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【連載】小児科で必要な看護技術を学ぼう!

第5回 小児の吸引(気管吸引)|目的、手順、注意点

  • 公開日: 2022/2/15

吸引の目的

 小児は上気道が狭く自分の力で分泌物を喀出できないことがあるため、気道閉塞を起こしやすい状態になっています。そのため、下記の目的で必要時に吸引を実施します。

①気道分泌物などの異物の除去

②気道閉塞の防止と換気の改善

吸引の適応

 以下のような症状が出現した場合に吸引を実施します。基本的には成人と同様です。

①努力呼吸が強くなっている(呼吸仕事量増加所見:呼吸数増加、浅速呼吸、陥没呼吸、補助筋活動の増加、呼気延長など)
②視覚的に確認できる(チューブ内に分泌物が見える)
③胸部聴診で気管から左右気管支にかけて分泌物の存在を示唆する副雑音(低音性連続性ラ音:rhonchi)が聴取される。または呼吸音の減弱が認められる
④気道分泌物により咳嗽が誘発されている場合であり、咳嗽に伴って気道分泌物の存在を疑わせる音が聴こえる(湿性咳嗽)
⑤胸部を触診しガスの移動に伴った振動が感じられる
⑥誤嚥した場合
⑥ガス交換障害がある
動脈血ガス分析や経皮酸素飽和度モニタで低酸素血症を認める
⑧人工呼吸器使用時
●量設定モードの場合:気道内圧の上昇を認める
●圧設定モードの場合:換気量の低下を認める
●フローボリュームカーブで、特徴的なのこぎり歯状の波形を認める
⑨喀痰検査のためのサンプル採取のため

日本呼吸療法医学会,編:気管吸引ガイドライン(成人で人工気道を有する患者のための).2013:p.80.より引用

吸引の手順(閉鎖式気管吸引の場合)

 閉鎖式気管吸引は呼吸器回路を外すことなく吸引操作ができるため簡便で、感染予防や一酸化窒素(NO)使用時の環境汚染の軽減にも有用です。また、吸引時の低酸素血症や循環動態の悪化を最小限にすることができます。

【必要物品】

吸引器、吸引用耐圧チューブ、閉鎖式吸引カテーテル、ウエットパック、手袋、聴診器

【手順】

吸引手順

吸引時の注意点

実施前には適切な説明を行うこと

 気管吸引は強い苦痛を伴うため、実施前には年齢や発達に合わせた説明を行う必要があります。また、家族(保護者)に対しても説明を行い、必要時には協力を依頼しましょう。

準備、手順の確認を怠らないこと

 小児に対する気管吸引は、低酸素や不整脈、血圧の変動などを引き起こし、全身状態の急激な悪化を生じさせる可能性があるため、安全で確実な手技が求められます。また、閉鎖式吸引カテーテルはサイズが合っていないと接続・挿入できません。適切なカテーテルサイズを選択し使用しましょう。

【カテーテルサイズ】
挿管チューブ閉鎖式吸引カテーテル
2.5mm
5Fr
3.0mm
6Fr
3.5mm
7Fr
4.0mm
8Fr

モニタリングを常に怠らないこと

 気管吸引に伴う変化を観察するためには、実施前・実施中・実施後の観察と、モニタリングを常に怠らないことが重要となります。

【気管吸引時の観察項目】
●顔色、表情、全身色
●心電図(不整脈の有無、心拍数の変化の観察)
●SpO2(全身の酸素化や吸引に伴う変化の観察)
●血圧(吸引処置に伴う血圧の変化の観察)
●吸引後のモニタリング値などが、吸引前の安静時の状態に戻るまでの時間など

合併症に注意すること

 気管吸引は吸引中に換気が行えず、低酸素血症に陥る危険性があります。特に小児は、無呼吸や低酸素に対する許容時間が成人と比べて短いため、1回の吸引時間は5秒以内で行います。低酸素血症に至ると、場合によっては徐脈、血圧低下、肺血管攣縮などを来たし、心拍出量の低下から心停止となる可能性もあります(小児は未熟性と予備力の小ささから、低酸素血症からの徐脈、そこからの心停止は急速に起こることがある)。

 また、吸引実施時には、気道の解剖学的な構造を理解して行うことが重要です。小児の気道は細く、粘膜は未熟で傷つきやすい状態にあります。気道粘膜は、刺激によって容易にびらんや出血を引き起こし、この粘膜刺激が繰り返されることで肉芽が形成され、さらに出血しやすい状態となっていきます。肉芽が形成される場所によっては気道閉塞を来たすことから、より注意が必要です。

 一般的に、気管吸引時の吸引チューブの挿入の長さは、挿管チューブの長さ+0.5~1cmといわれていますが、患児の状態によって異なるため、医師の指示に従いましょう。

感染防止策を遵守すること

 気管吸引では、カテーテルの使用や水、汚染された手指に付着した微生物が下気道内に侵入することで肺炎を併発するおそれがあり、滅菌での手技が必須です。気管吸引を行う際には、標準予防策(スタンダードプリコーション)を遵守しましょう。

 また、閉鎖式気管吸引は開放式気管吸引とは違い、呼吸器回路に組み込んだ閉鎖した状態での吸引が可能です。そのため、気道内分泌物の飛散を防ぎ、感染リスクの軽減につながります。

安全確保を行うこと

 小児は、年齢によっては吸引時に協力を得ることが難しく、発達や年齢に合った最小限の抑制が適宜必要となることがあります。

 急性期であれば鎮静薬を使用していることもあるため、その鎮静深度によっても対応は異なります。体動があるケースでは、タオルを身体に巻き四肢が動かないようにします。場合によっては、四肢を抑えるなどの介助者が必要なこともあります。また、最低限必要なタイミングで、ミトンや抑制帯の使用も検討します。

 いずれにしても、普段の四肢の動きの程度や覚醒度などについて情報収集し、それぞれの患児に合わせた対応をとることが大切です。

【安全確保のための主な対応】

★介助者による協力
介助者がいる場合には介助者に協力してもらいます。
介助者による抑制

★ミトンの使用
患児に合ったミトンの使用により、患児がチューブをつかんだりすることなどを防止できます。
ミトンによる抑制

★抑制帯の使用
動きが活発で危険な場合は、抑制帯の使用も限定的なタイミングで検討します。抑制帯を使用する場合は、皮膚への損傷がないように保護することと、必要がなくなった場合はすぐに外すことが重要であり、安易な使用はしないようにしましょう。
抑制帯

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