自己免疫性肺胞蛋白症治療の新たな選択
- 公開日: 2024/12/17
ノーベルファーマ株式会社は、「治療の新たな選択肢 自己免疫性肺胞蛋白症の世界初治療薬“サルグマリン”吸入療法 ~専門医と患者さんが語るこれまでの歩みと治療のこれから~」と題して、自己免疫性肺胞蛋白症やサルグマリン吸入療法についてのメディアセミナーを開催しました。その内容をレポートします。
「世界初の自己免疫性肺胞蛋白症に対する薬物療法ーサルグマリン吸入療法の何処が画期的なのか?ー将来の展望」
新潟大学医歯学総合病院 高度医療開発センター 特任教授 中田 光 先生
そもそもサルグマリンとはなにか
サルグマリン(GM-CSF)とは、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子という、分子量約15,000の人工タンパクです。細胞の表面にある受容体にサルグマリンが結合すると、細胞の増殖や成熟、代謝、分解などの機能維持に効果を発揮するようになります。
自己免疫性肺胞蛋白症とは
自己免疫性肺胞蛋白症は年間発生数が200例ほどといわれる、日本では稀な疾患ですが、呼吸器内科の世界では非常に有名で、呼吸を行う際に大切な役割を果たしている肺胞の中に老廃物が溜まり、酸素がうまく取り込めなくなる疾患です。老廃物は「サーファクタント」と呼ばれ、タンパク質、リン脂質、コレステロールからなりますが、タンパク質の割合が多いため、自己免疫性肺胞蛋白症という名前がつきました。 肺胞に老廃物が溜まるのは、サルグマリンに対する自己抗体(抗GM-CSF自己抗体)ができ、肺胞内を正常に保っているマクロファージがうまく働かなくなってしまうことが原因です。正常な肺胞と老廃物が溜まってしまっている肺胞が混在しており、正常な肺胞で呼吸を行えますが、病状が進行するにつれて酸素を取り込めなくなっていきます。
自己免疫性肺胞蛋白症の治療とサルグマリン吸入療法の今後
サルグマリン吸入療法は、サルグマリンが自己抗体によって未熟なマクロファージと結合できなくなってしまうため、自己抗体を凌駕する量のサルグマリンを肺胞まで届けることを目的に作られました。これまでの自己免疫性肺胞蛋白症の治療は、全身麻酔をかけて、片肺ずつ10L以上の生理食塩水で洗浄するというものしかありませんでした。一方、サルグマリン吸入療法は、1日1~2回、霧状にしたものを吸い込むという治療法で、10分程度の吸入で効果が期待できます。2024年5月に保険収載が決定し、その際に画期性加算に該当すると認められています。
肺胞のマクロファージは生体防御を担っていて、肺炎や気管支炎などになった際にバクテリアと戦うのが肺胞のマクロファージです。サルグマリン吸入療法を実施すると、この肺胞のマクロファージが活性化されます。例えば、高齢になると、肺胞のマクロファージが弱くなっていて、慢性の緑膿菌感染症になっている人もいます。そのような患者さんに抗生物質と併用して、サルグマリン吸入療法を短期間、行ってもらうというような方法が考えられます。その他にもインフルエンザ肺炎、新型コロナウイルス感染症による肺炎、非結核性抗菌症、肺真菌症などへの活用が考えられます。
「自己免疫性肺胞蛋白症の克服に向けてーGM-CSF吸入療法の重要性―」
杏林大学医学部 呼吸器内科 主任教授 石井 晴之 先生
自己免疫性肺胞蛋白症の病態と重症度
自己免疫性肺胞蛋白症は、肺胞にサーファクタントが蓄積し、最終的には酸素欠乏、呼吸不全で生命にかかわってくるような疾患で指定難病にもなっています。X線は、空気は黒く、血液は白く写りますが、自己免疫性肺胞蛋白症の患者さんの肺をX線で見ると、白い影が多く見られます。肺炎などで、同じような所見が見られる場合、数日後には命にかかわるくらいの病態になるのですが、自己免疫性肺胞蛋白症の患者さんは、普通に生活していて息苦しいということで来院されます。
患者さんが来院して、自己免疫性肺胞蛋白症と診断したあとに、重症度を判定します。PaO2の数値を元に5段階に分けられており、1、2が軽症、3が中等症、4、5が重症となります。これまでは、軽症の場合は、経過観察、それ以上は全肺洗浄、区域洗浄という対症療法しかありませんでした。現在は、中等症以上はサルグマリン吸入療法が実施できるようになっています。ネブライザーを使用して霧状にしたものを1日2回または、1日1回ゆっくり吸い込みます。子どもでも高齢者でも比較的簡単にできる、本人の負担が少ない治療法になります。
サルグマリンの効果と副作用
サルグマリンの効果について、64人の患者さんを対象に行った臨床研究では、酸素化の改善項目が25週間でサルグマリン使用群-4.5、プラセボ群0.17となり、サルグマリン使用群のほうが酸素化が改善されているという結果が出ました1)。CT画像で見てみても、サーファクタントによってモヤモヤとした白い影ができていたものが薄くなっていることがわかります。こちらの臨床研究では、最重症例は含まれていませんでしたが、最重症例でもサルグマリンを吸入したところ、吸引前と吸引後では白い影が減少しました。現在は、最重症例を含めた臨床研究も行われています。 安全面では、赤血球や白血球の増加、咳嗽、発声障害、口腔の感覚鈍麻などの副作用が見られたものの、いずれも2%未満と低く、さらに因果関係としてサルグマリン吸入療法によるものとはわかりにくいほど軽い症状でした。効果と安全面という点で非常に期待できる薬剤であるといえます。 自己免疫性肺胞蛋白症に対するサルグマリン吸入療法は、世界で初めて日本で承認された治療法で、中等症や重症の方にも使用できます。
疾患の発症から長く経ってしまった方、診断までが遅れてしまった方は、肺活量が落ちてしまっており薬剤が効きにくくなります。早くからの治療開始が望ましいということ、また、肺の疾患であるため禁煙を強く啓蒙していくことの重要性も感じており、これらが今後の治療の課題であるといえます。
引用文献
1)Ryushi Tazawa,et al:Inhaled GM-CSF for Pulmonary Alveolar Proteinosis.N Engl J Med 2019;381(10):923-32.