ネフローゼ症候群とは? 症状・診断・治療など
- 公開日: 2017/9/7
腎臓の糸球体に障害が起こり、尿中に大量の蛋白が排出され、これに伴い低蛋白血症が引き起こる状態がネフローゼ症候群の特徴です。本来は腎臓でろ過されない血液中の蛋白がさまざまな原因でろ過され、再吸収されず、血中蛋白が喪失し、さまざまな症状を起こします。
症状
ネフローゼ症候群では、尿中に大量の蛋白が排出されることで低アルブミン血症・低蛋白血症になり、それに伴い浮腫が起こります。
発症の早期にはまぶたなど局所に起こり、進行すると肺や心臓に水が貯まります。また、血管内の水分が血管外に移動し、からだはむくんでいるにも関わらず、血中の水分量が不足するために、血栓症を起こします。ひどい場合だと、脳梗塞を起こす場合もあります。
また、血流量が減少することで、腎臓を通過する血流量も減少するので尿が出なくなり、急性腎不全を起こすこともあります。
ネフローゼ症候群の機序
腎臓には血液をろ過するフィルターの役割を果たす糸球体が200万個程度存在しています。糸球体では毛細血管が糸玉のように丸まっていて血液が流れます。糸球体毛細血管壁は、血管内皮細胞、基底膜、糸球体上皮細胞足突起で構成されていて、糸球体上皮細胞の足突起の間には、「スリット膜」という構造があります。内皮細胞、基底膜、スリット膜の三層構造が血液のろ過膜として機能しています。
このフィルター構造が障害されることで高度な蛋白尿が出るものをネフローゼ症候群と呼んでいます。
血中のアルブミンが減少すると、皮膚と間質の組織に水分が漏れ出し、浮腫を発生します。
血管外に水分が漏れ出ると、血管内のボリュームが少なくなり、腎臓の血流量が低下します。腎臓の血流量が低下すると、尿量が低下するので、血管内のボリュームを増やすために、レニン‐アンギオテンシン‐アルドステロン系が亢進します。この系が亢進するとナトリウムの再吸収が亢進し、結果的に水の再吸収も亢進されます。
血管内のボリュームは少ないですが、全身では水が溢れている状態なので、そこからさらに体液貯留が起きると、心不全や肺水腫といった状態にまでなってしまいます。
ネフローゼ症候群の診断
成人のネフローゼ症候群では、高度尿蛋白尿と低アルブミン血症の両方を満たすことが診断基準です。具体的には、蛋白尿が1日に3.5g以上、血中アルブミンが3.0g/dL未満の状態です。小児のネフローゼ症候群の定義は成人のものと異なります。
丸山彰一,監:Ⅰ 疾患概念・定義・構成疾患・病態生理,エビデンスに基づく ネフローゼ症候群診療ガイドライン 2017.東京医学社,2017,:p.1.より転載
丸山彰一,監:Ⅰ 疾患概念・定義・構成疾患・病態生理,エビデンスに基づく ネフローゼ症候群診療ガイドライン 2017.東京医学社,2017,:p.2.より転載
ネフローゼ症候群の分類
ネフローゼ症候群は一次性(原発性)ネフローゼ症候群と、そのほかの疾患に由来する二次性(続発性)ネフローゼ症候群に分けられます。
一次性ネフローゼ症候群は、微小変化型ネフローゼ症候群、巣状分節性糸球体硬化症、膜性腎症、増殖性腎炎などの原発性糸球体腎炎に起因します。
二次性ネフローゼ症候群は、自己免疫疾患、代謝性疾患、感染症、アレルギー・過敏性疾患、腫瘍、薬剤、遺伝性疾患など、さまざまな疾患に起因します。
一次性ネフローゼ症候群の中では、膜性腎症が約4割、微小変化型ネフローゼ症候群が約4割です。次いで多いのが巣状分節性糸球体硬化症です1)。
これらの病気の分類は、フィルターのどこに障害があるかで見極められます。
例えば、糸球体のスリット構造が壊れるために蛋白尿が出るのが微小変化型ネフローゼ症候群です。膜性腎症では、免疫複合体がフィルターに沈着することで蛋白尿が出るようになります。ただし、フィルターが障害されていても基準を超える蛋白尿がなければネフローゼ症候群とは呼びません。
