Forrester分類
- 公開日: 2021/3/11
Forrester分類は何を判断するもの?
Forrester分類は、急性心筋梗塞後の患者さんにおける急性心不全の状態を評価するために、1976年に提唱されたスケールです1)。
肺動脈カテーテルで得られる、心係数(cardiac index:CI)と肺動脈楔入圧(pulmonary artery wedge pressure:PAWP)の2つの指標に基づき、急性心不全の病態をSubset1~4の4つに分類しており(図1)、良好に維持されていた心機能が、急性心筋梗塞という突然の血流の途絶によって引き起こされる心筋壊死により、急激に血行動態が破綻した場合の評価に用いられます。
図1 Forrester分類
肺動脈カテーテルから得られる情報は数値であり、客観的な評価が可能です。したがって、肺動脈カテーテルが挿入されている患者さんを管理する集中治療室において、急性心不全患者さんの病態把握と治療方針の決定に有用といえます(表)。さらに、2つの指標で急性心不全の4つの病態を把握することができるため、医師や看護師をはじめとした多職種で治療方針や予後を共有しやすくなるメリットもあります。
表 Forrester分類で判断される病態と治療方法
分類 | 病態 | 治療方針 |
---|---|---|
SubsetⅠ | ・急性心不全の状態ではない、もしくは軽症である (死亡率2.2%2)) | 安静、経過観察 |
SubsetⅡ | ・肺うっ血はあるが、低灌流による末梢循環不全はない(死亡率10.1%2)) | 利尿薬、血管拡張薬の投与 |
SubsetⅢ | ・肺うっ血はないが、低灌流による末梢循環不全がある ・循環血液量減少性ショックや右室梗塞を含む (死亡率22.4%2)) | 輸液、強心薬の投与、徐脈に対しては一時的ペーシング |
SubsetⅣ | ・肺うっ血、低灌流による末梢循環不全がどちらもある ・心原性ショックを含む (死亡率55.5%2)) | 強心薬の投与、改善がなければIABP、PCPS |
一方、評価のためには肺動脈カテーテルの挿入という侵襲的な処置が必要となる点はデメリットと考えられます。また、急性心筋梗塞後の血行動態を反映しており、慢性心不全の急性増悪など、すでに代償されている心不全患者さんの評価と治療に用いる場合は、注意が必要です。
肺動脈カテーテルの適応に関しては、『急性・慢性急性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)』で次のように記されています3)。
・適切な輸液にすみやかに反応しない心原性ショック
・適切な治療手段に反応しないショック/ニアショックに合併する肺水腫
・肺水腫が心原性であるか否かの診断
・薬物治療にもかかわらず低血圧、低灌流状態を繰り返す患者
上記に当てはまる状態の患者さんであれば、急性心筋梗塞か否かにかかわらず、Forrester分類を用いた病態把握は有用と考えられます。その一方で、重症患者さんであっても、肺動脈カテーテルを日常的に挿入することに有益性はないとの報告4)があり、肺動脈カテーテルを挿入して管理する機会そのものが減少している可能性があります。
Forrester分類はこう使う!
Forrester分類は、縦軸にCI、横軸にPAWPをとります。心拍出量は体型などにより個人差が大きいため、1分間あたりの心拍出量を体表面積で補正したCIを用いています。基準値を2.2L/min/m2として、低灌流による末梢循環不全があるかどうかを評価します。
横軸のPAWPは、肺動脈の分枝でバルーンを膨らませ、肺動脈を塞いで血流を止めた状態〔楔入状態「ウェッジ(wedge)」〕にし、カテーテル先端の孔で肺を介して左心室の圧を測定することで得られる数値です。カテーテル先端で血流を止めるため、その先の左心房圧、左心室拡張末期圧を反映しており、左心系の指標にすることができます。つまり、肺動脈楔入圧≒平均左房圧≒左心室拡張末期圧ということになります。PAWPでは、基準値を18mmHgとして、肺うっ血があるかどうかを評価します。
CI、PAWPによる評価に基づいた治療をした結果、患者さんの状態がどのように変化したかを再評価し、次の治療戦略を立てます。つまり、患者さんの状態をSubsetⅠに移行させるために、何を評価し、どのような治療を検討すべきかをスケールを使って考えます。
Forrester分類の結果を看護に活かす!
