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がん薬物療法最前線 免疫チェックポイント阻害剤の基礎知識と患者さんのケア【PR】

  • 公開日: 2020/1/20
  • # 注目ピックアップ

2019年6月30日、株式会社エス・エム・エス セミナールームにて、「がん薬物療法最前線――免疫チェックポイント阻害剤の基礎知識と患者さんのケア――」セミナーが開催されました。新潟県立がんセンター新潟病院の田中洋史先生が最新の免疫療法と、免疫チェックポイント阻害剤を用いた肺がん治療について、磯貝佐知子先生が免疫チェックポイント阻害剤による有害事象のマネジメントと、セルフケア支援のポイントについて解説しました。

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肺がんに対する免疫療法の最前線;最善の治療を適切に実施するために

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新潟県立がんセンター新潟病院 内科 副院長 田中洋史先生

がん治療の進歩

 がん治療の進歩はめざましいものがあります。手術では積極的縮小手術やロボット手術が行われるようになり、放射線療法においても高精度放射線治療や粒子線治療の導入で、より高い治療効果が期待できるようになりました。

 肺がんに対する薬物療法も例外ではなく、細胞障害性抗がん剤を筆頭に、これまで多くの薬剤が開発されており、分子標的治療薬ではEGFR阻害剤をはじめ、最近では、BRAF遺伝子変異に対してダブラフェニブ、トラメチニブも使われるようになりました。そして、2014年に登場したのが免疫チェックポイント阻害剤です。

従来の免疫療法と新しい免疫療法

 がん細胞は進行がんになるほど、さまざまな技を繰り出し、免疫細胞の攻撃を回避していることがわかってきました(がんによる免疫応答抑制)。免疫を担当するTリンパ球には、攻撃を促進するアクセルと、攻撃が暴走して自己を攻撃してしまうのを防ぐブレーキが備わっています。がん細胞はこのアクセルとブレーキを巧みに利用して免疫の力を弱め、攻撃を受けないようにしています。

 従来のがん免疫療法は、がん抗原に対してTリンパ球を増強させることで、がん細胞への攻撃力を高めようとするものです。しかし、それではがん細胞がTリンパ球のアクセルとブレーキを操作するのを防ぐことはできません。そこで、免疫チェックポイント阻害剤が開発されました。

PD-1/PD-L1阻害剤の作用機序と適応

 Tリンパ球に備わっているアクセルやブレーキを免疫チェックポイントといいます。活性化したTリンパ球はPD-1というブレーキを発現しています。

 Tリンパ球ががん細胞を攻撃しようとすると、がん細胞はPD-L1という分子を発現してPD-1と結合し、Tリンパ球のブレーキを強めて免疫力を低下させます。PD-1/PD-L1阻害剤の作用機序は、抗PD-1/PD-L1抗体がPD-1とPD-L1の間にはまり込むことで、がん細胞が悪用しているチェックポイントのブレーキを無効にして、Tリンパ球ががん細胞を攻撃できるようにするものです(図)。肺がんでは、PD-L1の発現率が高いほどよく効くという特性があります1)

MSD_図1

 肺がんは10~15%が小細胞肺がん、残りの85~90%が非小細胞肺がんです。非小細胞肺がんのうち、腺がんと扁平上皮がんで肺がん全体の8割以上を占めています。手術も放射線治療も難しい進行・再発の非小細胞肺がんに対しては薬物療法を行いますが、細胞障害性抗がん剤による一次化学療法の奏効率は3割程度、病状が悪化するまでの期間(無増悪期間)はおよそ半年です2)。二次化学療法はさらに成績が悪くなり、奏効率は2割以下、無増悪期間は2~4カ月程度となっています3)

 一方、免疫チェックポイント阻害剤は細胞障害性抗がん剤に比べて、全生存期間、無増悪期間が有意に延長し、二次化学療法での有効性が認められ、続いて一次化学療法での単剤利用が決まり、進行・再発の非小細胞肺がんでは標準治療となっています。

 さらに、細胞障害性抗がん剤との併用療法においても、全生存期間で有意に延長が認められ、適応が拡大されました(表1)。がん細胞は免疫原性を低くして免疫細胞の攻撃から逃れようとしますが、細胞障害性抗がん剤は免疫原性を高める作用があるため、免疫チェックポイント阻害剤と併用することで抗腫瘍効果を発揮するものと考えられます。ただ、併用療法では有害事象が多くなることは否めず、適切にマネジメントしていくことが大切です。

