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びまん性神経膠腫に20年ぶりの新薬登場

  • 公開日: 2026/6/30
  • # 脳疾患
  • # がん
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日本セルヴィエ株式会社が、「国内初のIDH1/2遺伝子変異陽性神経膠腫への分子標的薬『ボラニゴ錠』発売―約20年ぶり、びまん性神経膠腫に新たな治療薬が登場―」と題したメディアセミナーを開催しました。ここでは、齋藤竜太先生(名古屋大学大学院 医学系研究科脳神経外科学 教授)の講演「IDH遺伝子変異陽性神経膠腫治療の新たな選択肢―ボラニゴへの期待―」をレポートします。


神経膠腫(グリオーマ)とは

 神経膠腫(グリオーマ)とは、脳そのものから発生する原発性脳腫瘍の一種です。脳は主に、神経細胞と神経膠細胞(グリア細胞)という2種類の細胞から構成されており、神経膠腫は神経膠細胞から発生します。がん全体で見るとまれな疾患ではありますが、原発性脳腫瘍の約4分の1を占め、子どもから高齢者まで幅広い年齢で発症します。

 また、神経膠腫は浸潤性が非常に高く、治癒というものが定義されていません。そのため、一度診断されると、ずっと付き合っていかなければならない疾患となります。

神経膠腫の種類と遺伝子変異

 神経膠腫は、成人型びまん性膠腫、小児型びまん性低悪性度膠腫、小児型びまん性高悪性度膠腫、限局性星細胞系膠腫、グリア神経細胞系および神経細胞系腫瘍、上衣系腫瘍の大きく6種類に分類され、最も多くみられるのが「成人型びまん性膠腫」です。

 成人型びまん性膠腫はさらに、星細胞腫、乏突起膠腫、膠芽腫に分けられ、悪性度に応じてグレード2からグレード4に分類されます。グレード2は低悪性度腫瘍、グレード3とグレード4は悪性腫瘍とされており、数字が大きくなるほど悪性となります。

 神経膠腫の発症にかかわっていると考えられているのがIDH遺伝子変異(IDH1/2遺伝子変異)です。星細胞腫や乏突起膠腫の多くはIDH遺伝子変異を伴います(膠芽腫はIDH遺伝子変異を伴わない)。最初の段階で起こる遺伝子の異常のため、早期にIDH遺伝子変異を標的とした治療を開始することで、最大限の効果が得られる可能性があると考えられています。

神経膠腫の治療

 脳には血液脳関門というバリアが存在し、薬剤を投与しても脳内に届きにくく、薬物療法では十分な効果を得ることが難しいため、まずは安全に最大限の腫瘍摘出をめざして手術を行います。

 グレード3やグレード4といった悪性腫瘍であれば、術後に放射線治療や化学療法の実施を検討しますが、悪性度がそれほど高くないグレード2の場合は、治療経過を見ていく「Watch&Wait」という手段を取ることもあります。

 しかし、びまん性神経膠腫は正常組織との視覚的な判別が難しく、脳実質内の深くまで浸潤しているため、摘出後も残存した腫瘍細胞が周囲の組織に浸透して増殖し続け、いずれは進行や再発を起こすことになります。

ボラニゴの有効性と安全性

 今回登場した「ボラニゴ錠 10mg」(一般名:ボラシデニブ クエン酸水和物、以下「ボラニゴ」)は、びまん性神経膠腫に対する新たな標準治療として20年ぶりに認められた分子標的薬です。

 変異型IDH1およびIDH2の酵素活性を阻害することで、腫瘍細胞におけるがん代謝物の産生を抑え、腫瘍細胞の分化を誘導することなどにより、腫瘍の増殖を抑制します。さらに、高い脳移行性をもち、血液脳関門を通過して脳深部の残存腫瘍細胞を標的とできるのが特徴で、グレード2の段階、つまり早期に治療を開始することにより、最大限の効果が得られると考えられています。

 ボラニゴの有効性と安全性は、国際共同第Ⅲ相試験「INDIGO試験」によって検証されました。IDH遺伝子変異陽性で、グレード2に該当する星細胞腫あるいは乏突起膠腫の患者さんを対象とし、ボラニゴ群とプラセボ群に割り付けて治療経過を比較したところ、無増悪生存期間(PFS)の中央値がプラセボ群の11.1カ月に対してボラニゴ群は27.7カ月と、有意な延長が認められました1)。また、ボラニゴ群はプラセボ群に比べ、次の治療までの期間(TTNI)を大幅に延ばす結果も出ています1)

 QOLへの影響も評価されていますが、言語学習、精神運動機能、ワーキングメモリといった各種検査においてプラセボ群の結果とほぼ変わらず、ボラニゴによってQOLが下がってしまうようなものはありませんでした。加えて、IDH遺伝子変異がある患者さんはてんかんを起こしやすいことが知られていますが、ボラニゴを服用している患者さんは、抗てんかん薬の追加なしで経過できる割合が若干高いということもわかっています1)

 ボラニゴによる副作用の発現率は約65%となっており、主な副作用として、ALT増加、AST増加、疲労、悪心、GGT増加、下痢などが挙げられています1)。患者さんが苦しむような副作用はほとんどないと考えますが、肝機能障害の出現には十分注意が必要です。

服用時の注意点

 ボラニゴは1日1回、空腹時に経口投与します。食事の影響を避けるため、食事の1時間前から食後2時間までの間の服用は避けるように指導します。

 薬剤の相互作用については、実臨床でそれほど困ることはないと考えられますが、いくつか併用注意の薬剤が存在します。具体的には、ルボックスやデプロメールをはじめとする抗うつ薬、フェニトインやカルバマゼピンといった抗てんかん薬などが挙げられており、特に抗てんかん薬は、脳腫瘍の患者さんに使われることがあるため、注意しなければなりません。また、脳浮腫に対してデキサメタゾンが用いられることがありますが、デキサメタゾンは他のアレルギー性疾患などで使用されている場合もあるため、注意が必要です。

 ほかに、喫煙に関してはボラニゴの有効性が減弱されるおそれがあります。

 ボラニゴの登場により、次の再発までの期間を延ばし、何度も治療を受けなければならないような患者さんを救える可能性があります。びまん性神経膠腫は30代や40代といった若い患者さんも多く、再発があると仕事から離れてしまうというケースも少なくないため、社会生活を維持できるという点でも非常に期待できる薬剤であると考えています。

引用文献

1)日本セルヴィエ:国際共同第Ⅲ相(AG881-C-004)試験(承認時評価資料).(2026年7月1日閲覧)https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37272516/

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