Forrester分類の結果を看護に活かすためには、以下の3点が重要です。
治療に伴う値の変化、治療の方向性の予測、ケアのタイミング・順番の見極めに活かす
Forrester分類は、選択した治療に伴う値の変化、時系列的な推移から治療の方向性を予測することができます。
急性心筋梗塞で心原性ショックとなり、肺動脈カテーテルが挿入され、大動脈バルーンパンピング(IABP:intra-aortic balloon pumping)管理となった患者さんが、CI2.4L/min/m2、PAWP26mmHgだったとします。これはSubsetⅣの状態が、IABPによってSubsetⅡに移行したと考えられ、次の段階では利尿薬が選択されると予測できます。血圧や心拍数など他の指標も評価し、利尿薬が投与できる循環動態かどうかを先に判断しておきます。
また、吸引や清拭、体位変換、リハビリテーションなどのケアを行うことにより、心筋酸素消費は増加します。SubsetⅡに移行した直後に負荷の大きいケアを行うことで、再びSubsetⅣに移行する可能性もあります。この場合は、浅い角度の体位変換から実施する、利尿薬投与の反応を評価してから清拭を行うなどの臨床判断が必要です。このように、Forrester分類で病態評価を繰り返すことで、ケアのタイミングや順番を見極めることができます。
Forrester分類による評価が絶対ではないことを理解しておく
前述したように、Forrester分類は急性心筋梗塞後の急性心不全の分類です。例えば、慢性心不全の急性増悪の患者さんの場合、PAWP23mmHg、CI1.9L/min/m2であっても、代償によって症状がないことがあります。これは、PAWPが高いからといって、利尿薬や血管拡張薬がすぐに必要になるとは限らないということです。
Forrester分類で評価する際の数値自体は絶対的ですが、現在の患者さんに必要とされる治療については、他の指標と併せて評価する必要があります。そうすることで、急性心筋梗塞後の急性心不全に限らず、肺動脈カテーテルが挿入されている患者さんの病態把握と治療の選択に、Forrester分類を活かすことができます。
肺動脈カテーテルが挿入されていない患者さんでは、Forrester分類の考え方を参考にする
肺動脈カテーテルが挿入されていない患者さんでは、Forrester分類は使用できないのでしょうか。Forrester分類の重要な視点は、急性心不全の評価を、肺うっ血と低灌流による末梢循環不全で評価しているところです。したがって、肺動脈カテーテルが挿入されていない患者さんでは、別の指標をCIとPAWPの代替とすればよいのです。
低灌流の指標としては、手足が温かいか、収縮期血圧25%以下の小さな脈圧になっていないか、平均血圧65mmHgが保たれているか、体重0.5mL/㎏/hの尿量が保たれているかなどが参考になります。肺うっ血の指標としては、起坐呼吸があるか、酸素化が悪化していないかなどで評価できます。
肺動脈カテーテルで得られる指標の代わりに、症状や身近な検査データを総合的に見たうえで、SubsetⅢあるいはSubsetⅣのような重症と判断される場合には、モニタリングや重篤化回避の対応を優先します。
引用文献
1)Forrester JS,et al:Medical therapy of acute myocardial infarction by application of hemodynamic subsets(second of two parts).N Engl J Med 1976;295(24):1404-13.
2)Forrester JS,et al:Correlative classification of clinical and hemodynamic function after acute myocardial infarction.Am J Cardio 1977 ;39(2):137-45.
3)日本循環器学会,他:急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版).(2021年2月9日閲覧)http://www.j-circ.or.jp/old/guideline/pdf/JCS2017_tsutsui_h.pdf.p.80.
4)Harvey S,et al:Assessment of the clinical effectiveness of pulmonary artery catheters in management of patients in intensive care(PAC-Man): a randomised controlled trial. Lancet 2005;366(9484):472-7.