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【連載】看護研究はじめの一歩

第5回 実験法を使った研究

  • 公開日: 2009/7/18
  • 更新日: 2020/10/22

実験法とは

今回は実験法を使った研究について紹介しましょう。 「実験」というと、理科室、ビーカー、アルコールランプなどをイメージする人が多いかもしれません。

しかし、実験というのは、こうした科学実験を示すだけのものではありません。 「実験」とは、「因果関係」についての仮説を検証するための研究法をさすのです。

実験法の基本構造

「因果関係」とは、「AをしたらBになった」という関係を示すものです。 これを臨床にひきつけて考えていきましょう。

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むかしの話です。ある看護師が生まれて間もない赤ちゃんをこっそり短時間だけ日光浴させていたそうです。 そうしたところ、日光浴させていた赤ちゃんたちは新生児黄疸がひどくならず、全員軽症で済んだということです。 なんだか、日光浴と新生児黄疸の軽減は因果関係がありそうですね。

でも、この結果から「日光浴をさせると新生児黄疸が軽減する」と言っても、それは経験則にしかなりません。 では、日光浴と新生児黄疸の因果関係を科学的に検証するにはどうしたらいいでしょうか。

その前に「日光浴をさせると新生児黄疸が軽減する」という経験則に、ツッコミを入れてみましょう。

まずすぐ思いつくのが、「本当に黄疸が軽減したの?日光浴をさせなかった赤ちゃんとちゃんと比較した?」ということです。 そうです。 因果関係を科学的に証明するには、実験する群(ここでは日光浴をする群)のほかに対照群(日光浴をしない群)を設定する必要があるのです。 第2のツッコミは、赤ちゃんの特徴についてです。

「日光浴をさせた赤ちゃんは、もともと黄疸が少なくて健康な赤ちゃんだったんじゃないの?」と言われてしまったらどうでしょう。 対照群が例えば未熟児が多かったり、血液型不適合の赤ちゃんが多かったりすれば、日光浴以前のスタート時点から差がついていることになってしまいます。 そうです。

実験群の赤ちゃんも対照群の赤ちゃんも、できるだけ均一であることが望ましいのです。 最初の「研究の芽」は経験則から出てくるものなのですが、これを科学的に証明するには、上記のツッコミを踏まえ、以下に示したような「実験法の基本構造」に則る必要があります。

実験法の基本構造

実験法の進め方

1.仮説の設定

まずは仮説を設定します。最初は簡単に考えていきましょう。

「新生児に日光浴をさせると、新生児黄疸が軽減する」と設定しました。

この仮説のなかで原因にあたる変数(ここでは日光浴にあたります)を独立変数、結果にあたる変数(ここでは新生児黄疸)を従属変数といいます。 

この段階ではまだ独立変数、従属変数があいまいです。ただ「日光浴」と言っても、どれくらいの照度の日光のときに、何分間、どれくらいの頻度で何日くらい日光浴すればいいのでしょう。また「新生児黄疸」と言っても、いつの時点の黄疸なのか、またどんなスケールで測定するのかがわかりません。

仮説を実験に移すには、今指摘した部分を詳しくして「作業仮説」を設定する必要があるのです。 作業仮説の例ですが「生後3日目の新生児に10分間の日光浴を3日間行った群はそうでない群にくらべ、生後6日目の黄疸指数が低い」と設定しました。 これはひとつのモデルです。

実際の作業仮説は、思いつきで設定するのではなく、先行研究を参考にしたり、赤ちゃんのコンディションなどを考えたりして設定していきます。

2.条件の統制(コントロール)

実験で明らかにしたいのは独立変数(日光浴)と従属変数(新生児黄疸)との関係だけです。

そのため独立変数以外に従属変数に影響を及ぼすと考えられる変数(これを「かく乱変数」といいます)をできるだけ除外する必要があります。 先にも述べましたが、未熟児や血液型不適合の赤ちゃんが混じっていたりすると、黄疸への影響が大きく出るために、日光浴の効果を見極めるのが難しくなります。

そこで、こうした赤ちゃんをはじめから被験者としないよう、被験者とする赤ちゃんの条件を定めていきます。

3.被験者の無作為(ランダム)な振り分け

条件を設定して、十分な人数の赤ちゃんが集まったら、赤ちゃんのグループを、無作為に2群(実験群・対照群)に分けます。 無作為に分ける方法には、くじ引きや、サイコロ・乱数表などがあります。

