ここが変わった! 改定DESIGN-R®2020
- 公開日: 2021/10/13
褥瘡状態の評価スケールである「DESIGN-R®」が、2020年12月に改定されました。ここでは、改定で追加された2つの項目をもとに、評価・ケアにおいて知っておきたいポイントについて、解説します。
「深部損傷褥瘡(DTI)疑い」と「臨界的定着疑い」の項目が追加
大きな変更点は、深さの項目に「深部損傷褥瘡(DTI)疑い」と炎症/感染の項目に「臨界的定着疑い」の項目が追加されたことです。
この2つは、「褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版)」にその治療について示されているにもかかわらず、「DESIGN-R®」では評価項目に含まれていませんでした。そのため、実際に「DESIGN-R®」を使用して評価するときに、DTIや臨界的定着(クリティカルコロナイゼーション)を疑う褥瘡をどう表現したらよいか、迷うところでした。
今回の改定で、「DTI疑い」は「Depth(深さ)」の項目で、「DTI」として追加されました(図1)。それに伴い、従来の「DU(深さ判定が不能な場合)」は「壊死組織で覆われ深さの判定が不能」としての「DU」に変更になっています。
「臨界的定着疑い」は「Inflammation/Infection 炎症/感染」の項目で、「3C」として追加されました(図2)。「DTI」の点数は0で、「3C」の点数は3点です。これまでのDESIGN-R®と合計の点数は変わらず、過去の評価と比較できるように配慮されています。
Depth 深さ 創内の一番深い部分で評価し、改善に伴い創底が浅くなった場合、これと相応の深さとして評価する | |||||
d | 0 | 皮膚損傷・発赤なし | D | 3 | 皮下組織までの損傷 |
1 | 持続する発赤 |
4 | 皮下組織を超える損傷 | ||
2 | 真皮までの損傷 |
5 | 関節腔、体腔に至る損傷 | ||
U | 深さ判定が不能の場合 |
日本褥瘡学会,編:褥瘡ガイドブック 第2版.照林社,2015,p.24.より引用
Depth*1 深さ 創内の一番深い部分で評価し、改善に伴い創底が浅くなった場合、これと相応の深さとして評価する | |||||
d | 0 | 皮膚損傷・発赤なし | D | 3 | 皮下組織までの損傷 |
1 | 持続する発赤 |
4 | 皮下組織を超える損傷 | ||
5 | 関節腔、体腔に至る損傷 | ||||
2 | 真皮までの損傷 |
DTI | 深部損傷褥瘡(DTI)疑い*2 | ||
U | 壊死組織で覆われ深さの判定が不能 |
*1 深さ(Depth:d/D)の点数は合計に加えない
*2 深部損傷褥瘡(DTI)疑いは、視診・触診・補助データ(発生経緯、画像診断答)から判断する
日本褥瘡学会,編:改定DESIGN-R®2020コンセンサス・ドキュメント.照林社,2020,p.4.より引用
Inflammation/Infection 炎症/感染 | |||||
i | 0 | 局所の炎症徴候なし | I | 3 | 局所の明らかな感染徴候あり(炎症徴候、膿、悪臭など) |
1 | 局所の炎症徴候あり(創周囲の発赤・腫脹・熱感・疼痛) |
9 | 全身的影響あり(発熱など) |
日本褥瘡学会,編:褥瘡ガイドブック 第2版.照林社,2015,p.24.より引用
Inflammation/Infection 炎症/感染 | |||||
i | 0 | 局所の炎症徴候なし | I | 3C*1 | 臨界的定着疑い(創面にぬめりがあり、滲出液が多い。肉芽があれば、浮腫性で脆弱など) |
1 | 局所の炎症徴候あり(創周囲の発赤・腫脹・熱感・疼痛) | 3*1 | 局所の明らかな感染徴候あり(炎症徴候、膿、悪臭など) | ||
9 | 全身的影響あり(発熱など) |
*1 「3C」あるいは「3」のいずれかを記載する。いずれの場合も点数は3点とする
日本褥瘡学会,編:改定DESIGN-R®2020コンセンサス・ドキュメント.照林社,2020,p.4.より引用
改定によって何が変わる?
