第6回 小児の経管栄養|目的、適応、手順、注意点
- 公開日: 2022/2/20
経管栄養の目的
経管栄養は、経口摂取が不可能あるいは不十分であり、消化管が機能している場合に、体外から消化管内に通じたチューブを用いて、栄養や薬剤を供給する目的で行われます。
経管栄養の適応
経管栄養が必要となる病態として、吸啜や咀嚼、嚥下機能障害(もしくは未熟性)、神経疾患や先天性疾患による哺乳力低下・経口摂取困難、口唇口蓋裂・小顎症などの口腔形態や機能の障害、手術後や鎮静薬の使用などによる消化管の一時的な機能低下などが挙げられます。
小児のエネルギー必要量
エネルギー必要量に関する基本的な考え方として、成人では基礎代謝量(kcal/日)と身体活動レベルをもとに推定エネルギー必要量を算出します。
小児の場合、身体活動に必要なエネルギーに加え、成長発達に不可欠な、組織合成に要するエネルギーおよび組織増加分のエネルギー(エネルギー蓄積量)も摂取する必要があります。そのため、基礎代謝量(kcal/日)と身体活動レベルにエネルギー蓄積量を加えて推定エネルギー必要量を算出します(表1)。
基礎代謝量、身体活動レベル、エネルギー蓄積量は性別や年齢などにより異なるため、表2の数値を参考にします。
表1 小児の推定エネルギー必要量の算出方法*1:身体的にも精神的にも安静な状態で生命を維持するのに必要な生理的に最小のエネルギー代謝量=基礎代謝基準値(kcal/kg体重/日)×体重(kg) *2:生活強度に応じて乗じる係数。6歳以上の場合、低い(Ⅰ)、ふつう(Ⅱ)、高い(Ⅲ)の3段階が設定されている *3:1~17歳において、身体活動なエネルギーに加え、組織結合に要するエネルギーと組織増加分のエネルギーを余分に摂取する必要があることから設定されているもの
表2 小児のエネルギー必要量
例として8歳女児、体重27.5kg、小学校に通学しており、適切な活動状況(スポーツクラブには所属せず、運動は体育程度の身体活動レベルⅡ(ふつう)という場合の推定エネルギー必要量を求めてみましょう。これを前述の式に当てはめると、表3のようになります。
表3 推定エネルギー必要量の算出例入院中の患児はベッド上での生活が中心となるため、健常児と比べて活動レベルは低くなります。一方で、手術の実施、感染症などによる発熱や褥瘡の発生により身体に負担がかかっている場合は、ストレスで消費エネルギーが増加します。同じ患児であっても、状態により必要栄養量が異なることに留意しましょう。
小児における栄養剤の選択のポイント
経腸栄養剤は、天然濃厚流動食と人工濃厚流動食に大別されますが、多くの場合、人工濃厚流動食が使用されます。人工濃厚流動食は消化の程度(窒素源の違い)により、「成分栄養剤」「消化態栄養剤」「半消化態栄養剤」に分けることができます。また、医薬品として提供されているものと食品扱いになっているものとに分けられます(表4)。さらに、乳幼児では通常の人工乳のほかに、さまざまな治療乳が存在します(表5)。
栄養剤を選択する場合、第一に患児にとって必要な栄養素を充足できる内容とします。食品扱いの栄養剤は保険適用がないため、患児・家族の経済的負担が大きくなるというデメリットがありますが、種類が豊富で、含有されている栄養成分も製品により異なるため、より病態に適した栄養剤の選択につなげられるメリットがあります。
また、味付けも工夫されたものが多く、飲みやすさを考慮した際に選択肢が広がるところも利点として挙げられます。医薬品扱いの栄養剤だけでなく、状況に応じて、食品扱いの栄養剤の選択も検討するとよいでしょう。
表4 人工濃厚流動食の種類と特徴医薬品・食品別 | 製品例 | 特徴 | |
