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SDMとEBMはどう関係している? SDMはどう実践する?ー日本リウマチ学会総会・学術集会 イブニングセミナー4 『EBM 実践におけるShared Decision Making(SDM)の重要性』【PR】

  • 公開日: 2019/8/21
  • 更新日: 2020/10/22
  • 講演

所属[京都大学大学院医学研究科](http://www.med.kyoto-u.ac.jp/) 社会健康医学系専攻健康情報学分野 教授専門分野健康情報学紹介東京医科歯科大学医学部卒業後、東京厚生年金病院(現在東京新宿メディカルセンター)や国立がんセンター研究所がん情報研究部 室長などを経て現在は京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 教授を務める。健康情報学を専門とし、公益財団法人日本医療機能評価機構Minds(マインズ)やEBM・診療ガイドラインに関する厚生労働科学研究にも携わっており、日本の医療情報の分野において大きく貢献している。略歴1987年-    東京医科歯科大学医学部卒業1987-1989年 東京厚生年金病院(現在東京新宿メディカルセンター)内科1989-1999年 東京医科歯科大学難治疾患研究所疫学部門 助手1998-1999年 米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校公衆衛生学 ポストドクトラル・フェロー1999-2000年 国立がんセンター研究所がん情報研究部 室長2000-2006年 京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 助教授2006年-    同教授(健康情報学)2010年-    同専攻副専攻長2012年-    同専攻第1回ベストティーチャー賞2016年-    同専攻長、医学研究科副研究科長所属学会・資格・役職など日本疫学会・日本薬剤疫学会・日本禁煙科学会・日本こども健康科学会等の理事日本ヘルスコミュニケーション学会世話人日本神経学会・消化器病学会・褥瘡学会・内視鏡外科学会・日本緩和医療学会・核酸代謝学会等の診療ガイドライン作成委員および統括委員公益財団法人日本医療機能評価機構Minds委員・診療ガイドライン評価専門部会座長独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)専門委員東京大学医学教育国際協力研究センター客員研究員一般社団法人ヘルスケア・データサイエンス研究所(RIHDS)理事NPO法人日本メディカルライター協会副理事長NPO法人健康と病いの語りディペックス・ジャパン副理事長NPO法人日本インターネット医療協議会理事NPO法人EBH推進協議会理事NPO法人医療ネットワーク支援センター理事医療ビッグデータコンソーシアム代表世話人、他2001年~現在 EBM・診療ガイドラインに関する厚生労働科学研究 代表研究者2014~16年 厚生労働科学研究「健康医療分野における大規模データの分析及び基盤整備に関する研究」代表研究者2015~16年 厚生労働科学研究「系統的レビューとコホート研究に基づく特定健診質問票の開発」代表研究者受賞・著書・論文など【著訳書】これから始める! シェアード・ディシジョンメイキング: 新しい医療のコミュニケーション  日本医事新報社 2017年EBMを用いた診療ガイドライン:作成・活用ガイド(金原出版)健康・医療の情報を読み解く:健康情報学への招待〈第2版〉(丸善出版)ヘルスコミュニケーション実践ガイド(日本評論社)臨床研究と疫学研究のための国際ルール集(ライフサイエンス出版)トムラングの医学論文「執筆・出版・発表」実践ガイド(シナジー)京大医学部の最先端授業:「合理的思考」の教科書(すばる舎)最悪に備えよ―医薬品および他の医療関連危機を予測し回避または管理する(じほう)健康情報コモンズ(ディジタルアーカイブズ)医療ビッグデータがもたらす社会変革(日経BP)京大医学部で教える合理的思考(日本経済新聞社)FDA リスク&ベネフィット コミュニケーション: エビデンスに基づく健康・医療に関する指針(丸善出版)、他

2019年4月15〜17日に国立京都国際会館・グランドプリンスホテル京都にて第63回日本リウマチ学会総会・学術集会が開催されました。「夢を語ろう〜Talk about the future〜」をテーマにさまざまな講演が行われました。その中から、イブニングセミナー4「EBM 実践におけるShared Decision Making(SDM)の重要性」を紹介します。
会場全景
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中山先生タイトル
中山先生記事中

