第3回 薬剤ごとに違う! 細胞障害性抗がん薬、分子標的薬によって起こる皮膚障害【PR】
- 公開日: 2023/12/13
細胞障害性抗がん薬で起こる皮膚障害のケア
どんな皮膚障害を発症するのかを知っておく
細胞障害性抗がん薬では、表のような皮膚障害が起こります。
表 細胞障害性抗がん薬で起こる皮膚障害の種類
種類 | 主な薬剤 |
発疹、紅斑 |
フルオロウラシル、シタラビン、シスプラチン、ブレオマイシン、リポソーム化ドキソルビシン、エトポシド、ブスルファン |
皮膚乾燥 | ゼローダ、ティーエスワン、パクリタキセル、カペシタビン |
皮膚掻痒 | フルオロウラシル、カペシタビン、エピルビシン、パクリタキセル、ブスルファン、シスプラチン |
色素沈着 | フルオロウラシル、カペシタビン、テガフール、ドキソルビシン、エピルビシン、パクリタキセル、シスプラチン |
爪甲の変化 | フルオロウラシル、カペシタビン、テガフール、ドセタキセル、パクリタキセル |
手掌・足底発赤知覚不全症候群(手足症候群) | フルオロウラシル、カペシタビン、パクリタキセル、ドセタキセル、リポソーム化ドキソルビシン、エトポシド |
皮膚硬化 | パクリタキセル、ドセタキセル |
脱毛 | 【高度】 シクロホスファミド、イホスファミド、エトポシド、ドキソルビシン、ドセタキセル、パクリタキセル、エピルビシン、イリノテカン 【中等度】 カルボプラチン、ビンクリスチン、メトトレキサート 【軽度】 シスプラチン、フルオロウラシル、ゲムシタビン |
爪のトラブルは、爪床部で爪をつくる爪母細胞に薬剤が蓄積することで起こるので、症状はじわじわと現れます。炎症が起き、爪床の皮膚が浮腫を起こし、爪が変形したり、割れたり、爪が浮き、取れてしまうこともあります。
皮膚の色素沈着も起こりやすい症状です。皮膚の基底層の細胞がダメージを受け、メラノサイトが刺激されてメラニン色素が増加、または色素の排出がうまくいかなくなることが原因と考えられています。色素沈着は可逆性の症状で、投与終了後、半年から1年くらいで治っていきます。
抗がん薬によって皮脂腺や汗腺がダメージを受け、皮脂や汗が出なくなってしまうため、皮膚が乾燥します。皮膚乾燥も投与が終了すればやがて治りますが、皮脂腺などの再生には時間がかかるため、やや治りにくい傾向があります。
紅斑や発疹は、血管から漏出した薬剤が皮膚にダメージを与えるのが原因と考えられています。薬剤によって、全身に出現するものもあれば、腋の下など関節部に現れやすいものもあります。また投与中、はじめのうちはひどい発疹がみられるものの、だんだん現れにくくなるゲムシタビンのような薬剤もあります。発疹の出方も多型紅斑がみられたり、薬剤によってさまざまです。
ケアのポイント
ケアの基本はやはり保湿と保清です。抗がん薬の開始と同時に、しっかりスキンケアを行い皮膚障害を予防します。
皮膚障害がCTCAE(有害事象共通用語基準)v.5.0 グレード2になったら皮膚科を受診するようにします。特に皮膚障害の範囲が広い場合や、QOLに悪影響が及んでいる場合は、早めに皮膚科を受診したほうがよいと思います。爪に関しては、なんらかの症状が現れた時点で早めに皮膚科につなげるとともに、爪のケア方法を指導します。爪のケアも保湿が基本です。何かに引っ掛かると爪が外れたり割れたりするので、爪を伸ばさないようにします。またトップコートや爪の補強剤を使い、爪が割れるのを防ぐのもよいでしょう。ジェルネイルも爪の保護に役立つので、禁止はしていません。ただし爪の下の色が見えないと、副腎皮質ステロイド外用薬を開始するタイミングや、ステロイド使用時の緑膿菌感染の徴候などが見えなくなるので、クリアや薄いピンクを選ぶようにします。
爪が浮き、外れそうなときは、後爪郭の部分にステロイドを塗り、浮いてきた爪のところにステロイドのローションを入れ込むようにつけ、爪が外れないように紙テープで保護します。爪自体にテープがつくと、テープを剥がす際に爪も剥がれてしまうので、爪の部分にはガーゼやキッチンペーパーなどをはさみます。紙テープだと蒸れないし、取り替えもしやすいです。テープ同士がつく自着性のスポーツ用の包帯も、クッション性があり便利だと思います。
色素沈着や皮膚の乾燥に対するケアは、投薬中から終了後まで、とにかく保湿と保清が基本です。フルオロウラシルのように関節部など皮膚が擦れる部分に皮膚障害を起こしやすい薬剤もあるので、擦れないように保護します。また、特に投薬中は紫外線を浴びないように遮光することも大切です。