今回の改定の大きな意義は、「深部損傷褥瘡(DTI)疑い」と「臨界的定着疑い」をきちんと評価することにより、適切なケアにつながり治癒の促進が期待できることです。
本来、DESIGN-R®は褥瘡の状態が安定した慢性期の評価ツールとして開発されました。しかし実際の現場では、褥瘡の急性期も局所ケアが必要であり、「褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版)」に則ってケアが行われていました。
つまり、急性期でもDESIGN-R®は使用されており、DTI疑いは「深さ判定不能」の「DU」、もしくは「持続する発赤」の「d1」と評価者によって分かれてしまうなど、差が生じてしまう危険もありました。
では、DTI疑いと壊死組織に覆われている褥瘡でのケアの方法は同じでしょうか。DTI疑いは、急性期の褥瘡のため徹底的な除圧と経過観察を行いながら重症化予防に努めていきます。一方、壊死組織に覆われている褥瘡では、壊死組織をデブリードマン(壊死組織除去)をする必要があるなど、ケアは異なります。
臨界的定着(クリティカルコロナイゼーション)が疑われると評価することで、洗浄やデブリードマンを行いバイオフィルムを徹底的に除去するようなケアを行うことができます。
もちろん、これまでも「DESIGN-R®」での評価とは別に、何らかの形でこれらの状態を示していたかと思います。しかし、「DESIGN-R®2020」では明確に評価できることで、よりケアに対する意識が高まり、実践につながりやすくなったといえます。
どう評価する? 「DTI疑い」
DESIGN-R®2020が示すDTI疑いとは?
DTI*は、日本褥瘡学会用語集では「NPUAPが2005年に使用した用語であり、表皮剥離のない褥瘡(stageⅠ)のうち皮下組織より深部の組織の損傷が疑われる所見がある褥瘡をいう。」と定義されています。一方、DESIGN-R®2020では「DTI疑いは、表皮剥離のない褥瘡に限定されることなく、急性期褥瘡で皮下組織より深部の組織の損傷が疑われる病態」と記されています。
ここでのポイントは、「表皮剥離のない褥瘡に限定されることなく」です。つまり、表皮剥離など組織欠損があっても、皮下組織より深い損傷が疑われるような急性期褥瘡は全て「DTI疑い」として評価することができます。「DTI疑い」の項目が加わったことで、DESIGN-R®2020であれば急性期と思われる変化に富んだ褥瘡でも迷うことなく評価しケアに繋げることができるようになりました。
*DTIは「圧力やせん断力によって生じた皮膚軟部組織が損傷に起因する、限局性の紫色または栗色の皮膚変色または血疱」と定義されています。
DTI疑いの所見は?
DTI疑いの所見を確認する方法としては、視診・触診、画像診断、血液生化学検査、観血的処置などがあります。視診は、発赤、紫斑、浮腫、水疱、びらん、浅い潰瘍など急性期褥瘡の所見です。また、NPUAPが定義している紫や栗色の皮膚色が観察できる場合は、画像診断としてエコー評価することをお勧めします。エコーを使用しても判断がつかない場合は、DTI疑いとして経過評価していきましょう。
視診 |
発赤、紫斑、浮腫、水疱、びらん、浅い潰瘍 |
触診 | 硬結、泥のような浮遊感、温冷感 |
画像診断 | X-P、CT、MRI、エコー |
血液生化学検査 | クレアチンホスキナーゼ上昇 |
観血的処置 |
脂肪組織まで切開した際の出血の有無 |
評価の方法
DTI疑いの所見を評価する際、そもそも褥瘡か否か、褥瘡であれば急性期なのか慢性期なのか、反応性充血ではないのか、またはスキントラブルではないのかを鑑別する必要があります。
ポイントは、発生原因を考えることです。持続する圧迫や摩擦ズレが加わっている部位であれば褥瘡の可能性が高いです。しかし、経時変化を観察していかないと断定できません。
反応性充血と褥瘡の鑑別
指で3秒間押して、指で圧迫している部分の発赤が消退するかどうかをみます。白く消退する発赤であれば、反応性充血(真皮深層の微小血管の拡張)であり、白く消退しなければ褥瘡と考えられます。
DTI疑いのケアは?
