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【連載】看護に役立つ生理学

第33回 トロンボプラスチンとは?

  • 公開日: 2016/2/11
  • 更新日: 2021/1/6

生体の維持に不可欠な「止血」の機構は、血小板や凝固因子が相互に作用しながら協調することで実現されています。
そのシステムの全貌はきわめて複雑ですが、臨床検査や薬剤に関係する事柄を中心に、止血機構についての知識を整理しなおしてみましょう。


トロンボプラスチンとは?

PTの測定で用いられる「組織トロンボプラスチン」とは、簡単に言えば組織因子と同じようなものであり、詳しい構造が明らかになる前から、外因系の引き金を引く物質として抽出され、試薬として用いられていました。

この物質を血漿に加えれば、外因系(および共通系)のルートによる凝固反応を起こすことができます。

やがてこの組織トロンボプラスチンは、現在「組織因子」と呼ばれているものと、リン脂質からなっていることが明らかになりました(図)。

生体で実際に外因系の反応が起こる際には、組織因子と、血小板の膜などに存在するリン脂質とが、血漿中の凝固因子とともに複合体を形成することで開始されるのです。

そこで、「組織トロンボプラスチンから組織因子を取り除いたもの」という意味で、このリン脂質の部分だけを指して「部分トロンボプラスチン」という別名で呼ぶようになりました。

このリン脂質(部分トロンボプラスチン)は、組織因子と結合して外因系凝固を起こす以外にも、内因系や共通系での反応にも広く関与しています。

したがって、部分トロンボプラスチンに相当する物質を血漿に加え、さらに異物と接触させてやれば、内因系・共通系の凝固を再現することができます。これがAPTTの原理です。

異物との接触は単にガラス器具に血漿を入れるだけでも実現されているわけですが、測定条件によるバラつきが大きな問題でした。

そこで、あえて異物に相当する物質を添加することによって接触を人為的にコントロールする方法が採られるようになり、この添加処理を指して「活性化」という語が頭に付いています。

結局、PTとAPTTの試薬の違いは、「リン脂質(部分トロンボプラスチン)を共通に含み、組織因子とともに外因系を動かすか(PT)、あるいは異物に相当する物質によって内因系を動かすか(APTT)」の違いであると理解することができます。

PTに「プロトロンビン」という語が入っているのは歴史的な事情によるもので、かつてはこの検査で凝固時間が延長するのはプロトロンビンの欠乏によるものと考えられていたためです。

プロトロンビンは確かに共通系の凝固因子の一つですから、もちろんそれもひとつの原因になりますが、そのほかの外因系・共通系因子の欠乏によってもPT延長をきたします。

組織トロンボプラスチンと部分トロンボプラスチン説明図

図 組織トロンボプラスチンと部分トロンボプラスチン

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* 【PTとAPTT】 PTとAPTTの違いは?止血機構を知ろう

どんな局面で有用か?

具体的にPTやAPTTが延長する疾患として理解しやすいのは、血友病に代表される、各凝固因子の欠乏症でしょう。これらの疾患では、欠乏する凝固因子の種類によって、APTTとPTの一方または両方が延長します。

血液疾患とは縁遠い診療科であっても、凝固検査(とりわけPT)はさまざまな局面で有用です。その代表が、「肝機能障害」と「ワルファリン内服時」です。

凝固因子のほとんどは肝臓で産生されるため、血液疾患が存在しなくとも、肝機能障害によって凝固因子が欠乏し、凝固時間が延長します。

もちろん肝臓はほかにもさまざまな物質を合成していますが、凝固因子は代謝回転(ターンオーバー)が速いために、鋭敏に肝障害を検出できるというメリットがあります。肝障害が進行すればPTとAPTTの両方が延長しますが、外因系因子である第VII因子の半減期は特に短く、したがってPTのほうが初期からの肝障害の検出に適しています。

いっぽう、脳梗塞などの血栓性疾患を防止するために、あえて凝固作用を抑える薬剤が「ワルファリン」です。
ワルファリンは、多くの凝固因子を肝臓で合成する際に必要なビタミンKを欠乏状態にすることで、不完全な凝固因子を作らせ、凝固系の働きを低下させます。

ビタミンKは、凝固因子の合成に使われた直後には構造が変化してしまいますが、肝臓にはこの使い古されたビタミンKを再生する機構があり、これによって再び凝固因子の合成にかかわることができるようになります。

ワルファリンはこの再生の過程を阻害するため、有効なビタミンKが不足した状態となるのです。ワルファリンを投与する際には、血栓症を予防し、かつ出血のリスクが高くなり過ぎないよう、適正な範囲内に凝固能が収まっているかどうか定期的にチェックする必要があります。

ビタミンKに依存する凝固因子のほとんどは外因系・共通系に含まれるため、PTはそのモニタリングに適しています。

さらにワンポイント

PT-INRは検査施設によるばらつきを補正し国際標準試薬との統一を図ったもの

PTにはさまざまな表記方法があり、わかりにくいと感じる人も多いようです。最も素朴な表し方は、凝固までの時間を秒単位でそのまま書く方法です。

正常のPTは12秒程度であり、これを2秒ほど上回ると異常と判定されることが多いですが、検査施設によって正常範囲にバラつきがあります。

そこで、健常血漿におけるPTとの比をとって表示する方法もあります。

この場合は、PTが延長すればするほど値は1を大きく上回るようになります。ところが、同じように「健常血漿の2倍に延長している」という結果が出ても、この比の値そのものの持つ重みが、検査試薬によって異なるという問題があります。

そこで、さらにそれを計算で補正して国際標準試薬との統一を図ったものがPT-INR(InternationalNormalized Ratio)であり、現在ではこの表記が主流になっています。

血栓性疾患に対するワルファリン投与時には、疾患の種類や患者さんの種々の状況にもよりますが、PT-INRが2.5程度となるように調節されることが多くなっています。

その他にも、プロトロンビン活性をパーセント表示する方法があり、この場合は延長するほど値が小さくなりますが、現在ではこの表記は推奨されていません。

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* 【PTとAPTT】 PTとAPTTの違いは?止血機構を知ろう

(『ナース専科マガジン』2013年8月号より転載)

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