第8回 褥瘡の感染の見極めと治療
- 公開日: 2009/12/13
今回は、創部の感染について考えていきます。 創が感染している場合は、どのような創でも治癒には向かいませんので、バクテリアの制御に優先してとりかかる必要があります。 感染の兆候は、創部及び創周囲皮膚の状態を観察して判断していきますが、慢性創傷では目に見える感染兆候が出てこない事もあると言われています。今回は慢性創傷における細菌の影響と、感染に至った場合のバクテリアの制御について解説したいと思います。
慢性創傷における細菌の影響
慢性創傷には多かれ少なかれ細菌は存在しています。細菌が創に対して悪影響を及ぼしているかどうかを見極めます。創傷に対する細菌の関わり方は、「創汚染」「コロニー形成」「危機的コロニー形成」「創感染」の4つに分けられます。
(市岡滋:慢性創傷・難治性潰瘍へのアプローチ・細菌の制御・感染対策、Home Care MEDICINE 2004;5(11):35-37.より改変)
慢性創傷は、「創汚染」「コロニー形成」の状態であれば、細菌は創に悪影響を与えることなく、創は治癒に向かいます。 しかし、目に見える感染兆候がなくとも、適切な処置をしていても創が治癒に向かわなかったり、肉芽の色がうす暗い色をしていたり、滲出液が増加するなどの場合、クリティカルコロニゼーションの状態にある可能性があります。クリティカルコロナイゼーションは、明らかな感染兆候は見えないが、創面に付着した菌が増殖して創治癒の妨げとなっている状況です。このような状態の時、一時的に局所に抗菌剤を使用することでバクテリアを減少させ、創治癒に向かうことがあります。後に記載する抗菌剤の使い分けを参考になさってください。
感染創への対処方法
前回お話したとおり、創感染の予防には適切な方法で創周囲と創の洗浄を行う事がとても重要です。 壊死組織がある創の場合、壊死組織はバクテリアの温床となりますので、外科的にデブリードメントを行うなど、医師と相談しながら適切な方法で壊死組織の除去に努めます。 ポケットやろう孔状になっている個所は洗浄しにくく、壊死組織や古い軟膏・膿などが除去しにくいですが、しっかりと圧力をかけ十分な量の水で洗浄を行い、創の清浄化をはかってください。(第7回 参照) 感染が起きてしまった場合は、全身にわたる感染なのか局所の感染なのかを見極め、それぞれ対処していく必要があります。全身にわたる感染の場合は、点滴などの抗生剤の投与が必要な場合もありますので、主治医とともに検討していきます。 局所に腫脹・熱感がある場合、創部に触れてみてブヨブヨした感じがあれば、皮下で膿瘍となっている事も考えられますので、切開して膿を排出します。その後、創内をよく洗浄し、ドレナージに努めていきます。 感染した創局所には、抗菌性の薬剤(軟膏)を使用していきますが、各抗菌剤の特徴を知って、それぞれの創に適したものを使用していきます。
外用薬の選択方法
抗菌性の薬剤は、様々な製剤がありますが、それぞれの器材の特徴などもあり、使い分けが重要です。 以下に抗菌剤の使用例と選択の理由をご紹介したいと思います。 なお、薬剤の使い分けは、局所だけでなく全身状態も確認しながら、主治医に相談をしてください。 乾燥した壊死組織が付着している場合 乾燥した壊死組織が付着し、創周囲の炎症が著明になってきた場合には、ゲーベンクリームなどを選択しています。 理由として、早期に壊死組織を外科的デブリードメントする必要がありますが、現段階では患者さんに痛みを伴い、また出血の危険性が非常に高いと考えられます。 ゲーベンクリームは、軟膏の基材が水様性で水分が多い(水分を60%含む乳剤性基材)ため、乾燥した壊死組織の融解を進めることができます。 滲出液が多い創に使用した場合は、肉芽が浮腫になったりすることもあるので注意して使用して下さい。
滲出液が多く、ポケットの無い創 滲出液が多くポケットがない場合は、カデキソマーヨウ素を使用していることが多くあります。 カデキソマーヨウ素は、基材に含まれるカデキソマービーズにヨウ素を含有させています。滲出液がカデキソマービーズに吸収され膨張することで、ビーズ内のヨウ素が徐々に放出され、抗菌効果が長く保たれます。 深いポケットを有する創ですとポケットの内部にビーズが入り込んでしまい、洗浄しても除去しにくくなりますので注意が必要です。ポケットのある創に使用する場合には、ポケット内部もしっかりと圧をかけて洗浄し、ポケット内部に古い軟膏が残存しないように注意が必要です。 滲出液が多く、深いポケットがある創 ポケットがある創の場合は、ユーパスタなどのイソジンシュガーを用いることが多くあります。 有効成分のイソジンによって抗菌効果を発揮し、白糖が浸透圧によって滲出液を吸収します。カデキソマーヨウ素のようにヨウ素成分を除放する効果はないので、滲出液が多量の場合は一日に2度交換する場合もあります。 ※滲出液を吸収させるタイプの抗菌剤を長期に使用しすぎると、抗菌剤の成分によって肉芽の増殖が抑制され、表皮がポケット内の皮蓋に巻き込んでしまわれる現象が起きることがあります。感染兆候がおさまったら抗菌剤の使用は中止し、他の治療方法に切り替えるようにしましょう。
以上をご参考に、バクテリアの制御につとめ、治癒に向かうように関わります。 感染に移行させないため、また感染した創を早期に治癒に向かわせるために、創および創周囲の皮膚の清浄は重要ですので、第7回を参考になさってください。