用の体圧分散寝具の使用により水分蒸発率や皮膚からの放熱率を変化させることで、コントロールできる可能性があると考えられています5)。現在、さまざまな種類の体圧分散寝具がありますが、蒸れ対策として、マットレス内の熱や湿気を排出するシステムを備えたものもみられます(図)。患者さんの発汗状況や体温に合わせて、システムを使い分けることが求められます。


図 Microclimateに対応したエアマットレス
マットレス

「マイクロクライメイト ビッグセルアイズ®」(株式会社ケープ)。エアマットレス内の足元に搭載されたMicroclimate対応のファンモーターがエアマットレス内にこもった熱と湿気を吸い込み、外部に排気。常に効果的な空気の流れを作り出し、24時間、皮膚局所の温度と湿度の状態をより快適に保つ。

 こうした使い分けの重要性はマットレスに限りません。皮膚と接触する全てがMicroclimateに影響する可能性があるため、カバーやシーツ、アンダーパッドなどについても、素材や使用方法を考慮しながら使用していくことが必要です。


 さらにガイドラインでは、「直接皮膚表面または褥瘡に対して加温装置(例:湯たんぽ、カイロ、ベッド内臓ヒーター)を使用しないこと」にも注意を促しています3)。加温することで代謝が亢進し、発汗が促進され、組織の圧迫への耐性が低下します。体温を放散できない場合は皮膚浸軟リスクが高まり、治癒を妨げる可能性があるため、Microclimateの管理としては、加温装置の使用を避けることも重要です。


 Microclimateを適切に管理することは、褥瘡発生リスクを低減させるだけでなく、患者さんの快適性向上にもつながります。皆さんには、ぜひMicroclimateの管理を覚えていただき、日々のケアに生かしてほしいと思います。


Point
「Microclimate」は、圧迫、ずれ、摩擦に影響をあたえる外的要因。Microclimateの適切な管理は、褥瘡発生リスクの低減、患者さんの快適性向上につながる新しい褥瘡予防である。

総括:須釜淳子先生

 四谷先生の講演を通じて、日本でいう体圧分散寝具が、海外ではSupport Surfaceと呼ばれる意味を改めて考えました。これからのマットレス選びは体圧分散だけでなく、睡眠をサポートするスモールチェンジ機能や、寝心地に関する蒸れや暑さについてサポートし、褥瘡発生リスクを軽減するMicroclimateの管理機能が重要です。


 今後、これらの機能に対するエビデンスが蓄積され、患者さんのさらなる快適な療養生活をサポートできるようになることを期待しています。

略語

*1 米国褥瘡諮問委員会(National Pressure Ulcer Advisory Panel:NPUAP)

*2 ヨーロッパ褥瘡諮問委員会(European Pressure Ulcer Advisory Panel:EPUAP)

*3 環太平洋褥瘡対策連合(Pan Pacific Pressure Injury Alliance:PPPIA)

引用・参考文献

1)NPUAP:National Pressure Ulcer Advisory Panel Support Surface Standards Initiative-Terms and Definitions Related to Support Surfaces. 2018.

2)Matsuo J,et al:Development and validity of a new model for assessing pressure redistribution properties of support surfaces.Jouranal of Tissue Viability 2011;20(2):55-66.

3)NPUAP,et al:Prevention and Treatment of Pressure Ulcers:Clinical Practice Guideline, 2014;81-2.

4)Mayrovitz HN, et al:Biophysical effects of water and synthetic urine on skin. Adv Skin Wound Care 2001;14(6):302-8.

5)Wounds International:International Review. Pressure ulcer prevention:pressure, shear, friction and microclimate in context. Aconsensus document. London:Wounds International 2010.

●NPUAP,et al:Prevention and Treatment of Pressure Ulcers/Injuries:Quick Reference Guideline, 2019.

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