てんかん重積状態の治療が変わる! 新たなレスキュー薬が登場
- 公開日: 2026/5/11
現時点のてんかん重積の課題、スピジアⓇで解決できること
中川栄二先生(国立精神・神経医療研究センター病院 副院長、小児神経専門医)
てんかん重積状態の定義とリスク
てんかんとは、脳の神経細胞が過剰に興奮することで、発作をはじめとするさまざまな症状や検査所見がみられる疾患です。てんかん発作には、全身を震わせて泡を吹くような「けいれん性発作(運動発作)」と、ぼーっとして反応が乏しくなる「非けいれん性発作」の大きく2種類があります。後者は周囲が発作と気づきにくく、成人では認知症との区別が難しいケースも少なくありません。
てんかん患者さんの2〜3割は、適切に抗てんかん発作薬を使用しても発作をコントロールできない「薬剤抵抗性てんかん(難治性てんかん)」だと言われています1)、2)。難治性てんかんの患者さんで最も注意しなければならないのが、「てんかん重積状態」です。てんかん重積状態とは、「発作がある程度の長さ以上に続くか、または、短い発作でも反復し、その間の意識の回復がないもの」と定義されており3)、持続時間については、「けいれん発作が5分以上持続すれば治療を開始すべきで、30分以上持続すると後遺障害の危険性がある」とされています4)。けいれん性の場合、呼吸が止まることで脳への酸素供給が滞り、神経細胞に及ぼす影響が大きくなりますが、呼吸が保たれている非けいれん性においても、長時間(10〜60分以上)持続すれば後遺障害のリスクが高まります。
てんかん重積状態は一度起こすと再発する可能性が高く、重積を経験した患者さんの半数以上が再発しているというデータがあるほか5)、重積を繰り返すことで後遺障害のリスクも高くなります。さらに、てんかん重積状態に陥ると、患者さんのQOLが著しく低下するだけでなく、介護者もいつ発作が起きるかわからない不安を常に抱えることになり、抑うつ状態に陥りやすいことが報告されています6)。
「スピジアⓇ」でてんかん重積状態における課題を解決
臨床の現場で大きな壁となっているのが、病院に搬送されるまでの時間です。統計によると、救急車を呼んでから病院に到着し医師に引き継がれるまで、平均で約40分かかっています7)。
先ほど、けいれん発作が30分以上続くと後遺障害の危険性があるとお話ししました。病院に到着するまでに40分近くかかる現状を鑑みれば、搬送を待つ間、つまり病院前の段階でいかに早く発作を止めるかが極めて重要になります。
これまでも坐薬や口腔溶液などのレスキュー薬は存在していましたが、どの程度の発作で使用するのか、どのタイミングで使用するのかが不明瞭でした。また、坐薬は効果が出るまで5~10分近くかかるうえに人目がある場所では使いづらく、口腔用液についても、発作中に口腔内に投与するのは困難を伴います。
こうした課題を解決する選択肢として登場したのが、ジアゼパム鼻腔内投与製剤「スピジアⓇ」です。2歳から成人まで使用できるレスキュー薬で、国内の臨床試験において、投与からわずか1~1分半で発作が消失するという効果が確認されました8)。1度の投与で12~24時間にわたって効果が持続することも示されており8)、「立ち上がりが早く、長く持つ」のが大きな特徴といえます。重篤な副作用も認められず、介護者の90%以上が非常に満足で使いやすいと回答していることからも8)、現場での有用性が伺えます。
私自身、てんかんの持病がある家族を持つ身として、こうした使いやすく、即効性のある薬剤の登場を待ち望んでいました。スピジアⓇのような薬剤が普及することは、患者さんとご家族にとって大きな心の支えとなり、日々のQOLを底上げしてくれるものと確信しています。
成人てんかん重積状態と病院前治療の新展開
藤本礼尚先生(獨協医科大学病院 脳神経外科 てんかん・機能的脳神経外科分野 教授)
てんかん重積状態の治療で生じる矛盾
てんかん重積状態は極めて危険な状態です。統計的には約75%が回復しますが、残りの約25%は重症化し、そのうち約9%は死亡に至ります9)。特に成人の場合、加齢とともに死亡率は高くなる傾向にあります。
こうした死亡・後遺障害のリスクを回避するため、てんかん重積状態の治療アルゴリズムでは、発作後5分での治療介入(静脈確保による薬剤投与を開始すること)が推奨されています10)。しかし、静脈確保は一般的に病院に到着して初めて行えるものであり、病院への搬送も40分近くかかるのが現状です。アルゴリズムに示された発作後5分での治療と現実との間には、大きな矛盾が生じているといえます。
成人におけるレスキュー薬の現状とスピジアⓇへの期待
18歳未満では口腔内投与のレスキュー薬が使えますが、成人に対しては坐薬しか選択肢がありません。成人の衣類を脱がせて肛門に投与するのは介護者にとって大変な負担になるだけでなく、坐薬は効果が出るまでにある程度の時間を要するため、投与している間に重積へ移行してしまうリスクが高いという問題がありました。
こうしたなかで登場したのが、鼻にスッと入れるだけで簡便に投与できる「スピジアⓇ」です。海外の臨床試験データでは、投与から発作停止までの時間の中央値が4分という結果が出ており11)、重積への移行の目安とされる5分という時間軸のなかで、十分に勝負できていることがおわかりいただけるかと思います。さらに、投与後12~24時間経っても約9割の患者さんで次の発作が抑制されており、持続性も確認されています12)。
早期に発作を抑えられることは、患者さんや介護者のQOLにも直結します。スピジアⓇを投与後、約8割の患者さんが2時間以内に状態が安定し、約6割の介護者が1時間以内にいつもの生活に戻れたと回答しています13)。また、発作時の転倒による頭部打撲、脱臼や骨折といったリスクを減らせる点も大きなメリットです。
副作用については、鼻の痛みや不快感、鼻血、あるいは発作に関連すると思われる頭痛などが報告されていますが14)、全体として重篤なものはほとんどなく、安全に使える1つの手段であると考えています。
