パーキンソン病の治療法 DATとは?―国内初の多職種によるDAT外来を開設し個別化医療の提供を目指すー
- 公開日: 2019/10/2
パーキンソン病は、日本でアルツハイマー病に次いで2番目に多い神経変性疾患です。現在、パーキンソン病はさまざまな治療を組み合わせて症状をコントロールできるようになってきています。その治療法の1つであるDAT(Device Aided Therapy:デバイス治療)に特化した外来を順天堂大学医学部附属順天堂医院が開設しました。そこで、そもそもDAT(デバイス治療)とはなんなのか、DAT外来とはどういったものなのかを紹介します。
はじめにー順天堂大学医学部附属順天堂医院 脳神経内科 教授 服部信孝 先生
パーキンソン病の治療は、薬物療法が主体ですが、機器装着治療を行うことで、よい状態が5年、さらに10年と延びる時代になっています。機器装着治療を導入することによってよりよい生活を送ることができると徐々に浸透してきていますが、もっと患者さんたちにこういった治療があるということを知らしめることが重要なのではないかなということで、大山先生が中心となってDAT専門外来を創設しました。我々の方針としては、一人でも多く日本全国から、場合によっては東南アジア、あるいはインドそういった国から患者さんたちに来てもらえるような専門外来としたい、とそう考えています。
現在、順天堂医院は、パーキンソン病患者さんを外来でフォローアップしている最大規模の大学病院ですが、よりよい治療をわかりやすく患者さんたちに説明・提供できるような専門外来を立ち上げることで、さらに生活の質を担保していきたいと考えています。
パーキンソン病および運動障害疾患に対するDAT(Device Aided Therapy)外来―順天堂大学医学部附属順天堂医院 脳神経内科 准教授 大山彦光 先生
パーキンソン病および運動障害疾患に対するDAT(Device Aided Therapy)外来を順天堂医院では、日本で初めて開設しましたので、その概要を解説します。
Device Aided Therapyとは、服部先生が先ほど機器装着療法と紹介しましたが、機器、デバイスを使った治療ということでデバイス治療というように考えてもらうとよいと思います。
現在、パーキンソン病の治療法のうち、日本で保険適用が認められているDATは、レボドパ・カルビドパ経腸療法(LCIG)、脳深部刺激療法(DBS)の2つになります。
パーキンソン病というのは、脳の中のドパミンが足りなくなってしまった結果、脳の回路がうまく機能しなくなって、さまざまな運動症状が生じる疾患です。標準的な治療は足りないものを補充する、つまりドパミンの前駆物質であるレボドパを補充するという薬物治療になりますが、病気が進行すると薬物治療ではよい状態を1日中キープすることが難しくなってきます。その状態を改善する方法がDATで、2通りあります。
1つは薬剤を一定の速度で持続的に投与し続けるレボドパ・カルビドパ経腸療法(LCIG)という方法です。レボドパ製剤は通常、錠剤なのですが、ジェル状にしたレボドパ製剤をポンプで持続的に小腸に注入し続けるという療法です。一定の速度で注入し続けることで、効きすぎたり効かなかったりすることを避けることができ、1日中一定の状態を保つことができます。薬物治療の延長線上にある治療法であり、その効果を最大にするためにポンプといった機器を使用して、補助する治療法です。2016年から日本では保険適用となっていて、現在、500例の治療例があります。
一方で、薬剤に頼らない方法として、ドパミンが足りなくなった結果生じる脳の回路のアンバランスを直接調整する脳深部刺激療法(DBS)があります。こちらは、異常な信号を出している脳の回路を電気刺激によってブロックして回路のアンバランスを調整する方法です。これは、比較的古くからある治療法で、日本では、2000年から保険適用になっており、現在、一般的に行われています。
それぞれ一長一短があって、どちらも進行期のパーキンソン病の治療として非常に効果が高いのですが、DBSは脳手術が必要である、LCIGは胃に穴を開ける手術が必要があるといったアプローチの仕方の違いもあり、患者さんにとては、どちらがよいかわかりづらいといえます。また、医療機関によっては実施できる治療が限られている場合もあり、患者さんが十分な選択肢を与えられないままでいる、といった問題が起こっているのが現状です。
このように機器を装着する複雑な治療であり、薬剤の投与だけではなく、生活面でのサポートも必要となるため、脳神経内科医だけではなく治療デバイスを埋め込むための外科医や、看護師、リハビリスタッフ、その他のパラメディカルが協力して、多職種でサポートする必要があります。
そこで我々は、こういった現状の問題を解決し、患者さんをサポートするべく、DAT外来を立ち上げることとなりました。
9月2日から開始しているDAT外来の特徴は、大きく5つあります。
1.脳神経内科医、外科医、看護師、リハビリスタッフ、精神科医・心理士、薬剤師、研究者等から構成される多職種(Interdisciplinary)チームによる総合的・包括的な評価・治療・ケアの提供を目指します。
2.DATを希望する・興味がある患者さんに対して、外来での評価から、入院における評価、治療導入のための入院、退院後の外来サポートまでシームレスに同じチームでカバーしていくことを考えています。
そのために、通常日本で行われている外来のシステムとは違う形を取って、チームで患者さんをみます。
3. DAT外来ではチームメンバーが順番に、同時並行的に患者さんを見るといった米国の外来で採用されている方式をモデルとしています。
具体的には若い神経内科の医師やパラメディカルが患者さんの評価・問診を行い、上級医であるアテンディングがその情報を統括し、判断が難しい場合は入院してもらい、さらに評価をするといったことを判断する、という流れになります。
4.先ほど紹介した2種類のデバイスだけではなく、現在も新たなデバイスが開発されています。LCIGは経腸で胃から通して小腸に注入し続ける治療ですが、もっと簡便な皮下注射で行う療法が海外で行われていますし、日本でも現在治験が開始されています。こういった将来出てくるであろうデバイス治療にも対応していくことを予定しています。
5.また、これから始める患者さんだけではなく、すでに他の病院でDATを始めていて、うまくいっていない、トラブルが生じている患者さんの相談にものっていきます。
このように、総合的にDATに対応していく外来となります。
DAT外来の流れをもう少し詳しく紹介します。
もし、患者さんがデバイスを使った治療に興味がある、やってみたいということであれば、当院にご紹介いただき、チームによる外来で、問診・診察、評価を行って適応がありそう、適応の判断がさらに必要ということであれば、適応評価入院を行います。いずれもチーム全体で対応します。
最終的な判断で、DATができる場合でも、どちらのデバイスが向いているか、そういった判断もすべて行って、我々の評価の結果をも含め「あなたの場合はどの治療ができますよ」と、全選択肢を提示します。その上で、患者さんに望む治療を選んでもらい、DATを希望された場合は、新たに入院を行って、治療を行い、DAT外来でフォローして、最終的に患者さんは紹介元に戻っていくという流れになります。もちろん、連携を取って定期的なフォローもしていきます。
DATに関して、今までこういったシステマティックな治療を継続して行うような外来を開設したところはなかったと思いますので、日本では初めてと言えると思います。
LCIGのポンプ装着例