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成分栄養剤 | 医薬品 | エレンタール®、エレンタール®P、ヘパンED® | ●窒素源がアミノ酸の形で配合されたもの ●基本的に消化を必要とせず、ほとんどの成分が上部消化管で吸収されるため、消化吸収障害を認める場合や炎症性腸疾患(主にクローン病)、短腸症候群などに用いられる ●成分栄養剤は脂肪含有量が低く、長期間投与する場合は脂肪乳化剤の投与が必要になるほか、必須脂肪酸欠乏症を起こすリスクがある ●浸透圧が高いため、浸透圧性下痢に注意が必要である |
消化態栄養剤 | 医薬品 | ツインライン®NF | ●窒素源が低分子ペプチド(ジペプチド・トリペプチド)とアミノ酸で構成されたもの ●窒素源としてタンパク質を含まないためカード化*4が起こらず、チューブ閉塞のリスクが少ない ●消化の過程を必要とせずに吸収されることから、成分栄養剤と同様、消化吸収障害を認める場合や炎症性腸疾患(主にクローン病)、周術期などで用いられる ●浸透圧が高いため、浸透圧性下痢に注意が必要である ●種類により脂肪含有量が異なるため、患者さんの状態により使い分けることができる *4:腸内のカテーテル先端での腸内細菌の増殖により、栄養剤が酸性に傾いてタンパク質が変性を起こし、ヨーグルト状に固形化すること |
食品 | エンテミール®R、ペプチーノ®、ペプタメン®スタンダード、ペプタメン®AF、ハイネイーゲル®など | ||
半消化態栄養剤 | 医薬品 | エンシュア・リキッド®、エンシュア®・H、エネーボTM、ラコール®NF、アミノレバン®EN | ●窒素源はポリペプチドかタンパク質で、吸収するためには消化の過程を経る必要がある ●成分栄養剤や消化態栄養剤と比べて脂肪含有量が高いことから、長期間投与しても必須脂肪酸欠乏症をきたすリスクはほとんどない ●浸透圧が低いため、浸透圧性下痢が起こりにくい ●タンパク質の変性によるカード化が発生しやすく、細径のチューブでは閉塞に注意が必要である ●味が良く、経口摂取にも適している |
食品 | アイソカル®1.0ジュニアなど |
製品例 | |
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アレルギー児用 | ニューMA-1、ミルフィーHP、エレメンタールフォーミュラー、ボンラクトiなど |
乳糖除去ミルク | ラクトレス、ノンラクト、上記アレルギー児用ミルク |
胃食道逆流症用 | ARミルク |
特殊ミルク | MCTフォーミュラ、糖質代謝異常用ミルク、蛋白質・アミノ酸代謝異常用ミルク、有機酸代謝異常用ミルク、腎疾患用ミルク、電解質代謝異常用ミルクなど |
経管栄養の手順(経鼻経管栄養法の場合)
【必要物品】
注入ボトル、栄養セット、カテーテルチップシリンジ、聴診器、点滴スタンド、栄養剤(ミルクや母乳、流動食も含む)、ディスポーザブル手袋、プラスチックエプロン【手順】
経管栄養における注意点
小児の経管栄養において最も注意しなければいけないことは、経管栄養実施中に予期せぬ体動により発生する胃チューブの自己抜去です。小児全般(乳児では特に)、無意識に口元に手を持っていったり、胃チューブに指が引っかかってしまいそのまま自己抜去してしまうケースは少なくありません。自己抜去は誤嚥のリスクがあるだけでなく、場合によっては窒息してしまうこともあり、十分な安全対策と観察が必要になります(表6)。
表6 経管栄養実施中に胃チューブが抜けた場合の主な対応患児の年齢や実施時の状態により、患児・家族に十分説明をした上で、保護抑制も考慮します(図1)。栄養剤投与前後には、胃チューブの固定状況もしっかり確認しましょう(図2)。また、経口摂取を行わないと、唾液の分泌が減って口腔内が乾燥しやすく、自浄作用が低下します。細菌が繁殖しやすい状態のため、定期的な口腔ケアも忘れずに行うことが大切です。
図1 栄養剤注入中の保護抑制例 【肘関節帯(手作り)】