多発性嚢胞腎について知ろう
- 公開日: 2018/9/5
2018年7月12日品川グランドセントラルタワーにて、大塚製薬による「指定難病「多発性嚢胞腎」のいまーエビデンスに基づく「CKD診療ガイドライン2018」のトピックスを交えてー」をテーマにプレスセミナーが行われました。講演は東京女子医科大学 血液浄化療法科教授 土谷健 先生です。その様子をレポートします。
CKD(慢性腎臓病)とは
CKDとは、
①腎障害(尿意以上、画像診断、血液検査、病理所見などで判断)
②腎機能の低下(血清クレアチニン値をもとにした糸球体濾過量(eGFR)が60ml/分/1.73m2未満)
これらが一方、または両方が3カ月以上続いている状態を指します1)。
日本には現在1330万人のCKD患者さんがいるとされていますが、これらはCKDという概念が広まり、周知されてきた結果であるといえます。CKD患者さんの増加を受け、スタンダードなアプローチを誰もが行えるようにと、「CKD診療ガイドライン2018」が発刊されました。内容は、前回のガイドラインを全面的に改訂されたものとなっています。また、かかりつけ医からの紹介基準となるハザードマップも作られました。CKDという考えが広まり、腎疾患を持つ患者さんが増え続ける今、かかりつけ医と専門医の連携を深めることはより重要となっています。
常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)とは
CKDの原因の1つにADPKDという疾患があります。ADPKDはPKDという遺伝子の変異により両側の腎臓に多数の嚢胞が発生・増大する遺伝性の腎疾患です。嚢胞が増加・増大することにより腎機能、また腎臓以外の臓器にも障害が生じます。PKD遺伝子にはPKD1とPKD2があり、より進行の早いPKD1遺伝子が全体の約85%と多数を占めています。
腎臓には「尿をつくる」「血圧を調節する」「血液をつくる」「ホルモンを出し体内環境を一定に保つ」「ビタミンDを活性化する」などさまざまな働きがあります。ADPKDは進行性の疾患であり、いったん腎機能が低下してしまうとその機能は戻りません。腎臓の働きが弱まってしまうと、その働きを補うために、透析をし続けなくてはならなくなってしまいます。
ADPKDの治療の救世主
ADPKDは少しずつ、一生かかって進み、60歳代までに約半数が末期腎不全に至るといわれています。患者さんのQOL維持のためには、少しでも透析までの期間を伸ばすことが重要です。しかし、これまでADPKDには治療薬がありませんでした。大塚製薬は2004年から治療薬の開発・臨床試験を続け、ついに2014年、世界に先駆け日本で初めて、ADPKD治療薬として「サムスカ」が承認されることになりました。その後も各国で次々と承認され、2018には米国で承認されたことで、さらにADPKD治療が発展していくことが期待されています。
難病であるということ、どう伝えますか?
ADPKDは遺伝性疾患であると同時に進行性の難病です。ADPKDであることを知らされていない人に対し、疾患について必要なことを伝えて早めに治療を開始することは、病気と付き合っていくうえで大切なことです。しかし、一言で「伝える」といっても、それは簡単なことではありません。遺伝性疾患であるということは、伝えられる側だけでなく伝える側にも大きな葛藤を生み出すことになるからです。
そのような患者さんと接するにあたり、ぜひお伝えして欲しいのが「SNSを活用すること」です。例えば「日本遺伝カウンセリング学会」では、遺伝に関わる悩みや不安などについて、正確な医学的情報をもとに、心理面や社会面も含め支援してくれます。また、腎臓専門医は全国に均等にいるわけではありませんが、SNSを活用することで、どこで、どんな治療を受けられるのかということも分かります。「PKDFCJ」というADPKDの患者会という会もあり、そこでの情報交換も可能です。
腎疾患の啓発にご協力を!
これまでの調査でADPKD患者さんは全国で31000人いるといわれていますが、未診断の人を含めると、さらに多くの患者さんがいると考えられます。
現在ADPKD患者の初診理由として1番多いのが、健康診断や人間ドックです。ADPKDの場合、早期だと検査結果には「要観察」と出てしまうため、受診したときには症状がかなり進んでいるというケースが多くみられます。ADPKDという疾患が知られることで、ADPKDの可能性のある方が医療機関を受診したり、既に診断されている人が専門医を受診するなど、治療の確立がADPKD診療に変化を起こすことが期待されています。
そして、ADPKDだけでなく、CKDも含め腎疾患は早期発見がなによりも大切です。一人ひとりの啓発が、今はまだADPKDだと気づいていない患者さんの予後や、疾患自体の進歩にも繋がることになります。ぜひ、啓発にご協力を!
【引用・参考文献】
1)日本腎臓学会,編:エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018.東京医学社,2018.