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【連載】エキスパートが教える! 知っておきたい看護技術

手術室看護師だからわかる・話せる 透析患者さんのピンポイント手術看護

  • 公開日: 2021/8/3

1.透析患者さんの推移

 近年、高齢化と医療技術の進歩により、さまざまな疾患を持つ患者さんの手術が増えています。今回はその中でも、手術室看護師だからこそ話せる透析患者さんに対する手術看護について紹介します。


 日本透析医学会による調査1)では、透析患者数は年々増加しており、2019年時点で34万人を超えています。つまり、国民366人に1人が透析患者さんということですから、透析患者さんの手術は珍しくはないといえます。


2.透析患者さんの特徴

 透析とは、本来、身体の余分な水分や老廃物を排泄させる腎臓の働きが悪くなった患者さんに対して行う治療法です。血液中の余分な水分や老廃物を人工的に取り除き、血液をきれいにします。日本透析医学会の調査2)では、透析患者さんの平均年齢は69.09歳。原疾患として最も多いのは糖尿病性腎症で、その割合は39.10%となっています。次いで、慢性糸球体腎炎が25.7%、腎硬化症が11.4%です。透析患者さんは高齢の方が多く、透析を開始するまでにも糖尿病などの原疾患に向き合ってきた経過があることをおさえておくようにしましょう。


 手術室看護師が考える、透析患者さんの主な特徴3つを以下にまとめてみました。


1)シャント

 透析を行うためには、1分間に150~200mLの大量の血流が必要となります。しかし、静脈では血流量が足りません。そのため、静脈と動脈をつなぎ合わせ、動脈の血流を静脈に流すことで大量の血流を静脈で確保できるようにする必要があります。この動脈と静脈を吻合させたものが「シャント」または「バスキュラーアクセス」です。


 シャント作成の手術は基本的に局所麻酔下で行い、利き腕ではないほうの前腕に作成します。ただし、糖尿病や動脈硬化などで血管が細い場合や2回目以降の作成時などは、肘部や上腕といった前腕以外の部位や利き腕側を選択することもあります。シャントの種類は以下の2つです。


表1 シャントの種類と特徴
自己血管内シャント
自己血管内シャント
患者さん自身の動脈と静脈をつなぎ合わせる一般的なシャントです。長期開存性が高く使いやすいですが、つなぎ合わせた静脈の血流量が増え太くなるまで使用を控える必要があります。
人工血管内シャント
人工血管内シャント
静脈が細く自己血管内シャントが作成できない場合に、人工の血管を皮下に埋め込み静脈と動脈につなぎ合わせて作ります。作成後は早期に穿刺開始できますが、人工血管と血管とのつなぎ目が狭くなり狭窄が起こりやすいです。


2)高カリウム血症

 高カリウム血症とは血清中のカリウム値が5.5mEq/L以上となった状態です。腎機能低下によりカリウムが尿から十分に排出されず、血中にカリウムが溜まることで起こります。カリウムが血中で増えると、心電図上ではT波の幅が狭くなり尖鋭化する特徴的な波形(テント状T波)が出現します。7.0mEq/Lを超えると、心房筋の興奮が抑制されてP波が小さくなり、やがてP波が消失し徐脈になります。さらにカリウム値が上昇すると、QRS波の幅が広くなりサインカーブ様の波形となり、心室細動に移行していきます。


表2 カリウム値と心電図の波形
カリウム値 特徴的な心電図波形
6.0mEq/L~
テント状T波 
7.0mEq/L~
P波減高、PQ間隔延長、QRS幅拡大
9.0mEq/L~
P波消失
10.0mEq/L~
サインカーブ、心室細動


3)透析による体液・体重管理

 腎機能が低下すると、水やナトリウムの排泄障害が起こり体液過剰となります。体液過剰によって循環血液量が増えすぎると、心不全、肺水腫、高血圧を合併しやすくなります。そのため、透析では患者さんによってドライウェイトという除水後の基本体重が決められており、厳密な水分管理が行われています。


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 このほか、貧血や低栄養状態、出血傾向、高血圧、酸塩基平衡の異常、免疫力低下、末梢神経障害なども見られます。


