【連載】医療安全管理室と現場、相互の高い意識が 患者さん・医療者の安全を守る
第1回 医療安全管理活動のキーマンは看護師資格をもつ担当者
- 公開日: 2015/11/8
医療の質や安全性に対する社会的関心はますます高まり、医療安全対策は今や医療現場での最重要課題の一つとなっています。中でも、院内の安全管理を牽引する担当部署と現場を支える多職種の関係性は、その対策の徹底を大きく左右するといっても過言ではありません。
今回は、安全対策製品の導入によって、医療安全に対する意識をより高めた成功例として、東大阪市立総合病院での取り組みを紹介します。
東大阪市立総合病院が誇る医療安全管理活動のキーマンは、看護師資格をもつ担当者
中小企業が集中する人口50万人の中核市、大阪府東大阪市。この中河内圏の住民に急性期医療を提供する東大阪市立総合病院は、地域がん診療連携拠点病院、地域医療支援病院、災害拠点病院など、地域の中核病院としてのさまざまな機能をもっています。
同院の医療安全管理室・室長の餅田佳美さんは、医療安全対策を講じる院内の中心的存在。餅田さんの一日は、各科から寄せられるインシデントレポートをチェックすることから始まります。
「当院には後期高齢患者さんが多く入院されているので、やはり転倒・転落に関するインシデントが多いですね。続いて内服薬、チューブに関するトラブルが上位を占めています」と餅田さん。
インシデントの内容によっては、餅田さんが現場に出向き、聞き取り調査をしたり、リンクナースとともに院内をラウンドして改善策を考えます。
また、マニュアルの整備や、看護局の協力のもと看護師向けの研修、勉強会などの企画・運営も行います。
「転倒・転落の勉強会では、その要因から対策を考えられるように、筋力低下については理学療法士に、薬の副作用による眠気やふらつきについては薬剤師に講師をお願いしました。あらためて患者さんをみる観点が養われ、好評でした」(餅田さん)
同院では、勉強会で得られた転倒・転落のアセスメント項目を電子カルテに反映させ、全患者さんを対象に入院後7日間、毎日アセスメントを行うようにしました。
すると、それまで年間40人程度発生していた転倒・転落事象が、20人程度に減少したのだそうです。一方、マニュアルづくりには苦労して取り組んだものも多いといいます。
「深部静脈血栓予防のためのフットポンプ導入では、マニュアル作成に2年を要しました。フットポンプの使用には医師の判断が必要で、たたき台をつくり、医師に承認を得る形で完成させました」と餅田さん。
医療安全への意識を根づかせるためには、勉強会のような即効性、そして長期戦もいとわないねばり強さが必要とされるようです。
院内ラウンドは気づきの宝庫。医療安全上の気になるポイントは頭にメモしておく
医療安全管理で大事なことは、患者さんに安全な医療を提供し、信頼関係を築くこと。その立場から安全対策製品を選定するのも餅田さんの重要な役割です。機能が日々進化し、新しい製品や機器が登場する中、常にアンテナを張って情報収集をしています。
「一番多いのは、やはり病院出入り業者からの情報収集ですね。学会などにも出席して、新しいデータや情報も入手しています。
また、院内をラウンドする中で気になったことは頭に留めておき、他職者からヒントをもらったり、気になることを伝えておくなどして、優先順位の高い問題から解決しています」
そうした中で餅田さんが注視していたものの一つが、末梢静脈カテーテルの固定に使うテープでした。特に処置の多い部署では、ドレッシング材を固定するテープをあらかじめ何本も切って処置台の端に貼っておき、余剰分は廃棄していました。
「テープを用意する時間がもったいないし、何より非衛生的だなと気になっていました。あるとき、フィルムドレッシングとテープがセットになった『フィックスキット・PV』を勧められ、それを実際に使ってみると、個別包装で衛生的だし、片手で固定できるのが便利で、しかも貼付後の見た目もきれい。ドレッシングには吸収パッドが入っているので、出血してもそこで吸収されるのが画期的でした」
そこで餅田さんは、関係スタッフと話し合い、カテーテル固定の処置をすることが多く、スピードが求められる救急外来と放射線科に、まずは導入することを決定しました。
「医療安全に関する製品を導入するとき、私はいつも安全性と効率性、経済性の3つのバランスを考えます。例えば、効率的でも手間を省くことでかえって安全性が損なわれるのであれば、あえて効率の悪いほうを選ぶこともあります。フィックスキット・PVの場合は、ほかのテープと比べてコストが割高なことを考慮して2部署にしました」(餅田さん)
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