4.従属変数の測定(事前測定:a・b)

実験を始める前に、実験群・対照群の2群に分けた赤ちゃんたちの黄疸指数を測定します。  スタート時点では実験群・対照群の間で差がないことが重要です。

5.独立変数の操作(実験的操作)

独立変数の操作(日光浴)を行います。行うのは実験群に対してのみです。 実験的操作の内容ですが、事前に決めた方法・スケジュールを厳密に守って実施します。

6.独立変数測定(事後測定:c・d)

実験的操作が終わったあとに、また独立変数(黄疸指数)を測定します。 事前測定のときと同じように実験群・対照群のそれぞれ全員を測定します。  測定し終わったら、測定結果を図に表現してみましょう。 以下の図は架空の実験結果です。

縦軸は「黄疸指数」です。実験前と実験後の測定結果(平均値)を、実験群を赤線で、対照群を青線で示しています。 どのような図が書けた場合、仮説が支持されたということになるのでしょうか。

測定結果の図

まず、実験前のスタート時点での実験群・対照群の黄疸の程度が同等であることが必要です。 また、日光浴を経験した実験群の黄疸が実験前に比べて改善していること、またその改善度が日光浴を経験していない対照群よりも高いことも条件になります。 この3つの条件が満たされたとき、仮説は支持されたということになります。

現在、核黄疸の予防のために新生児に行われる光線療法は、エビデンスに基づいた治療方法ですが、元はと言えば日光と黄疸の関係に気づいた看護師の発想からなのです。 そうした発想が練り上げられて数々の実験が行われ、光線療法という確立した治療法につながったのです。

実験法利点と弱点

実験法の利点

実験法は独立変数と従属変数の因果関係をより明確に調べられるため、わかりやすく、初心者向きの研究方法だと思います(※実際は奥が深いのですが、他の研究法に比べて明快な部分が多いです)。看護技術のエビデンスを明らかにするために、臨床看護師のみなさんにはどしどし研究を積み重ねていってほしいと思います。しかし、当然のことながら弱点も多いです。

実験法の弱点

実験法では、結果に影響を及ぼす「かく乱変数」をできるだけ少なくする必要があります。 でも、人間を被験者とする場合,色々な個性をもっていますから、かく乱変数をコントロールすることはとても困難です。 人間の場合、条件にあった被験者を探すのに結構な労力が要るのです。

被験者が集まらないために、グループを無作為に分けることができない場合も多々あり、それに応じての工夫も様々あります。 弱点の2つめは、実験的操作を行うことで利益・不利益の問題が生じることです。 先の日光浴の問題ですが、日光浴をしてもらえない対照群の赤ちゃんには不利益が生じる可能性があるわけです。

またその逆で実験群に選ばれることが不利益につながる場合もあります。

利益と不利益の差があまりに大きい実験は、倫理的に認められません。

倫理的にパスした実験法であっても実験的操作の安全性の確認は、慎重に行う必要があるでしょう。 実験的操作の結果、万が一問題が起こった場合の対処方法についても検討しておく必要があります。  最後に指摘する弱点は、は実験法そのものの方法論についてです。

独立変数と従属変数の2つの変数の因果関係を明確にするのが実験法ですが、現実の世界は、2つの変数だけから成り立つ世界ではありません。 現実の世界では色々な変数が影響し合ってひとつの結果を出しているのです。

そのため、現実離れした手法である実験法で得られた結果は、一体どこまで現実にいかせるのかという批判は常にあります。 こうした批判に対応するために、実験法には実験室の中で厳密な条件統制を行う「実験室実験」のほかに、日常生活のなかで行う「フィールド実験」というタイプの実験もあります。

実験法の研究計画

上記の内容を踏まえて実験法の計画を立案していきます。 計画が立案できたら、何度もリハーサルを重ねて推敲してみてください。

1.研究期間
2.被験者 a.被験者の条件 b.説明と同意の方法 c.実験群・対照群の割り当て方法
3.作業仮説
4.独立変数の操作(実験的操作)の計画 a.実験的操作の内容・方法・回数・頻度 b.安全性の確認 c.問題が生じた場合の対処方法
5.従属変数の測定方法の計画 (測定方法には観察法、面接法、質問紙法、測定などがある)
6.分析方法 (事前測定結果の実験群・対照群間の比較、事後測定結果の実験群・対照群間の比較、実験群内での事前・事後の測定結果の比較、対照群内での事前・事後の測定結果の比較)

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