第16回 日本在宅ケア学会学術集会
- 公開日: 2012/3/29
平成24年3月17日(土)、18日(日)の両日、東京・千代田区のホテルグランドパレスにて、第16回日本在宅ケア学会学術集会が開催されました。
ここでは、平成23年6月22日に公布された「介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律等」と平成24年度の診療報酬/介護 報酬同時改定を受けた公開講座「2012年度に施行される法律改正を踏まえた今後の在宅ケアの展望」をリポートします。
今回は日本在宅医学会との初めての合同大会となり、
多くの参加者が会場を埋めた。
在宅へのシフトを見据えた同時改定
公開講座では、看護と介護、それぞれの立場から講演が行われました。始めに、日本在宅ケア教育研究所代表取締役で日本在宅ケア学会監事の内田恵美子さんが、看護職の立場から今回の改定について解説しました。
内田さんはまず、在宅医療へのシフトを見据えた今回の改定について「果たして在宅の現場が受け止められるのか?」という感想を持ったと言います。
続けて今回の改定のトピックとして、『医療ニーズの高い患者さんの要件の緩和』『がんと褥瘡の認定看護師・専門看護師の同行評価新設』『看護補助 者・精神保健福祉士との同伴や複数名看護への評価新設』『病院と訪問看護ステーションとの退院時の連携評価』『早朝・夜間・深夜訪問の評価』『短時間・頻 度の高い患者ニーズへの対応』『定期巡回・随時対応サービス、複合型サービスの新設』といった項目を挙げ、それぞれの改定の内容、患者さん側と訪問看護ス テーション側、双方のメリット・デメリットを説明しました。
地域連携の発展には利用者ニーズの把握が欠かせない
内田さんは、地域包括ケアシステムについても触れ、新設された定期巡回・随時対応サービス、複合型サービスでは地域連携を評価しているものの、訪問看護ステーションの経営的に見ると、医療ニーズの高い重度者での連携は収支のバランスが難しくなるのではないか、と分析。
さらに、自身が経営する5つの事業所における吸引や経管栄養ほか医療処置が必要な患者さんの利用状況の実態を挙げて、「実際のニーズを把握し報酬に 反映しないと、“連携”という言葉だけで終わってしまう可能性がある。医療処置が必要なのにお金がないからと高齢の介護者が処置したり、医療費の安いとこ ろに移行したりしていくのでは」と危惧し、「連携体制を発展させるには見直しが必要」とまとめました。
その後、訪問看護の活性化に向けたアクションプランを発表。ニーズの把握や人材確保、事業の安定化に向けた施策などについて説明し、講演を締めくくりました。
次に講演した京都女子大学教授で日本介護福祉学会会長の井上千津子さんは、始めに「今回の改正は、重度者の医療サービスを中心に行われたものであり、それを正面から受け止めていかなければいけない」と述べました。
井上さんは、「在宅ケアに影響を及ぼす改正点」として4つ挙げ、それぞれの改正のポイントについて解説。特に、痰の吸引などを介護福祉士が職務とし て行うことの合法化については、「この研修時間・内容で安全性は確保できるのか?」といった課題や、現場の介護福祉士たちの「事故が怖い」「処置をしても 介護職の待遇改善にならない」といった声を紹介。
さらに、生活支援の基本的な訪問時間の短縮については、「生活環境を整える生活援助は、介護の根幹であり疾病の予防を担っている。高齢者が生活を継続していくための最低の保証である生活援助・家事援助の社会的意義を認識してほしい」と強調しました。
【DATA】
学術集会事務局 慶應義塾大学看護医療学部内
E-mail:16zaitaku@sfc.keio.ac.jp