また、微小変化型ネフローゼ症候群では、上気道炎、皮膚感染症などの先行感染を伴うことがあります。虫刺され、薬物、予防接種などのアレルギー症状がネフローゼ症候群の発症原因となることもあるため、注意が必要です。
※二次性ネフローゼ症候群との鑑別
65歳以上の高齢者では、糖尿病性腎症やアミロイド腎症などの二次性ネフローゼ症候群が多くなるので、鑑別のためには、腎生検だけでなく、血液生化学検査や画像検査などを行って総合的に判断する必要があります。
二次性ネフローゼ症候群を疑う症状として、発熱、関節痛、日光過敏症、末梢神経障害、紫斑などが知られています。これらの症状がある場合には、膠原病、血管炎、アレルギー性疾患がきっかけで起こる二次性ネフローゼ症候群の可能性があります。
検査所見
ネフローゼ症候群では、腎障害以外にさまざまな検査で異常が発見されます。病型によって、蛋白尿や血尿の程度に差があり、高比重尿、顆粒状、脂肪、ろう様円柱などの多彩な検尿異常が観察されます。
また、血液異常として、低蛋白血症、高脂血症、腎機能障害、肝機能障害、電解質異常、凝固・線溶異常、血清学的異常、ホルモン異常、貧血なども起こります。
尿異常
蛋白尿:ネフローゼ症候群では大量(3.5g/日以上)の尿蛋白がみられます。蛋白尿の測定法として、1日蓄尿で定量することが望ましいですが、外来患者さんで蓄尿が困難な場合や、高齢者などで正確な蓄尿ができない場合には、随時尿の尿蛋白/尿クレアチン比(g/gCr)で代用されます。ネフローゼ症候群では随時尿では、3.5g/gCr以上の蛋白尿を認めます。
血尿:巣状分節性糸球体硬化症では、60~80%と、高頻度で血尿がみられます。一方で、微小変化型ネフローゼ症候群や膜性腎症では血尿は比較的まれとされていましたが、膜性腎症では約30~40%の症例で血尿が報告されています。
尿比重:一般的に増加していることが多いです。1.030を超える尿比重の上昇がみられと、血管内脱水の可能性があります。
尿円柱:顆粒、脂肪、ろう様円柱がみられます。糸球体障害が高度である場合には、赤血球円柱が認められ、尿細管上皮細胞の障害が強い場合には上皮細胞円柱が認められます。
血液異常
低アルブミン血症・低蛋白血症:糸球体から大量のアルブミンが漏出するので低アルブミン血症になります。また、免疫グロブリンや補体成分などのさまざまな血症蛋白が尿中に排出されるため、浮腫や易感染性などの臨床症状が引き起こされます。しかし、免疫グロブリンが上昇する膠原病や骨髄腫瘍によるアミロイドーシスなどが原因で起こるネフローゼ症候群では、低アルブミン血症を起こさない場合もあります。
脂質異常:低アルブミン血症によって、肝臓のリポ蛋白合成が亢進して、総コレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪、リポ蛋白(a)などのほか、VLDL、LDLコレステロールに関係するapo-B、C-Ⅱ、Eも上昇します。HDLに関係するapo A-Ⅰ、A-Ⅱ蛋白は正常です。
血清学的異常:ネフローゼ症候群では免疫グロブリンが低下するので、潜在的に液性免疫低下があります。日本人の原発性ネフローゼ症候群患者さんを調べたところ、血中IgGレベルが600㎎/dL以下になると、感染症のリスクが6.74倍になると報告されています2)
丸山彰一,監:Ⅱ 診断,エビデンスに基づく ネフローゼ症候群診療ガイドライン 2017.東京医学社,2017,:p.14.
丸山彰一,監:Ⅱ 診断,エビデンスに基づく ネフローゼ症候群診療ガイドライン 2017.東京医学社,2017,:p.14.
