第29回 神経・筋の興奮と膜電位
- 公開日: 2015/12/28
- 更新日: 2021/1/6
神経や筋などの「興奮性細胞」は、電気的な興奮によって情報を伝えます。臨床の場で、最も頻繁にその事実に触れる機会と言えば、おそらく心電図でしょう。
では、心電図のあの波形はいったい何を記録したものなのか、正確に説明できるでしょうか? そもそも「興奮が伝わる」とは、いったいどんな現象なのでしょうか?
実は、これらに答えるために必要最小限の事柄を学ぶことによって、とかく難解なものとして敬遠されがちな電気生理学の基本概念を、効率よく身に付けることができるのです。
まず「電位」を理解しよう
電気にはプラスの電気(正電荷)とマイナスの電気(負電荷)があるということはご存知でしょう。生体において、この電荷を担う粒子として重要なものは、Na +(ナトリウム)・K +(カリウム)・Cl ー(クロール)などのイオンです。生体の電気的現象は、これらのイオンの移動によって実現されています。
電荷が移動することを「電流が流れる」と表現し、その強さはアンペア(A)などの単位で表されます。ところが、例えば心電図の縦軸の単位はミリボルト(mV)であり、これは電流ではなく電位差(電圧)の単位です。
あとで述べる「活動電位」という語にも登場しますが、まずはこの、よく耳にするけれどもつかみづらい概念である「電位差」とは何であるのかを、理解しておきましょう。ここで必要となる知識は、「プラス同士/マイナス同士の電荷は退け合い、プラスとマイナスは引き合う」ということだけです。
いま図1のように、向かって左のほうには正の電荷が、右のほうには負の電荷が散らばっている状況を考えてみましょう。
図1 電位とは、正電荷にとっての「高さ」に相当する概念