3.手術看護のポイント

 透析患者さんに対する手術看護のポイントを紹介します。


1)シャントの管理

 シャントは透析の際に必要な大量の血流の確保に必要なため、もしも詰まってしまった場合は透析ができなくなってしまいます。そのため、術中はシャントを圧迫・閉塞しないように十分注意を払います。具体的には、まずシャント側での血圧測定・静脈路確保をしないこと。次に、手術体位によるシャント部圧迫の回避です。シャント側の肘を曲げたままにすることもシャント閉塞につながりますので、伸展させるか浅い屈曲にとどめます。手術体位が側臥位でシャント側が下になる場合は、腋窩から拳1個分尾側の位置に枕を入れ、上肢に流れる血管を圧迫せず、血流が保たれるようにします。低血圧になることでも血流が減少し閉塞するおそれがあるため、血圧の観察も重要です。


 また、清潔野の医師が滅菌ドレープで覆われたシャント側の腕を圧迫していないか確認することもポイントです。長時間に及ぶ手術中、無意識にシャント側の腕を圧迫している可能性もあります。そのため、術前からシャント側の情報を共有しておくことはとても大切です。


 次は、圧迫や閉塞の有無を確認する方法です。


シャント音:シャント部に聴診器をあて「ザーザー」もしくは「ゴーゴー」という静脈に流れる動脈血の摩擦音が聞こえるか確認します。自己血管内シャント・人工血管内シャントで聴診できます。


スリル:シャント部に人差し指、中指、薬指を沿わせて静脈に流れる動脈血の振動を感じるか確認します。人工血管内シャントでは振動はなく、自己血管内シャントの場合のみの確認方法です。


 シャント音やスリルは術前訪問時から確認し、通常の音とスリルを把握します。その後、入室時、麻酔導入後、手術体位設定後、術中、術後と頻回に観察を行い、シャントの保護に努めます。


2)心電図波形の観察

 カリウム値によっては術中の心電図波形の観察は欠かせません。表2のような特徴的な波形を認めれば、血液検査でカリウム値を確認し、是正する必要があります。出血によりたくさんの輸血を行う場合や術前よりカリウム値が高い場合などは特に注意が必要です。輸液に関しても、カリウムを含まない1号輸液の使用など麻酔科医と情報を共有することが大切です。心電図を完璧にマスターする必要はありませんが、特徴的な心電図については知っておく必要があります。


3)水分出納および体重の管理

 術中の水分・電解質・酸塩基平衡の異常を是正するために、手術前に透析を行います。基本的に手術前日に行われることが多いため、術前の最終透析日を確認しておきます。


 前述した通り、透析患者さんはドライウェイトという基本体重が設定されており、体重の増減が厳しく管理されています。そのため、術中の輸液・輸血の量や出血量も非常に必要な情報ですが、それと同じく重要なのに盲点となりやすいのが摘出した臓器や体内に入れるインプラントの重さです。1回の透析における理想的な除水量は体重の3~5%とされており、体重60kgであれば1.8kg~3kgになります。摘出する臓器によっては何百gから何kgにもなるため、摘出した臓器の重量は計り、記録に残しておく必要があります。


 また、外傷などの骨折の手術、膝関節や股関節の人工関節置換術などインプラントを体内に入れる手術においても、その分体重が増えるため、インプラントの重さを知っておくことが必要です。多くの病院では骨折や人工関節の手術器械・インプラントはローンインストゥルメント(LI)としてレンタルしていることが多く、重さは各メーカーに問い合わせる必要があります。そのため、透析患者さんがインプラント手術を受けた場合は手術後すぐにメーカーに問い合わせ、使用したインプラントの重さを確認し、記録に残しておきます。これは抜釘でインプラントを取り出す際も同様です。事前に前回の手術で留置したインプラントを調べておき、メーカーに確認しておくことで速やかに記録に残すことが可能となります。


 今日のインターネット社会では、教科書に載っているような手術看護は検索すれば簡単に調べられるため、一般的ことだけでなく手術室看護師だからこそ「うん、うん」と頷けるようなピンポイントのコアな手術看護について取り上げてみました。手術室看護師の方はぜひ参考にしていただき、病棟看護師の方はこのようなことが手術中に行われているのだと知っていただければと思います。


引用・参考文献

1)日本透析医学会統計調査委員会:わが国の慢性透析療法の現況,第1章 2019年慢性透析療法の現況(2021年7月19日閲覧),https://docs.jsdt.or.jp/overview/file/2019/pdf/01.pdf
2)日本透析医学会統計調査委員会:わが国の慢性透析療法の現況,第2章 2019年慢性透析患者の動態(2021年7月19日閲覧),https://docs.jsdt.or.jp/overview/file/2019/pdf/02.pdf
3)伊藤聡子編:基礎疾患・リスク別 ハイリスク患者の周術期看護,学習研究社,2009.
4)一般社団法人日本腎不全看護学会:腎不全看護 第5版,医学書院,2016.

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