 SDM(Shared Decision Making)を実践するためには、まずはEBM(Evidence-based Medicine)を正しく理解しなければなりません。EBMは“臨床家の勘や経験ではなく科学的根拠(エビデンス)を重視して行う医療”と誤解されがちです。しかし、本来のEBMは「個々の患者ケアに関する意思決定過程に、現在得られる最良の根拠(current best evidence)を良心的(conscientious)、明示的(explicit)かつ思慮深く(judicious)用いること」1)なのです。さらに言うとEBMとは「最良の研究によるエビデンス、臨床家の熟練、そして患者さんの希望や価値観」、加えて「患者さんの個別性・多様性、医療の行われる場」2)、これらを合わせて良い医療を行うというものなのです(表)。つまり、EBMにはすでにSDMの概念が含まれているのです。

表 EBMの4つの要因
表 EBMの4つの要因
1)と2)を元に作成

 そしてこのEBMの延長線上にあるのが診療ガイドライン(以下、ガイドライン)です。ガイドラインは「患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示する文書」であり、推奨は重要度の高い医療行為に関するエビデンス総体の質・確実性、益と害のバランス、患者の価値観・希望、コスト、介入の外的妥当性を評価し、総合的に判断して「推奨」を決定することが求められています3)。どんなによく作られたガイドラインでもあくまで一般論であり、慎重な解釈、自己判断を踏まえた上で適用されることが望まれます。「SDMのないEBMはエビデンスによる圧政(evidence tyranny)に転ずる」4)と指摘されるように、SDMが実現してはじめて最適な患者さんへのケアが可能となります。そして、患者さんの状況に合わせてガイドラインの推奨以外の治療を行う場合は、特に患者さんとのコミュニケーションが大切になってきます。

 SDMというのは「協力してヘルスケアの選択を行うために、患者さんと医療者の間で交わす対話」5)のことで、協働的意思決定や共有意思決定と訳されています。医療者と患者さんが情報や目標、責任を共有し対話を行い、最良のケアを選択していく、つまり、‟エビデンスの不確実性”と‟価値観の多様性”の調和を目指す新たなコミュニケーションがSDMと言えます。

 現在の医療現場では、意思決定の過程としてインフォームドコンセント(IC)が浸透しています。SDMとの違いは、SDMは結論がどこに着地するかがわからないのに対し、ICは「医療者が示す選択肢」への着地が期待されていることです。つまり医療者の誘導の影響が大きい。確実なエビデンスのある選択肢が1つの場合、ICのほうが適切でしょう。逆にエビデンスがはっきりしておらず、何をしたら良いのか本当にはわからない場合はSDMが必要になります。相談して、協力して、一緒に悩んで決める。SDMは患者さんと医療者が不確実性、つまり今の医療の限界に向き合う際の知恵であり、ICとSDMのどちらを用いるか見極めることも大切なのです。
 
 SDMには多職種の協働、情報と意識の共有が不可欠です。医師が把握できる患者さんの情報はごく限られていますし、患者さんも相手の職種によって伝える情報を変えているものです。チーム医療としてのSDMを考えていく必要があるでしょう。さらにいえば、SDMは個々の対人的なコミュニケーションとしてとらえるだけでなく、病棟、施設全体といった組織レベルで機能しているか、そして社会レベルでSDMの考え方を大事にしようとしているかが問われてくると思います。


【引用・参考文献】
1)Sackett DL, et al:Evidence-based medicine: what it is and what it isn’t.BMJ 1996;312(7023):71-2.
2)Straus SL, et al:Evidence-Based Medicine: How to Practice and Teach It.4th ed.Churchill Livingstone Elsevier,2001,p.1.
3)小島原典子,ほか:第1章 診療ガイドライン総論.Minds 診療ガイドライン作成マニュアル 2017.公益財団法人日本医療機能評価機構EBM医療情報部,2017,:p.4.
4)Hoffmann TC,et al:The connection between evidence-based medicine and shared decision making.JAMA 2014;312(13):1295-6.
5)NHS England:Shared decision making(2019年4月15日閲覧)
https://www.england.nhs.uk/shared-decision-making/

金子先生タイトル
金子先生

 関節リウマチ治療の世界共通のガイドラインであるTreat to Target(T2T)には、「関節リウマチの治療は、患者さんとリウマチ医のSDMに基づいて行わなければならない」と強い語調で書かれています。

