第15回 摂食嚥下障害の臨床Q&A「徐々に痩せてきた施設入所者さん、どう対応する?」
- 公開日: 2016/4/12
- 更新日: 2021/1/6
本連載では、摂食嚥下障害を初めて学ぶ方も理解できるよう、摂食嚥下障害の基本とともに、臨床症状や実際の症例を通じて最新の嚥下リハ・ケアの考え方を解説します。
施設入所中の84歳の男性。最近、徐々に体重が減少してきています。経口摂取量も減ってきているようですが…、低栄養が心配です。どうやって栄養改善をすればいいでしょうか?
最近、フレイルやサルコペニアといったコトバをよく聞くようになりました。
フレイルとは「高齢期に生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し、機能障害、要介護状態、死亡などの不幸な転機に陥りやすい状態」とされており、その原因の一つとしてサルコペニア(=進行性および全身性の骨格筋量および骨格筋力の低下を特徴とする症候群)が考えられています。
そして、そのサルコペニアの大きな要因となるのが今回取り上げる低栄養です。
では、要介護高齢者の低栄養の考え方、低栄養の改善方法について解説していきます。
ホントの体重減少?
はじめに体重減少と摂取カロリーの関係について知っておきましょう。
必要栄養摂取量は性別、年齢、身長・体重、活動量、ストレスによって異なります。健常成人ではだいたい2000kcal/日くらいですが、高齢者はそれよりも少なく約900~1200kcal/日の方が多くいます。では,必要栄養摂取量から何kcal不足すれば1kg体重が減るでしょうか?
反対に、何kcal余分に摂れば1kg体重が増えるでしょうか?
1kgの体重の増減には、理論的には約7000kcal必要といわれます。これをコンビニのおにぎり(1個あたり約170 kcal)で換算すると、だいたい41個分(!)に相当します(図1)。
そう考えると、そう簡単に体重は増減するものではなく、「1週間で体重が2kg減った」というのは「理論的には」ありえません。でも現実には1週間で2kgくらいの増減は(自分でも?)経験されますが…それは便や水分(むくみ)によるものがほとんどです(もちろん水分の過不足も臨床では問題になりますので適切な対応が必要です)。
体重減少に気づいたら
脱水を加味しても体重が減少している場合は、低栄養への対応を考慮します。経管栄養などの栄養供給ルートがない場合は経口で摂取してもらうしか方法がありませんので、嚥下リハや食支援の視点からのアプローチが必要になります。
具体的には、(1)ムセずに苦痛なく食べられるような食事を選ぶ、(2)嗜好に合わせた食事を提供する、(3)少量でカロリーを稼げるような食事を提供する、といった対応が有効です
(2)や(3)については、さまざまな栄養補助食品が市販されていますので(一部は処方箋が必要な薬品)、それらを駆使してみてください(図2)。
食事の品数が増えてタイヘンな場合は、食事に混ぜ込むことでカロリーを補える食品も出ていますので試してみるとよいでしょう。
どうしても経口摂取量が増えない場合は、胃瘻をはじめとする経管栄養の助けを借りることが必要になることもあります。
ただし、ここで覚えておいて欲しいのは、経口摂取量が減って胃瘻を選択されたときに、経口摂取をゼロにしてしまわないことです。
「重度の誤嚥がみられる場合の胃瘻」の患者さんは肺炎のリスクを考慮して経管栄養のみとなることもありますが、「経口摂取量が減った場合の胃瘻」の患者さんは肺炎のリスクはありません。食べられるだけ食べて、足りない分を胃瘻で補うというのが患者さんのQOLの面からもよい胃瘻の使い方です。
体重減少はダメなのか?
臨床栄養は確かに重要ですが、最近はちょっと行き過ぎの感もアリ。低栄養は悪だ! 体重減少させるな! といった極論も聞こえてくることがあります。ではすべての低栄養、体重減少は避けるべきで、改善しないとダメなのでしょうか?
先日、私が経験したエピソードを紹介します。その患者さんは施設入所の81歳のアルツハイマー型認知症で、1年で3kgほど体重が減ったとのことでした。
そこで、「体重が減っているから何とかしないと!」ということで蛋白質とカロリーの多い食事に変更されたそうです。そうすると体重が増えるどころか蛋白供給過多になりBUNが上昇し、嘔吐も見られるようになったとのことでした…。
ここで重要なのは「疾患の特徴を知る」ということです。アルツハイマー型認知症では、詳しい機序は分かっていませんが(吸収障害や過度の消費が考えられています)体重減少がみられます。
ある程度の体重減少は疾患により避けられないものという考え方もあります。もちろん原因が明確で改善可能な体重減少には抗うべきですが、改善不可能で許容できる体重減少は介入せずに経過をみることも必要です。
栄養に関する知識は、身近すぎてなかなか学ぶ機会がなかったかもしれませんが、臨床では非常に重要です。手術や処置が必要ない患者さんはいますが、栄養が必要ない患者さんはいません。栄養の知識を身につけて幅広いケアが提供できるようになりましょう。
引用・参考書籍
認知症患者の摂食・嚥下リハビリテーション
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