治療
治療戦略はネフローゼ症候群は原因によって治療抵抗性などの性質が変わるため、治療戦略も変わってきます。おもにプレドニゾロンなどのステロイドや、シクロスポリンなどのカルシニューリンインヒビターなどの免疫抑制剤が使用されます。微小変化型ネフローゼ症候群では、ステロイドが効きやすく効果が出やすいです。
治療をするためには、まずは腎生検を行い、ネフローゼ症候群の原因を特定します。非常に進行したネフローゼ症候群の場合には、原因の特定前にステロイド治療を先行し、状態が落ち着いてから腎生検を行うこともあります。
微小変化型ネフローゼ症候群の80~90%に治療効果が望めます。ただし、微小変化型ネフローゼ症候群では、薬剤の減量に伴って再発するステロイド依存性のネフローゼ症候群、あるいは、ステロイドをやめると再発してしまう、頻回再発型のネフローゼ症候群となることがあります。こういった症例の場合は、免疫抑制剤の追加投与が検討されます。
巣状分節性糸球体硬化症は、ステロイド抵抗性が多いと知られています。ステロイド抵抗性の場合は、反応を見て効果が得られないときには免疫抑制剤を併用します。
食事療法
食事に関しては、減塩指導が行われています。成人でも、小児でも3~6g/日程度の塩分制限が行なわれます。蛋白質の制限に関しては、有効性に議論が残りますが、成人であれば0.6~0.8g/㎏/日、小児であれば年齢に応じた蛋白質摂取量の食事指導が行われます。エネルギーに関しては、30~35kcal/㎏程度の摂取を推奨しています。
運動制限は以前よりも厳しく行いません。ネフローゼ症候群でも安静にしていなければいけないというエビデンスはなくなってきているため、患者さんに苦痛がなく、負担がかかっていないときには過度な運動以外は禁止しないことが多いです。
小児に関しては、学校の安静基準があり、学校で運動の制限を指導しています。その基準によるとネフローゼ症候群は安静が必要な病気になっています。もともと安静が必要だったのは、透析医療の質が良くなかった時代に指導されていたものでした。近年の透析医療の質の向上と、ステロイドや免疫抑制薬の改良によって、必ずしも安静が必要というわけではなくなってきているようです。
看護師に知っておいてほしいこと
ネフローゼ症候群は、一般的に入院してからも病気が悪くなることが多いです。浮腫に気付いて入院した後に治療を開始しますが、その効果が出るまでに2~4週間程度かかります。その間に病態が悪化し、心不全や血栓症などの浮腫による合併症や、感染症を起こすことがあります。
また、ネフローゼ症候群自体が栄養状態を悪化させ、治療に使われるステロイドが感染症のリスクを上げます。そういった点については、入院患者さんの近くにいる看護師がよく観察する必要があります。
また、患者さんの気持ちとしても、入院したのに状態が悪化すると、不安になります。そのため、治療の効果が出るまでに時間がかかるということをしっかりと理解してもらうことも大切です。多くはありませんが、人によっては一時的に透析が必要な患者さんもいます。
また、ネフローゼ症候群は仮に症状がよくなっても治癒することが少ない病気です。あくまでも治療によって病気が落ち着く寛解状態なので、長く病気と付き合っていくことになります。
最新トピックス
近年、新しい種類の免疫抑制剤がネフローゼ症候群に効果があることがわかってきました。
今まではシクロスポリンが使用されていましたが、ミコフェノール酸モフェチルという薬が使用され始めています。また、小児の難治性ネフローゼ症候群ではリツキサンが使われています。これは、CD20を選択的に抑制する、もともと悪性リンパ腫や、臓器移植などの免疫反応を抑えるために使われていた薬です。リツキサンに関しては、大人の症例は保険適応外ですが、効果を示す症例もあります。
小児のネフローゼ症候群
小児でも成人でも大きく対応は変わりませんが、薬の副作用には気を付けなければいけません。ステロイドを服用することで、易感染性、胃潰瘍、骨粗鬆症、大腿骨頭壊死症、白内障、緑内障、糖尿病などが起こる可能性があるので、その徴候を見逃さないようにしなければいけません。小児の場合は、成長障害や糖尿病の発症に特に注意が必要です。
引用・参考文献
1)松尾清一,監:Ⅰ 疾患概念・定義(病因・病態生理),エビデンスに基づく ネフローゼ症候群診療ガイドライン 2014.東京医学社,2014,:p.10-1.
2)Ogi M, et al. Risk factors for infection and immunoglobulin replacement therapy in adult nephrotic syndrome. Am J Kidney Dis 1994;24:427—36