自律神経障害の看護|原因、症状、アセスメントとケア
- 公開日: 2022/4/25
自律神経とは
神経系は、中枢神経系と末梢神経系に大別されます(図1)。
中枢神経系は脳と脊髄により営まれ、末梢神経系からの情報を受け取り判断し、全身に適切な指示を送ります。
末梢神経系は、運動や感覚を司る体性神経と自律神経に分類されます。体性神経である脳・脊髄神経は、意思によるコントロールが可能な随意神経であり、皮膚や骨格筋に分布し、運動・感覚や知的活動などに関与しています。
自律神経は、意思とは無関係に活動する不随意神経で、主に血管、内臓、腺などに分布しています。交感神経と副交感神経の2重支配によって、呼吸、循環(血圧・脈拍)、体温調節、排泄、消化、吸収、分泌(唾液・汗・涙)、代謝(水分・電解質バランス)、生殖といった、生命維持に必要なホメオスタシスを保つための役割を果たしています。
図1 神経系の分類
自律神経の働き
前述したように、自律神経は、交感神経と副交感神経の互いに拮抗する神経によって諸器官を支配しています(図2)。
交感神経は、瞳孔散大、血圧上昇や心拍数の増加など身体の活動性を高めエネルギーを放出させる働きをもち、緊急事態や闘争状態に対応できる状態を整えます。それに対して副交感神経は、活動性を抑制して心身をリラックスさせ、エネルギーを温存する働きをもちます。
図2 自律神経の分布と支配
自律神経障害の原因
自律神経障害は、交感神経と副交感神経の拮抗する神経機能のバランスの不均衡状態により生じます。自律神経障害はその原因により、全身性と局所性の障害に大別されます。
全身性の自律神経障害を起こしやすい疾患にはパーキンソン病、多系統萎縮症、シャイドレーガー症候群、ギランバレー症候群、多発性硬化症といった神経疾患に加え、脊髄空洞症、糖尿病性ニューロパチー、甲状腺機能亢進症があります。
局所性の自律神経障害につながる疾患としては、交感神経の障害により生じるホルネル症候群などが挙げられます。また、加齢やストレス、精神的要因や不規則な生活から自律神経障害が引き起こされる場合もあり、自律神経のバランスが崩れた状態を自律神経失調症ともいいます。
自律神経障害の主な症状・検査
自律神経障害では、起立性低血圧、めまい、顔面蒼白、気分不快、意識消失、循環障害(不整脈・頻脈・徐脈)、瞳孔異常(縮瞳・散瞳)、膀胱直腸障害〔便秘、排尿障害(排尿困難、頻尿、尿失禁)〕、疼痛、発汗の異常、性機能障害(勃起不全:ED)などが生じます。
自律神経障害の可能性が高いと考えられる場合、問診に加え、症状に応じて神経学的検査や胸部単純X線検査、心電図や超音波検査といった生理学的検査が行われます(表1)。
表1 自律神経障害を評価する際に行われる主な検査(自律神経機能検査)器官または機能 | 自律神経障害時にみられる症候(症候群) | 代表的な検査 |
---|---|---|
眼・瞳孔 | ●瞳孔の異常(縮瞳、散瞳) ●眼瞼下垂 | ●対光反射 ●調節・輻轃検査 ●赤外線電子瞳孔計 ●点眼試験(塩酸ピロカルピンなど) |
循環 | ●起立性低血圧 ●食事性低血圧 ●脈拍の異常(徐脈、頻脈、不整脈など) | ●起立試験 ●ティルト(傾斜台)体位変換試験 ●Valsalva(ヴァルサルヴァ)試験 ●頸動脈圧迫試験 ●心電図R-R間隔検査 ●Holter心電図 ●MIBG心筋シンチグラフィ |
呼吸 | ●睡眠時呼吸障害 | ●睡眠ポリグラフ ●パルスオキシメータ |
消化管 | ●便秘、便失禁、下痢など | ●消化管運動検査 ●直腸肛門内圧測定 |
膀胱 | ●神経因性膀胱 (頻尿、排尿困難、残尿など) | ●膀胱内圧・尿道内圧測定 ●尿道括約筋筋電図 |
生殖器 | ●勃起障害(ED) | ●勃起機能検査 |
皮膚・汗腺 | ●発汗低下 ●皮膚栄養障害、潰瘍など | ●温熱性発汗試験 ●サーモグラフィ |
医療情報科学研究所 編:病気がみえる Vol.7 脳・神経 第2版.メディックメディア,2017,p.241.より引用
自律神経障害のアセスメントとケア
自律神経障害を有する患者さんに対して日常生活の援助を行う際は、自律神経障害が心身や生活に及ぼす影響について具体的にアセスメントします。また、自律神経障害による症状を悪化させる要因についてもアセスメントした上で、看護介入を行います。
