より良いケア用品を導入することで医療安全を実現する【PR】
- 公開日: 2019/7/23
大阪府北部、高槻市に位置する高槻病院は、地域医療支援病院として、477床の病棟とがん診療支援センター、総合周産期母子医療センター、小児救命救急センターなどを備え、高度な急性期医療を提供しています。同院では手術件数も多く、周術期の深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)のリスク対策にも積極的に取り組んでいます。
DVTのリスク対策には、弾性ストッキングや間歇的空気圧迫装置などによる管理が必要となります。
その中で近年問題となっているのが、医療関連機器圧迫創傷(medical device-related pressure ulcer:MDRPU)です。
高槻病院でも、弾性ストッキングの誤った着用からMDRPUが発生していました。皮膚・排泄ケア認定看護師として組織横断的に活動している根岸 睦さんは、弾性ストッキングによるMDRPUの発生を解消したいと考えていました。
MDRPUリスク対策として弾性ストッキングを再検討
2018年4月に院内で医療材料を見直す機会があり、MDRPUリスク対策として弾性ストッキングを再検討しようと考えました。そこで着目したのが、2月に発売されたばかりの「アンシルク®・プロJ キープケア(ハイソックスタイプ)」でした。発売時にメーカーより紹介があり、またすでに導入しているグループ病院の皮膚・排泄ケア認定看護師から、製品についての評価を聞いていました。国産メーカーのため日本人の体型に合わせた設計で、5つのサイズ展開により個々の患者さんに合ったサイズが選択できること、つま先や踵、口ゴムに適切な位置がわかるポジションマーカーがあり正しい着用を誘導できることなどが、着目した理由でした。
それまで採用していたのは海外のメーカーの製品で、ハイソックスタイプなのに膝を覆うほどの長さになってしまう患者さんも少なくなく、膝下でたるんだり、折り返して使用することが皮膚障害の原因になっていると考えました。また、位置を示すマークがないことで、踵の部分を逆にして履いてしまう患者さんも散見されました。弾性ストッキングは正しく着用できなければ、皮膚障害の原因になるばかりか、本来の目的であるDVTの予防にもなりません。
検討を進めていく中で、自分で「アンシルク®・プロJ キープケア(ハイソックスタイプ)」のサンプルを実際に試してみて、履きやすさや履き心地の良さを実感しました。ほとんどの場合、患者さんはケア用品を自分で選ぶことができません。だからこそ、ケア用品を選択するときには、自分で試してみて〝自分が患者さんだったら、この製品を使いたいかどうか″という視点が重要だと思っています。
図1 高槻病院におけるMDRPUの症例(2018年)
導入に向けてリンクナースにアンケートを実施
導入に向けて、まず各部署のリンクナースに説明し、部署内でサンプルを試してもらい、アンケートを実施しました。「生地に伸縮性があり、やわらかく履きやすい(履かせやすい)」「膝下や腓腹部の締め付け感がない」「目印があるのできちんと着用できる」など、おおむね好評でした。しかし履き心地がよい反面、着圧が低下しているのではないかという不安の声もありました。これについては、圧力を出すための横糸を密に編み込むことにより面で圧力をかけて、過度の圧力がかからないように工夫されていることを説明し、理解を得ることができました。
自分が試用してみて、またアンケート結果から、適切な着用と確認がしやすく、DVTとMDRPUのリスク対策ができ、患者さんの安全性を確保できると考えました。加えて、履きやすさは看護師の業務負担の軽減にもなります。看護師は中途で入職してくる人も多く、スタッフ全体に知識がなかなか浸透しないという現状があります。弾性ストッキングについての知識が不足していたとしても、製品が持つメリットによって適切な着用につながるのではないかとも考えました。
リンクナースの声
良い点
・素材が柔らかくて患者さん一人でも履きやすそう
・膝下が長く余ることが多かったが、長さが合いやすそう
・つま先が包まれているので歩きやすい
・肌触りが良い
・膝下の締め付けが軽減しているので皮膚トラブルの発生が防げそう
・踵に色がついているため着介助がしやすい
・シワになりにくい
・伸びるので自分でも履きやすいし、履かせやすい
・生地が厚くすべりが良い
・腓腹部の締め付けがない