前述したように、徹底的な除圧と経過観察です。 DTI疑いは急性期褥瘡として、バイタルサインの測定やおむつ交換などのケアごとにこまめに観察していきましょう。
DTIのリスクが高いのは?
褥瘡の発症後おおむね1~3週間は、病態が不安定であり、この時期の褥瘡は急性期褥瘡と捉えられています。DTIもその一つです。
特に、全身麻酔下の数時間に及ぶ手術後、意識消失により救急搬送された後など、生命にかかわるイベントが起きた後は、全身状態・栄養状態が悪化しているため、急性期褥瘡が生じやすくなります。
また、DTIは、皮下組織よりも深部の組織損傷のため、痩せている患者さんより脂肪組織や筋組織が維持されている患者さんに多く見られるという傾向もあります。
局所をみるだけではなく、こうした患者さんの状態を踏まえて観察していくことも大切です。
DTIの記載は?
記載例
DDTI-e0s15i1g0n0p0:16点
DTIと評価してもDの点数は従来通りカウントされません。
ここで混乱を招いてしまうポインは、肉芽組織の評価が「g0」となることです。この改定で、g0は「創が治癒した場合、創の浅い場合、深部損傷褥瘡(DTI)疑い」と変更されています。そのため、深部損傷褥瘡(DTI)疑いとした場合はg0とします。
つまりDDTIは、組織欠損がない、もしくは真皮レベルの浅い褥瘡であり、かつ壊死組織はないが深い損傷が疑われる場合の状態を指しています。よって、肉芽組織の評価もg0となります。一方、DUは、組織欠損があるのが大前提で、かつ壊死組織があるため深さがわからない状態を指しています。そのため、肉芽組織はg0と評価されることはありません。
どう評価する? 「臨界的定着疑い」
臨界的定着(クリティカルコロナイゼーション)とは?
臨界的定着(クリティカルコロナイゼーション)は、肉眼的に明らかではないが炎症が生じ、バイオフィルム(多種類の微生物の集合体)を伴う細菌による感染が生じている状態です。
臨界的定着を評価せずに同じ局所治療を継続しても、治癒の遷延してしまいます。よって、DESIGN-R® 2020では評価者が常に意識できるよう観察項目として追加されました。
「Wound Hygiene/創傷衛生」という新たな概念
この臨界的定着に関連して、新たな概念が提唱されています。それは、2019年専門家による国際諮問委員会で共通認識として示された「Wound Hygiene/創傷衛生」という概念です。この概念では、近年、ほとんどの難治性の褥瘡に関して、バイオフィルムの形成が影響していることが明らかになってきていることから、早期の抗バイオフィルム介入戦略により難治性創傷を克服することを目指しています。
こうした背景もあり、臨界的定着を「DESIGN-R®」できちんと評価する必要性が高まったことも、今回の改定につながっています。
臨界的定着が疑われる所見は?
臨界的定着が疑われる所見には表2のようなものがあります。
視診・触診 |
創面にぬめりがあり、浸出液が多い、浮腫性の脆弱な肉芽(洗っただけで出血してしまうなど) |
細菌学的検査 | メンブレンシート*を用いて行う |
評価の方法
臨界的定着(クリティカルコロナイゼーション)と感染(インフェクション)を鑑別
臨界的定着(クリティカルコロナイゼーション)では、感染(インフェクション)のように発赤、熱感、疼痛といった明らかな臨床的所見はありません。
臨界的定着の原因であるバイオフィルムは可視化できないため、視診・触診だけではDTIと同じく判断は困難です。ただし、「創面のぬめり」は、臨床で経験することが多い所見です。
創面のぬめりは洗浄の際に確認できます。これまで、創周囲は洗浄剤を用いて、洗浄することが推奨されていましたが、創面に対しては明確には示されていませんでした。前述の「Wound Hygiene」では、創面も洗浄剤で洗うことで、洗浄剤に含まれている界面活性剤がバイオフィルムを軟化するとされています。
実際に創面を、洗浄剤を用いて手で擦るように洗ってみると、ぬめりを感じることがあります。例えるならば納豆を食べたあとの器を洗うときのような、手にねばつく感覚です。
従来は、創面は愛護的に洗浄するのが定説でしたが、臨界的定着が疑われる場合は特に積極的に洗浄剤でしっかりと洗うことが推奨されています。
創面を創周囲と同じようにしっかりと洗い、創面の状態を確認することをお勧めします。
臨界的定着疑いの褥瘡のケアは?