 SDMの実践に至るまでにはプロセスがあります。まずは、合理的な選択肢が複数あるかどうかを検討します。1つしかない場合は、患者さんへの説得やICに向かいます。複数の合理的な選択肢がある場合は、患者さんが自ら進んで決定にかかわる意思があるか、あるいは、その能力があるかどうかを検討します。意思や能力が不十分な場合は、医療者がきちんと決定しなければなりません。さらに決定までにかける時間が十分にあるかどうかも重要です。すぐに命にかかわるような状況では、SDMを実践している時間はないため、医療者が決定することになります。複数の合理的な選択肢があって、患者さんに決定に参加する意思と能力があり、時間があるときにSDMを実践するというわけです。

 関節リウマチはもちろん早期発見、早期診断、早期治療が大切ですが、すぐに決めないと命にかかわる疾患ではないため、しっかりとSDMを行っていかなければなりません。66歳女性患者さんの事例をご紹介しましょう。メトトレキサート(MTX)の効果が不十分だったため、バイオ製剤を薦めたところ、費用が高いからと拒否。関節変形が進行していったため、再度、再々度、バイオ製剤を薦めるも同意は得られず、そのたびに拒否する理由が異なっていました。そこで、看護師を含め、落ち着いた部屋で時間をとって患者さんと話し合うと、身体的精神的疾患をもつ家族を複数かかえ、面倒をみるために良くなりたいが、万が一副作用が起きて自分が倒れたら経済的にも家族としても一家が路頭に迷うという思いを吐露、複雑な家庭の事情が明らかになりました。

 この事例から、時間をかけること、そして多職種が介入し、いろいろな形で患者さんの話を聞くことが大切だと痛感しました。SDMは、やはりチームでの実践が不可欠だといえるでしょう。

林先生タイトル
林先生記事中2

 SDMは診察時間の短縮化、スタッフ不足、患者さんの高齢化による理解力の低下、医師に本音を言いにくいなどの心情といったさまざまな問題があり、実践が難しいという現状があります。

 これらの問題を解決してSDMを行うためには、多職種連携が必要です。医療者の中でも看護師は、患者さんや家族が不満や悩みを打ち明けられる最も身近な存在です。診察、治療に関連する業務から療養生活の支援にいたるまで幅広い業務に携わるため、チーム医療のキーパーソンでもあります。そこで、看護師の役割として重要なことは、患者さんや家族と必要な専門職との橋渡し役を担うことです。当院では、初診時から看護師が介入し患者さんの不安の軽減に努めると共に、治療への要望や必要な情報を収集し、医師や多職種へ伝え、個人に適したより良い治療を継続できるよう取り組んでいます。しかし、中には治療が中断してしまったケースもありました。76歳男性、生物学的製剤導入時より、治療に対して「面倒だ」という声があり、その後、「良くなった」という言葉を最後に来院しなくなったのです。振り返ると、患者さんの治療に対する要望の確認や治療についての話し合いができておらず、十分なコミュニケーションがとれていませんでした。

 この患者さんは1年半後、心不全で緊急入院した際、リウマチ治療を再開したいという希望があり、治療再開となりました。治療を自己中断したことを咎めずに患者さんの心情を受け止め、現状や治療に対しての要望を聞き、必要な情報を提供するなどの介入を行いました。現在では患者さんと良好なコミュニケーションがとれるようになり、治療を継続しています。

 SDMにおいては必要なのは、患者さんとの良いコミュニケーションです。患者さんとコミュニケーションを図りながら必要な情報を引き出し、介入が必要なポイントをみつけて多職種と連携し、必要な情報や資源を提供する。そして、精神的なサポートを行うことで、よりよい治療につながると考えます。

 また、SDMを行うには時間が必要です。そのためには、多くの看護師がSDMを行えるようにならなければなりません。それには、知識とスキルの獲得が必要であり、リウマチケア看護師が主導となり、人材育成が重要であると考えています。

 最後に座長の天野先生が「患者さんによって、病状も要望も異なります。私たちは患者さんとともに、一人ひとりに対して最適な医療を選択し、提供していかなければなりません。それには、チーム医療としてのSDMが大切だとあらためて感じました」と締めくくりました。