・丈夫そう
・踵・つま先の位置がわかりやすい
気になる点
・Mサイズがピンクで男性が好まないかも
・長時間履いているとずれる(自分で修正できるので、あまり気になりませんが)
・耐久性が気になる
・締め付け感がなくて大丈夫か
患者さんの安全性を確保したい
製品を切り替えることで得られるメリットが多いものの、コストの問題がありました。肺血栓塞栓症予防管理料の範囲に収まるものの、従来採用していた製品よりもややコストが上がってしまうのです。看護部長に、患者さんに対する医療の安全性を確保したいということを伝え、コストについて相談しました。すると看護部長は、「肺血栓塞栓症予防管理料の範囲内ですし、それで患者さんの安全が守られるのであれば進めてください」と背中を押してくれました。
さらに褥瘡対策委員会の皮膚科医師や、診療材料の採用を決定する診療材料委員会のメンバーでもある医療安全室長にも、製品変更の理由について説明を行いました。より良い製品を使うことにより、安全性を確保できるのであれば、患者さんにとってメリットは大きいのです。それは看護師にとっても、ひいては病院にとってもメリットになることを強調しました。診療材料委員会では何度も話し合いが行われ、製品についての質問に対しては、メーカーの協力を得ながら回答をしていきました。
ガイド機能により指導・教育が容易に
その後、2019年3月からの採用が決定し、導入にあたり褥瘡対策委員会のリンクナース、各部署の師長に製品を切り替えることを告知しました。それとともに、弾性ストッキングを使用している13の部署ごとに、メーカーの協力を得て勉強会を開催しました。多忙な看護業務に配慮して、時間は10~15分、時間帯は業務前後の朝や夕方など、できる限り多くのスタッフが参加できるように工夫しました。サイズ展開が従来の製品の4種類から5種類に増えたため、サイズの選択方法については丁寧に説明を行いました。
勉強会を振り返ってみて、製品にガイド機能があるため、適切な着用方法が伝わりやすく、看護師への教育効果が高いと感じました。患者さんの指導の際にも、同様の効果が期待できると思いました。サイズ選択に関しても、サイズごとにポジションマーカーの色が分けられているため、伝えやすかったです。
図2 アンシルク®・プロJ キープケアのポジンションマーカー
つま先、踵、膝、口ゴムに色や文字で明確なポジションマーカーが着いている。文字の向きは患者さんから読みやすいように配慮されている。これにより、適切な装着を誘導できる
図3 アンシルク®・プロJ キープケアのサイズ展開
SS、S、M、L、LLの5サイズがあり、サイズごとに色が違う
定期的なヒアリングと教育が重要
導入後、褥瘡対策委員会は各部署のリンクナースに対し、着用状況についてのヒアリングを行いました。適切に着用できているという報告があった一方で、ずり下がってしまう例があるという報告もありました。この点については、膝下の締め付けが軽減されている分、何らかの摩擦でずり下がってしまうことが考えられました。再度、製品の特性を説明し、看護師や患者さん自身が気づいたら、『膝下』のマークを目安に位置を直すよう指導していく必要があります。
弾性ストッキングの着用に限らず、看護師の知識や技術の浸透には時間がかかります。さらには全体的な研修では限界があります。まずはリンクナースの教育に努め、リンクナースが病棟のスタッフを教育、指導していくという体制づくりが重要です。そのためには、これからも定期的に病棟の意見を聞き、問題点を明確にしながら教育を徹底していきたいと思っています。
導入から2カ月が経ちましたが、これまでのところ弾性ストッキングによるMDRPUの発生はありません。褥瘡回診時などに病棟をみるかぎり、以前のように一目でわかるような誤った着用方法はみられなくなりました。
患者さんのために行っている治療やケアでも、患者さんに侵襲や負担を与えてしまうことがあります。それをより良いケア用品を使うことで改善することができるのであれば、これからも取り組んでいきたいと考えています。
社会医療法人愛仁会 高槻病院
がん診療支援センター、総合周産期母子医療センター、小児救命救急センターなどを備え、急性期病院として、診療機能の高度化・専門化を図り、常に医療サービスの充実に努めている
〒569-1192
大阪府高槻市古曽部町1丁目3番13号
■開設/ 1958年
■病床数/ 477床
■職員数/ 1323人(2019年4月現在)
撮影/尾上達也