局所治療としては、抗菌作用を有するカデキソマー・ヨウ素(カデックスやユーパスタなど)、スルファジアジン銀(ゲーベン)などの外用薬や銀含有ハイドロファイバー(アクアセルAgアドバンテージ)、アルギン酸塩Ag(アルジサイトAg)などの被覆材が褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版)で推奨されています(両者とも推奨度C1)。
その他の局所管理としては「Wound Hygiene」の概念に基づいて、洗浄・デブリードマンのケアを行います。自身の経験では、クリティカルコロナイゼーション疑いで、治癒が停滞している創に対し、洗浄とデブリードマンを積極的に行うと、治癒が促進することを実感しています。
洗浄
洗浄では、これまでのスキンケアと同様、弱酸性の洗浄剤を泡立てて行います。前述したように、創周囲だけではなく、創面も十分に洗浄します。創面の洗浄では、壊死組織、組織の残骸、バイオフィルムなど、創周囲の洗浄では垢、鱗屑、角質、汚れなどを除去することが目的です。
デブリードマン
被覆材の交換ごとに、壊死組織、組織の残骸、バイオフィルムを取り除くこと目的に、デブリードマンを行います。デブリードマンにはいろいろな方法があります。創傷管理分野の特定看護師はえいひを使用しメンテナンスデブリードマンを行うことが多いですが、ガーゼなどで創面を機械的に擦るガーゼデブリードマンであれば一般の看護師も行いやすいのではないでしょうか。
ただし、デブリードマンは侵襲的な処置であり、看護師が行うときは自施設の取り決めなどを確認し行ってください。
臨界的定着疑いの記載は?
記載例
D3-E6s6I3CG6n0p0:21点
Iの点数は3点で、点数のあとにクリティカルコロナイゼーションのCを記載します。
改定をケア向上のチャンスに
「DESIGN-R®」にDTI疑いと臨界的定着疑いが追加されたことで、これまでよりも褥瘡の評価が難しくなったと感じている人も少なくないかもしれません。
確かに、褥瘡を見極めるためのアセスメント力がより求められるようになったといえます。だからこそ、この改定を自身のアセスメント力を向上させる機会と捉えてほしいと思います。DTIに関しては、正しい評価のためにはエコーが有用です。これを機にエコーの導入を検討してもよいのではないでしょうか。
さらに、臨界的定着疑いの評価追加では、「Wound Hygiene」という新たな概念に基づいたケアが注目されつつあります。今回の改定を上手に利用して、新しい取り組みを始めてみてはいかがでしょうか。
引用・参考文献
1)日本褥瘡学会:改定DESIGN-R®2020コンセンサス・ドキュメント(2021年9月2日閲覧)http://www.jspu.org/jpn/member/pdf/design-r2020_doc.pdf2)日本褥瘡学会:用語集(2021年9月29日閲覧)http://www.jspu.org/jpn/journal/yougo.html 3)コンバテック ジャパン:日本語版コンセンサスドキュメント(2021年9月29日閲覧) https://www.woundhealing-center.jp/seihin/images/woundhygiene.pdf
4)EPUAP (ヨーロッパ褥瘡諮問委員会)/NPUAP(米国褥瘡諮問委員会)著,宮地良樹,真田弘美,監訳:NPUAP-EPUAP による褥瘡の国際的定義.褥瘡の予防&治療:クイックリファレンスカイド.p.12-3.(2021年9月29日閲覧)https://www.epuap.org/wp-content/uploads/2016/10/japan_quick-reference-guide-jan2016.pdf