分子標的薬で起こる皮膚障害
1)EGFR阻害薬による皮膚障害
主な症状とケアのポイント
EGFR阻害薬は、EGFR(上皮成長因子受容体)が発現している細胞にダメージを与えるため、表皮の基底細胞、毛包、皮脂腺や汗腺、爪に皮膚障害が現れます。起こりやすい皮膚障害には、ざ瘡様皮疹、爪囲炎、皮膚乾燥、脂漏性皮膚炎などがあります。
これらの予防もやはり保湿と保清が基本です。症状が現れた場合は、早い時期からステロイドを使って炎症を抑えることになりますが、EGFR阻害薬で免疫機能が低下しているところにステロイドを塗ることで、感染しやすくなるので注意が必要です。
ざ瘡様皮疹は、投与開始から比較的早い時期に発症し、1〜2カ月で治まってきますが、一度治まっても、再びニキビ様のものがたくさん出てくることがあります。その皮疹がEGFR阻害薬の影響によるものか、皮膚が乾燥してバリア機能が低下しているところに感染が加わったのか、ステロイドの影響か、何かのアレルギーによるものかがわからないことも少なくありません。一度症状が治まったあとも、保湿と保清を続けるとともに、急に悪化した場合には皮膚科を受診して、症状に応じて抗生物質を用いるようにします。
脂漏性皮膚炎は、頭皮の落屑が滲出液とともに固着してガビガビになるもので、感染も起こりやすくなります。痛みのために洗わないでいたり、痂皮の上にステロイド軟膏を塗ると、軟膏カスと滲出液が固まって、ますます悪化するという事態に陥ります。脂漏性皮膚炎に対しては、予防と発症後ともに保湿・保清が重要です。痂皮は、まだ軽いうちにこまめに取り除きます。毎日シャワーで洗い流し、刺激の少ないシャンプーで取り除いたり、ワセリンでふやかしてメイク落としで除去するのもよいでしょう。脂漏性皮膚炎がひどくなったとき、皮膚炎自体の悪化か感染か、つまりステロイドがよいのか、抗生物質が必要かの見極めが難しいことがあります。一般に、滲出液が急に増え、臭う場合、痛みやひどいかゆみがある場合は、感染している可能性があるため、皮膚科を受診するようにします。
爪囲炎は、爪母細胞にダメージが起こって爪が変形したり、むくんだ皮膚に爪が突き刺さって肉芽が育ったりするもので、そこに感染も加わると悪循環が生じます。治りにくい症状ですが、早めに対処してうまく管理ができれば、コントロールできます。テーピングの指導が一番重要で、クッションになるものを当てて保護するテーピングを指導しています。創傷被覆材やガーゼなどをクッションにし、自着性のテープで固定します。創傷被覆材は自着性と非固着性があり、銀含有で抗菌性もあり滲出液も吸収してくれるものを使っています。ガーゼを使用する場合は、軟膏を塗りガーゼが爪に貼り付かないようにするとよいでしょう。テーピングが取れたり、滲出液が出てきたりしたら交換します。
2)マルチキナーゼ阻害薬による皮膚障害
主な症状とケアのポイント
マルチキナーゼ阻害薬では、手足症候群が起こりやすいのが特徴です。薬剤が血管から漏出して表皮にダメージを与えるとか、汗腺から薬剤が分泌されるからともいわれますが、メカニズムはよくわかっていません。
かかとなど圧がかかるところに現れやすいので、足なら革靴やヒールの高い靴など足を締め付けるような靴をはかない、インソールを使う、長時間歩かないといった対策が必要です。靴はヒモ靴が一番よいと思います。手の場合は、重い荷物を持たないようにすることも大切です。いろいろな刺激を避けることも大切で、お風呂はあまり熱くしないようにします。
保湿ケアで皮膚を柔らかい状態に保つことも大切です。表皮障害が起きて角質がうまく剥離できなくなり、角質が厚く硬くなってしまうと、胼胝になり、痛みを伴うようになります(有痛性胼胝)。胼胝ができたら、その都度削るようにしています。
手足症候群は、休薬すれば改善します。治ったら投薬を再開すれはよいので、痛みなどつらい症状があるときは無理することなく、いったんお休みすることが大切です。看護師には、患者さんが日常生活の中で困っていることやつらい症状がないか本音を聞き取り、皮膚障害をできるだけ早く発見し、医師に伝えることが求められています。
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がん治療の皮膚ケア情報サイト はだカレッジ
薬物療法の皮膚障害の情報を提供するサイト。
患者・家族向けの情報と医療従事者向けの情報を掲載。
医療従事者向けでは、「皮膚に学ぶ・薬に学ぶ・症例から学ぶ」「外来で役立つ・病棟で役立つ・生活で役立つ」の6つテーマに分けた情報が得られます。