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『酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症(ASMD)』と新しい唯一の治療薬について

  • 公開日: 2022/6/29

2022年5月17日にオンラインにおいて、サノフィ株式会社よるメディアセミナーが開催されました。テーマは「酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症(以下、ASMD)の病態と診断、最新治療と今後について~希少疾患において世界初の治療薬がもたらすものとは」です。ここでは、秋田大学大学院医学系研究科小児科学講座 教授の高橋勉先生による講演についてレポートします。

ASMDの疾患概要

 酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症(ASMD)とは、かつて「ニーマン・ピック病(NPD)A型およびB型」と呼ばれていたライソゾーム病の一種です。

 ライソゾームは細胞内にある小器官で、身体の中で不要になった物質を分解するための酵素を多く蓄えています。ライソゾーム病とは、これらの酵素が作られなかったり働きが弱かったりするために不要な物質が体内に蓄積する疾患であり、現在60種類あることが知られています。

 ASMDでは「酸性スフィンゴミエリナーゼ」という酵素が不足し、「スフィンゴミエリン」という物質が肝臓や脾臓、肺などにたまってさまざまな症状を引き起こします。 ASMDの原因は、酸性スフィンゴミエリナーゼを作るための遺伝情報をもったSMPD1の遺伝子変異とされています。その結果、酸性スフィンゴミエリナーゼの異常あるいは酵素活性の欠損や低下を示し、ASMDを発症すると考えられています。

 表1に示すように、ASMDの症状は全身に及びます。特に肺、血液、肝臓、脾臓に多く、重症例では神経、心臓、血管、消化器、骨などにも症状が現れます。

表1 ASMDの症状
出現部位 症状
神経 ●発達の遅れ(言語能力、運動能力)
●眼底の赤い斑点
●筋力の低下

●息苦しさ
●肺炎などの感染症
心臓および血管
●HDLコレステロールの値が低いなどの脂質異常
●冠動脈や弁の異常
肝臓および脾臓
●肝臓や脾臓が大きくなる(腹部のふくらみ)
消化器
●下痢

●思春期における成長の遅れ(低身長)
●骨折しやすい
●背中や手足の痛み、関節痛
その他
●哺乳する力が弱い
●嘔吐しやすい
●身体のだるさ

 ASMDは現在3つのタイプに分類されています。具体的には、①乳児期に発症する内臓神経型(NPD-A型)、②慢性内臓型(NPD-B型)、中間的な③慢性内臓神経型(NPD-A/B型)です(表2)。ASMDはこれまでニーマン・ピック病C型(NPD-C型)と同じ疾患とされてきました。しかし、遺伝や疾患の機序などの違いにより、別の疾患と考えられるようになりました。

表2 分類と特徴
タイプ 特徴
乳児内蔵神経型ASMD(NPD-A型) 急速に進行し、神経や内蔵などに思い症状があらわれる
慢性内蔵神経型ASMD(NPD-A/B型) 進行は緩やかだが、さまざまな内臓などに症状があらわれる。また、神経症状があらわれることもある
慢性内蔵型ASMD(NPD-B型) 進行は緩やかだが、さまざまな内臓などに症状があらわれる。なお、神経症状があらわれることはまれ

疫学頻度と国内患者数の現状について

 ライソゾーム病全体をみると、頻度は新生児5000人に1人と推定されています。

 欧米での調査結果によると、発症から診断までにかかる期間は約5年とされています。これによりASMDの診断は難しくなっており、さらに未診断の患者さんも多いのではないかと考えられます。

 一方、調査研究による患者数は10万人につき0.5~1人です。つまり、65歳未満の日本人のうち350~500人はASMDであると推定されます。しかし、現在の国内調査ではASMDと診断されている患者さんは数名にとどまります。今後は診断が進むこと、また今回治療法が確立したことで疾患の周知が進み、診断に至る患者さんが多くなることを期待しています。

ASMDの診断について

 ASMDの診断の流れは、まずASMDの可能性がある症状の特徴を把握します。乳児期発症の内臓神経型ASMDは、腹部のふくらみ、発達の遅れおよび筋肉の脱力などを含む急速に進行する全身症状を特徴とします。また、慢性内蔵型ASMDおよび慢性内臓神経型ASMDは、緩やかな進行する全身症状を特徴とします。

 次にASMDの可能性があるかどうかを、胸部レントゲン、腹部エコー、血液検査、眼底検査などで調べます。最後に酵素活性検査を行い、異常があれば遺伝子検査で遺伝子(SMPD1)の変性を調べます。

 ASMDの鑑別診断の対象となる主な疾患としては、ゴーシェ病、ニューマン・ピックC型、酸性リパーゼ欠損症があり、このうち1つを疑った場合は、4つの疾患を念頭に置きながら検査を進める必要があります。

 特にASMDとゴーシェ病は最も似ている疾患として知られており、鑑別が重要となります。具体的には、ゴーシェを疑って検査で否定された場合はASMD、ASMDを疑い検査で否定された場合はゴーシェ病となるということです。両者の疾患に診断法がそろった現在、両者を同時に調べるパラレル検査が非常に重要になります。

治療の現状とこれからについて

 これまでのASMDの治療法は、症状を緩和・軽減するための対症療法でした。例えば肺の症状に対する酸素補充、脾臓の部分切除、肝移植、脂質異常症の治療などです。しかし、これらの治療効果には限界がありました。

 今年、酵素補充療法という欠損している酵素を点滴で補うASMDの治療法が登場しました。その治療で使用するのがオリプダーゼ アルファ(遺伝子組み換え)です。この治療が登場したことをきっかけに、ASMDの診断がより進み、患者さんの治療へのアクセスがよりスムーズとなることが期待されます。そのためには、本疾患の存在と治療法の確立について国内へ周知することが大変重要であると考えています。 


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