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個人に合った苦痛の少ない「排便コントロール」をめざした取り組み【PR】

  • 公開日: 2016/12/12
  • # 注目ピックアップ
  • # 排泄ケア

経腸栄養を行う患者さんの排便コントロールは難しく、便秘対策に下剤を使用すると、今度は下痢を引き起こしてしまい、患者さんには大きな負担となります。
千葉県八千代市のセントマーガレット病院では、経腸栄養剤の変更をはじめ、排便状況の記録や評価、排便量についてのオリジナルスケールの作成により、個々に合った下剤の投与を試みました。その取り組みについて紹介します。


下剤に頼らない排便コントロールを実現したい

加齢に伴うさまざまな身体機能の低下から、高齢者は便秘になりがちです。医療現場では、排便コントロールのために下剤がよく用いられており、セントマーガレット病院でも同様でした。

「特に経腸栄養を行う患者さんに対しては、漫然と下剤や浣腸を使用していることが多く、私が担当する療養病棟でも下剤を使って排便コントロ-ルを行っていました。しかし、下剤は用量と投与タイミングの調整が難しく、多くの患者さんが水様便になって、スキントラブルを引き起こすなど、かえって負担をかけてしまいます。同時に、おむつやシーツの交換時間も長時間に及んでいました」と西山さんは振り返ります。

そのような課題を抱えていたなか、2016年2月に開催した院内勉強会で水溶性食物繊維であるグアーガム分解物を配合した経腸栄養剤にであいます。水溶性食物繊維と便通との関係についても学んだ西山さんや岡田さんら参加者は、この経腸栄養剤に期待と関心をもちました。

そこで、さっそく同製品の導入について、ほかの病棟スタッフに呼びかけると、多くの賛同が得られました。医師にもぜひこの製品を試してみたいこと、結果を看護研究にまとめてみたいことを相談したところ、快諾が得られたことから、多職種の協力を得て、同年4月から導入を開始しました。

オリジナルのおつうじ日誌と セントスケールを作成

西山さん、岡田さんら看護スタッフに管理栄養士と薬剤師が加わった7名で構成された看護研究チームは、まず排便状況を正しく評価するため、オリジ ナルの「おつうじ日誌」と排便に関するスケールの作成を行いました。33名の病棟スタッフに行ったアンケートから、これまで患者さんの便の性状と量 を統一した基準で評価できていなかったことが明らかになったためです。

看護スタッフのほか、多職種で構成された看護研究チームの写真
              看護スタッフのほか、多職種で構成された看護研究チーム
              

そこで、便の性状については国際基準にもなっているブリストルスケールを採用し、排便量については、他院で開発されたスケールをもとに改良を加え、より簡単に把握できるようにしたオリジナルの「セントスケール」(写真の右)を作成しました。また、持ち運びしやすいようにポケットサイズへの工夫も凝らしました。

裏表の「排便スケール」。左がブルストルスケール、右がセントスケールの写真
            裏表の「排便スケール」。左がブルストルスケール、右がセントスケール
            

おつうじ日誌には上記2つのスケールでチェックした便の性状と量のほか、おむつ交換やシーツ汚染の状況、経腸栄養剤摂取の有無と量、下剤や浣腸の使用状況を時間とともに記録することを病棟スタッフで統一しました。

看護研究の発表に向けて、プレゼンテーションの練習にも取り組んでいる西山さんと岡田さんの写真
      看護研究の発表に向けて、プレゼンテーションの練習にも取り組んでいる西山さんと岡田さん
     

経腸栄養剤変更後、排便状況が変化ほかの看護ケアにもよい影響が

実際のグアーガム分解物配合の経腸栄養剤の投与は、2016年4月1日から16人の患者さんを対象に始まりました。患者さんごとの排便状況をつかむために、下剤の定期投与をいったん中止し、便秘時には塩類下剤から開始して、刺激性下剤で調節を行うこととしました。おつうじ日誌をもとに毎週おつうじカンファレンスを開き、病棟スタッフ全員で情報共有を図ることに努めました。

経腸栄養剤の変更後、患者さんの便の性状に次のような変化がみられました(集計期間:2016年4月1日~8月31日)。まず、変更前には8割以上が水様便(ブリストルスケール7番)でしたが、8月には1割未満に減少しました。同時に変更前には全くみられなかった普通便(ブリストルスケール4~5番)も4割を超えるようになり、下痢が減少したことがわかりました(図1)。
便の性状変化のグラフ
               注)凡例の数字はブリストルスケールのタイプ1~7を示す。
               

便汚染による全更衣やシーツの交換回数についても、次第に減少していきました(図2)。
便汚染による全更衣やシーツの交換回数グラフ

さらに、おむつ代やおむつの交換時間についても、変更後から徐々に減っている傾向がみられました(図3)。
おむつ代やおむつ交換時間のグラフ

                 注)おむつの交換時間はセントスケールの便量A~Eをそれぞれ、
                 A=3分、B=4分、C=5分、D=5分、E=7分として、
                 それにシーツ汚染時の交換=10分を加えてカウント。
                 

「下痢が減少したことで患者さんのスキントラブルも減り、新たな褥瘡の発生も抑えることができています」(岡田さん)。「おむつの交換時間が短縮されたことで、患者さんのそばでゆっくり話を聞いたり、ほかのケアに時間をあてられるようになりました」(西山さん)と、2人とも変化を実感しています。

看護研究を行った経験が次へのモチベーションに

この看護研究を機に、グアーガム分解物配合の経腸栄養剤の導入が評価されれば、今回の対象患者さん以外の経腸栄養の患者さんにも導入できるのではないかと、2人は展望を語ります。
 
「今回の取り組みをより多くの看護スタッフの皆さんに伝えたいと考えています。また、おつうじについての看護研究も3年間は続けていきたいですね。大変なことはわかっていますが、成果が出るうれしさを実感できましたから。来年はおつうじとスキンケアとの関係について研究しようと考えています」(西山さん)

栄養課 管理栄養士 阿部知子さんのコメント

今回導入した経腸栄養剤に含まれているグアーガム分解物という水溶性食物繊維の作用については、ある程度知っていたので、導入してみる価値があると思いました。また、消化吸収が速やかな中鎖脂肪酸が多く配合されている製品であったため、低栄養の患者さんの栄養状態の改善にもつながるのではと考えました。ただし、ほかにも10種類近くの濃厚流動食があるので発注調整が難しかったです。

薬剤課 薬剤師 渡邊希美さんのコメント

薬剤師として、病棟と相談しながら個々の患者さんに合わせた下剤の調整を行っていきました。人数が多く大変でしたが、今回の経腸栄養剤の導入によって、個々の患者さんに合った排便コントロールができるようになれば、下痢に伴う腹痛や不快感、スキントラブルといった負担を減らすことにつながるのではと考えています。

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