肝臓がん患者さんのケア|外科的治療と内科的治療のケアの注意点
- 公開日: 2019/9/17
肝臓がん患者さんの術前のケア
多職種できめ細やかなサポートを実施
手術を受ける患者さんは手術や手術後の経過、退院後の生活などさまざまな不安を抱えていると考えられます。患者さんが安心、納得して手術に臨め、術後の回復を促すためにも手術前から十分な説明やケアが必要です。
当院では肝切除術を行う場合、手術2週間前に術前サポート外来を受診してもらっています。早期から情報を収集し、必要な情報を提供することで患者さん、医療者ともに周術期に対する十分な準備を整えることを目的に2014年から開始しました。
看護師は手術の意思決定支援をはじめ、入院から退院までの経過、手術当日の流れ、術後に挿入される点滴やドレーン類について具体的にイメージできるように、パンフレットを用いて説明を行います。禁煙・禁酒の必要性も説明し、患者さんが手術を前向きに捉え、不安の軽減ができるように支援しています。
また、手術前後の栄養サポート、呼吸器合併症の予防と体力強化を図るために、管理栄養士や理学療法士からも説明と指導を行い、入院前から合併症予防に努めています。ほかに、麻酔科医や薬剤師も面談および指導を実施します。
必要時には心療内科医、医療ソーシャルワーカーなどもかかわり、多職種で連携して術前から退院後の生活につながるサポートを行っています(図)。
図 術前サポートのイメージ
術後のリスクに備える
手術、全身麻酔では身体への侵襲が大きくなります。異常を早期発見するために既往歴や食生活、喫煙歴といった生活状況を把握するとともに、術後合併症を予測しておくことが大切です。また、肝細胞がん患者さんの多くはB型あるいはC型肝炎ウイルス感染による慢性肝炎や肝硬変を有しています。肝切除量によって術後肝不全のリスクが高まるため、術式や肝予備能の把握が必要です。
なお、手術後は幻覚や幻視、興奮、見当識障害などの症状を来す、せん妄が起こりやすくなります。これは高齢、認知症、頭部疾患の既往などの準備因子、発熱や脱水、薬剤などの直接因子、疼痛や不眠などの誘発因子が重なりあって発症します(表)。
せん妄を発症するとドレーン類の自己抜去やベッドからの転落といった事故が起こりやすくなるだけでなく、入院日数の超過にもつながります。そのため術前からせん妄のリスクを評価して予防に努めます。患者さんやご家族にもせん妄について説明を行い、理解と協力を得ることも必要です。
表 せん妄発症因子
肝臓がん患者さんの術後のケア
異常の早期発見と全身状態の回復に努める
全身麻酔により呼吸抑制や気道閉塞が起こる可能性があります。また、循環動態の変化による血圧低下や尿量低下、低体温などがみられることもあるため、異常の早期発見と全身状態の回復に努めます。術式、術中輸液・排尿量、出血量と輸血の有無、ドレーン挿入部位、麻薬持続投与量を把握して状態をアセスメントします。
呼吸器合併症の予防と回復促進のため、術後1日目から離床を開始します。疼痛コントロールを十分に行ったうえで、下肢の疼痛、腫脹や胸痛、冷汗などの観察とバイタルサインの変動を確認しながら進めます。初回の離床時には起立性低血圧、深部静脈血栓症、肺塞栓症に注意が必要です。疼痛が強く離床できない場合でも、側臥位や座位になるなどして同一体位で過ごすことは避けます。
術後の合併症に注意する
術後の患者さんは、重篤な合併症を引き起こす可能性があります。肝切除による主な合併症として、以下のものが考えられます。
◆術後肝不全
肝不全は重篤な合併症です。肝切除量や術中の出血量が多いとき、肝予備能が悪いときに起こりやすく、術式や肝予備能を把握しておくことが重要です。
◆術後出血
術後は腹腔内に血液や滲出液が貯留するのを防止するため、肝切離面、ウインスロー孔、横隔膜下などにドレーンが留置されます。どの部位に挿入されているか、確実に固定できているか、ドレーンのずれや屈曲の有無と排液の性状や排液量に注意して観察します。
◆胆汁瘻
肝切離面などから胆汁が漏れると黄色~茶褐色の排液がみられます。排液中の総ビリルビン濃度を測定して判断します。
◆栄養代謝障害
肝切除、肝予備能低下により糖新生が阻害されることなどが原因で、血糖値が不安定になる場合が多いことから、血糖コントロールが重要になります。また、タンパク質の合成能低下により浮腫や胸水、腹水が貯留しやすくなります。輸液量や食事摂取量、ドレーン排液量や尿量などの水分出納を注意して観察します。
最近では、腹腔鏡下での肝切除術が増えています。開腹での肝切除術と比較して創が小さく疼痛が少ないといった利点がありますが、手術時の気腹操作による肺塞栓や術中体位による神経障害に注意が必要です。
肝臓がんの内科的治療とケアの注意点
治療の特徴を理解して副作用に備える
肝臓の状態や進行具合により、肝切除以外の治療法が選択されることもあります。ここでは、主な内科的治療法とケアの注意点について解説します。
◆ラジオ波焼灼療法(radio frequent ablation:RFA)
超音波ガイド下で経皮的にがん細胞に電極針を刺し、ラジオ波を流してがん細胞を壊死させる治療法です。焼灼による腹痛、発熱が多くみられます。また腹腔内出血や肝周囲臓器損傷、肝膿瘍が起こる可能性があるため全身状態、血液データに注意して症状観察を行い、副作用の早期発見・対応につなげます。
◆肝動脈化学塞栓療法(transcatheter arterial chemoembolization:TACE)
抗がん剤を使用して、肝細胞がんに栄養を供給している肝動脈を塞栓し、壊死させる治療法です。これにより発熱、腹痛、悪心、嘔吐、倦怠感などの症状がみられます。ほかに、腎機能障害、肝機能障害が起こる場合もあるため、尿量や肝不全徴候、血液データに注意して症状観察を行い、副作用の早期発見・対応につなげます。
◆肝動注化学療法
肝動脈に直接抗がん剤を投与するため、全身投与と比較すると副作用の程度は軽いとされています。しかし、悪心、嘔吐、下痢、口内炎、倦怠感などの症状が出現する可能性があります。また、白血球減少や血小板減少などもみられるため血液データに注意して症状観察を行い、副作用の早期発見・対応につなげます。
◆分子標的薬による化学療法
肝臓がんで使用される分子標的薬にはソラフェニブ、レンバチニブがあります。主な副作用としては手掌や足底の疼痛や腫脹が起こる手足症候群があります。皮膚の保湿と強い刺激を避けることで防止できるので、患者さん自身にしっかりケアをしてもらうことが大切です。
また、高血圧になる場合もあるため、血圧の変動に注意が必要です。退院後も継続した血圧測定と記録ができるように指導します。
副作用が出現すると、患者さんは身体的な苦痛だけでなく、精神的にも苦痛を強く感じます。治療前にどのような副作用が起こる可能性があるのかをしっかり説明しておくことも重要です。