第5回 摂食嚥下リハビリテーションー嚥下訓練と食支援
- 公開日: 2016/1/18
- 更新日: 2021/1/6
本連載では、摂食嚥下障害を初めて学ぶ方も理解できるよう、摂食嚥下障害の基本とともに、臨床症状や実際の症例を通じて最新の嚥下リハ・ケアの考え方を解説します。
「嚥下リハ」とはどんなもの?
摂食嚥下リハビリテーション(嚥下リハ)というと、どういうことがイメージされるでしょうか?「嚥下リハといえば嚥下訓練!」というイメージを持っている方も多いかもしれません。私が診療をしていると、一般のご家族の方からも「どんな嚥下訓練がいいですか?」と質問されることがあります。
嚥下障害の患者さんへの対応、嚥下リハは訓練だけではありません。訓練以外の要素の方が大きい場合も多々あります。訓練以外の要素、それは「食支援」という考え方です(図1)。
もちろん「訓練」と「支援」の手技は重複する部分も多く、意識せずとも「訓練」と「支援」をバランスよく行っている場合も多いですが、ここでは意識して2つを分けて考えたいと思います(スペースの都合上、手技の詳細には触れられませんので他書を参照して下さい)。
嚥下訓練
これまでの嚥下リハは、どちらかというと脳卒中の回復期の嚥下障害を中心にして発展してきました。回復期の基本的な考え方は、「誤嚥性肺炎を起こすことなく、廃用*を防止し、訓練しながら全身の回復とともに嚥下機能の回復を待つ」というものであり、現在広く行われている種々の嚥下訓練ができました。嚥下訓練は便宜上、間接訓練と直接訓練に分けられます。
*廃用:活動性の低下に起因する機能低下.活動性が低下することによって本来はできていたことができなくなること
間接訓練
間接訓練とは、「食べ物を用いない」訓練であり、イメージとしてはスポーツでいう筋肉トレーニングや柔軟体操に匹敵します(表1)。その目的は機能改善や機能維持、なかには食事前の準備運動であり、経口摂取している場合も、していないも場合も適応可能です。
この訓練のいいところは、食べ物を使わないために誤嚥のリスクが低く、比較的安全に行えるところであり、医療職だけでなく介護職や家族もできるものが多いことです。
一方、短所としては、みるみる効果が出るものではなく、数カ月して改善ありとなる場合や、数カ月して改善はないが機能低下がないので効果ありといった場合もあります。そのため、しっかりと目的を持って、長い目で経過観察し再評価を行うことが重要です。
直接訓練
直接訓練は「食物をもちいた訓練」であり、「嚥下は嚥下をすることで最も訓練できる」という考えの下に行われます(表2)。
姿勢や食品を工夫することで、誤嚥リスクの少ない比較的安全な嚥下を繰り返し行わせ、その結果として嚥下機能の改善・維持を期待するものです。実際に食べ物を嚥下できるので「楽しみ」にもなり、訓練のモチベーションも上がりますが、誤嚥や窒息のリスクがあるので危機管理をしっかりして行う必要があります。
食支援という考え方
みなさんが臨床で感じられていると思いますが、現在の嚥下障害で増えつつあるのは脳卒中回復期よりも慢性期や認知症の患者さんです。慢性期は、その名のとおり慢性的な状態であり、廃用の部分は機能回復が図れることもありますが、多くは回復が頭打ちです。そのため、慢性期は機能の回復ではなく、今ある機能を活かしたリハがポイントとなります。
要するに、回復期の嚥下リハは「キュア=訓練で治す」という治療戦略であるのに対し、慢性期の嚥下リハは「ケア=今の機能を最大限に活用できるよう支援する」という「食支援」の考え方が求められます。
食支援は、舌の動きを良くする、喉頭挙上を良くするといったような「患者さんを変えること」ではありません。患者さんを取り巻く「周りが変わること」です。
具体的には、食べやすい食事を提供する、食べやすい食事環境を提供する、誤嚥しにくいポジショニングを選ぶなど、患者さんが変わらなくても、周りが視点を変えることでより安全で快適な食生活を送れるようにすることです(表3)。
臨床では、「嚥下障害の患者さん」とひと括りにするのではなく、その患者さんの疾患や病態に合わせて嚥下訓練と食支援をさまざまな割合で混ぜながらケアにあたるようにしましょう。
臨床Q&Aスタートです!
5回に分けて摂食嚥下障害に関する概論・概念を解説してきました。十分とはいえませんが、考え方としてはイメージが掴めたと思います。
次回からは、各論として臨床Q&Aがスタートします!
どのように摂食嚥下障害にアプローチすればいいかを、実際に臨床でよく聞く質問に答えるかたちで進めていきます。ぜひ最新の摂食嚥下に関する知識と技術を自分のものにして下さい。そして実臨床に反映させて、摂食嚥下障害に関わることの大切さや面白さ、やりがいを体感してください。
この連載をきっかけに、皆さんの嚥下障害に対する目線が変わることで、「嚥下難民」と揶揄される高齢者の「食」に少しでも彩が添えられることを願います。