病院前治療とFASTの概念
てんかん発作は、通常であれば自然に元の状態へと戻りますが、中には発作が止まらずに長引く「遷延性発作」や、一度止まったと思っても短時間で繰り返す「群発発作」がみられることがあります。
こうした重積へと移行するおそれのある発作に対し、迅速に治療介入を行うという考え方が「First Aid for Seizure Termination (FAST)」です。これまでは成人の病院前治療において、5分以内に介入するための手段が限られていましたが、スピジアⓇという選択肢が登場したことで、FASTの概念を臨床現場で実現できる展開が期待されています。
引用文献
2)Berg AT, et al:The course of childhood-onset epilepsy over the first two decades: a prospective, longitudinal study.Epilepsia 2015;56(1):40-8.
3)The Commission on Classification and Terminology of the International League Against Epilepsy:Proposal for revised clinical and electroencephalographic classification of epileptic seizures. Epilepsia 1981;22(4):489-501.
4)Trinka E,et al:A definition and classification of status epilepticus-Report of the ILAE Task Force on Classification of Status Epilepticus.Epilepsia 2015;56(10):1515-23.
5)Sillanpää M,et al:Status epilepticus in a population-based cohort with childhood-onset epilepsy in Finland.A Ann Neurol 2002;52(3):303-10.
6)Riechmann J,et al:Quality of life and correlating factors in children, adolescents with epilepsy, and their caregivers: A cross-sectional multicenter study from Germany.Seizure 2019;69:92-8.
7)総務省消防庁:救急編.救急自動車による現場到着所要時間及び病院収容所要時間.令和7年版 救急救助の現況.p.29.(2026年4月23日閲覧) https://www.fdma.go.jp/publication/rescue/items/kkkg_r07_01_kyukyu.pdf
8)中川栄二,他:てんかん重積状態もしくはそのリスクを有する日本人小児患者に対するジアゼパム点鼻液の第3相多施設共同非盲検試験
9)吉村元,他:救急現場におけるてんかん重積状態の臨床的特徴~非痙攣性てんかん重積状態nonconvulsive status epilepticusの重要性について~.臨床神経学 2008;48(4):242-8.
10)「てんかん診療ガイドライン」作成委員会,編:てんかん重積状態.てんかん診療ガイドライン2018追補版2022.p.78.(2026年4月23日閲覧)https://www.neurology-jp.org/guidelinem/epgl/tenkan_2018_tuiho_ver2022_cq8-2.pdf
11)Wheless J,et al:Comment on “Intranasal midazolam versus intravenous/rectal benzodiazepines for acute seizure control in children: A systematic review and meta-analysis”.Epilepsy Behav 2022;128:108550.
12)Sperling MR,et al:Use of second doses of ValtocoⓇ(diazepam nasal spray) across 24 hours after the initial dose for out-of-hospital seizure clusters: Results from a phase 3, open-label, repeat-dose safety study.Epilepsia 2022;63(4):836-43.
13)Penovich P,et al:Examining the patient and caregiver experience with diazepam nasal spray for seizure clusters: Results from an exit survey of a phase 3, open-label, repeat-dose safety study.Epilepsy Behav 2021;121(Pt A):108013.
14)Wheless JW,et al:Final results from a Phase 3, long-term, open-label, repeat-dose safety study of diazepam nasal spray for seizure clusters in patients with epilepsy.Epilepsia. 2021;62(10):2485-95.