自律神経障害の原因は多岐にわたるため、ここでは、神経疾患に伴う自律神経障害をもつ患者さんのケアに焦点をあてて解説します。
起立性低血圧
起立性低血圧は神経疾患に加え、脱水による循環血液量の減少、抗パーキンソン治療薬や降圧薬など薬物の副作用によっても生じます。臥床した状態から座位や立位へと体位を変換したときに起こりやすく、血圧の低下、めまい、ふらつき、重篤な場合は意識消失がみられます。
臥床から立位への体位変換に伴い、起立後3分以内に収縮期血圧が20mmHgまたは拡張期血圧が10mmHg以上低下した場合に起立性低血圧と診断されるため、体位変換時の循環動態の変化について観察を行います。
起立性低血圧を予防するためには、急な体位変換を行わず、ゆっくりと起き上がるようにしたり、長時間の立位は避けて途中で座るようにしたりするなど、患者さんや家族に指導します。
著しい起立性低血圧では、生活行動が縮小され臥床しがちになります。弾性ストッキングの着用や可能な範囲で水分を摂取し、循環血液量の維持に努めます。
パーキンソン病などの神経疾患においては、運動機能障害が中核症状となることから、起立性低血圧に伴うふらつきによる転倒転落にも注意が必要です。重症例では、低血圧を予防するための薬物治療が実施されるため、適切に服薬が行われているか観察します。
排尿・排便コントロール
排尿や排便の調節には、交感神経と副交感神経が関与していることから、自律神経障害が生じると尿失禁、尿閉、頻尿、便秘、下痢、便失禁といった膀胱直腸障害を引き起こします。
特に神経難病では、運動機能が障害されることで機能性尿失禁を伴いやすいため、自律神経障害による影響なのか、排泄動作がスムースに行えないことによる影響なのか、排泄障害の原因や誘因を把握することが大切です。
また、排尿・排便の回数、性状、パターン、自覚症状(残尿感がある、排尿痛がある、便が出にくいなど)についてアセスメントし(表2)、適切なケアを行うことで、尿失禁や便失禁の軽減につなげることも重要です。例えば尿失禁がみられる場合、排尿パターンに応じた排尿誘導を行うとともに、水分摂取量や摂取時間帯を把握し、夜間の尿量が増えないように水分出納バランスを調整します。
排泄はプライベートな行為であり、尿失禁や便失禁は患者さんの自尊心を深く傷つけます。排泄障害に伴う心理的な影響についても把握した上で、患者さんの尊厳を守るかかわりが求められます。排泄障害では羞恥心や不安な気持ちを抱きやすいため、心理的なサポートも欠かせません。
表2 主なアセスメント項目(排尿障害を認める場合)
・性別
・内服薬
・認知能力
・排尿回数、排尿間隔
・尿意の有無
・排尿に伴う自覚症状(残尿感、尿閉など)
・排尿方法(トイレ、尿器・便器、ポータブルトイレ、おむつ)
・排尿に必要な運動機能〔起き上がり、歩行、姿勢変換、座位保持(腹圧をかけられるか)、巧緻性(排泄後の始末が可能か)〕
・水分摂取量
生活リズムの調整
自律神経は、仕事による疲労や人間関係によるストレス、気温などの環境要因、昼夜逆転の生活や寝不足といった不規則な生活によってもバランスが崩れやすいといわれています。日常生活を整えることの必要性を患者さんが理解し、セルフコントロールできるように支援するとともに、家族にも協力が得られるように情報提供していくことが大切です。
ストレス・不安の軽減
自律神経障害は多様な症状を呈するため、患者さんの心身にさまざま影響を及ぼします。自律神経障害による症状やそれに伴う心理的な苦痛は目に見えにくいものが多く、周囲に理解されにくい病状といえます。
特に神経難病では、病状の悪化・進行により自律神経症状も悪化していくため、心身の苦痛に伴うストレスや不安が継続します。患者さんの不安やストレスを少しでも軽減するため、必要に応じて、患者さんの強みを活用したストレスコーピングの方法を見つけられるように支援します。
参考文献
●村川裕二 総監:新・病態生理でできった内科学7 神経疾患 第3版.医学教育出版社,2011,p.19-20.●医療情報科学研究所 編:病気がみえるVol.7 脳・神経 第2版.メディックメディア,2017,p.240-1.
●浅野嘉延,他編:看護のための臨床病態学 第4版.南山堂,2020,p.441-2.