MSD_表1

有害事象マネジメントとチーム医療

 免疫チェックポイント阻害剤は、がん細胞を直接の標的とするのではなく、がん細胞が免疫にブレーキをかける仕組みに働きかける薬剤です4)。活性化された免疫細胞が自己の正常な細胞まで攻撃してしまうことにより、免疫関連有害事象(irAE)が起こります。

 間質性肺疾患、大腸炎、肝機能障害、および甲状腺機能障害や1型糖尿病などの内分泌障害といった多彩なirAEが生じます。発現頻度は高くないものの、予測が難しく、早期に発現する場合もありますが、忘れたころに発症するケースがあるのも特徴的です(表2)。

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 irAEが生じた患者さんのほうが長期生存が得られることが報告されており5)、治療継続のためにirAEを早期に発見し、適切に対処していくことが大切になってきます(表3)。

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 従来よりも多職種横断的、疾患領域横断的な対応に迫られ、免疫サポートチームを立ち上げました。多くの情報を患者さんに伝えて理解してもらう、日々刻々と変わる患者さんの状態をとらえ、本音を聴き取る、看護師の皆さんにはそのための多様な目をもって、チームを支えてほしいと考えています。

免疫療法を受ける患者さんのケア

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新潟県立がんセンター新潟病院 がん化学療法看護認定看護師 磯貝佐知子先生

免疫チェックポイント阻害剤の主な有害事象とマネジメント

 免疫チェックポイント阻害剤は、重篤な免疫関連有害事象(irAE)発現のリスクがあり(表)、がん治療の継続には、irAEを適切にマネジメントすることが何よりも重要です。主なirAEとマネジメントについてお話していきます。

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 まず、甲状腺機能亢進症・低下症ですが、甲状腺機能の異常は、定期的な検査で判明するケースが多い印象があります。甲状腺刺激ホルモン(TSH)、遊離サイロキシン(FT4)などの検査データをチェックしたうえで、患者さんに自覚症状の有無を確認することが大切です。

 下垂体機能不全、下垂体炎、副腎機能不全では電解質異常がみられることから、特に肺がんの患者さんの場合は、低ナトリウム血症をチェックするようにしています。そして、ここで一つ押さえておきたいのが、甲状腺機能亢進症・低下症、下垂体機能不全、下垂体炎では、コルチゾールの確認も行うということです。甲状腺ホルモン補充となった場合に、副腎機能が低下していると副腎クリーゼを発症する可能性があるためで、ほかの検査データとあわせて確認するようにします。

 間質性肺疾患は重症化しやすく、致死例は1週間以内に多くみられます。私たち看護師にできることは、バイタルサイン、酸素飽和度、咳や息切れの程度の確認はもちろん、リスク因子〔喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の合併、放射線治療歴、75歳以上の高齢者など〕も踏まえながらしっかり問診をとることです。問診で得られた情報を医師に報告することで、診察前に必要な検査を行うことが可能になり、素早い診断・治療につなげることができます。

 大腸炎では腹痛を伴う下痢、血便を生じます。重要なのは、下痢だからといって、むやみにロペラミドを使用しないことです。ステロイドでも改善がみられなければ、インフリキシマブの使用を検討しますが、この点は医師や薬剤師と一緒に考えていきます。看護師としては、ベースラインと比べて1日7回以上の排便回数の増加があるかどうかの確認と、患者さんの便の状態をチェックすることが大切です。

 1型糖尿病は、重症化するとほぼ100%非可逆的といわれています。そこで当院では、尿糖測定紙による尿糖測定を患者さんにお願いしています。測定していなかったことで発見が遅れた患者さんもいますので、早期発見のためにも、継続的な測定の重要性を伝えるようにしています。

 また、「だるい」「口が乾く」といった程度では病院に電話しにくいという患者さんには、客観的に色が変わっていれば電話もしやすいし、相手にも伝わりやすいですよといったように、測定することのメリットをお話ししています。

併用療法における有害事象マネジメント

 免疫チェックポイント阻害剤は、細胞障害性抗がん剤との併用療法へと適応が広がっています。だるい・食欲がないという症状が現れても、原因はひとつとは限りません。細胞障害性抗がん剤の有害事象、irAE、現病由来などが想定できるでしょう。

 いつ頃から、どんな程度か、生活への影響、ほかの症状、リスク因子、検査データ、周りの人の反応など、原因を絞り込むための情報を吸い上げてアセスメントしていく必要があります。情報を共有して治療を開始したら、別の症状が生じていないかチェックしつつ、治療評価を行います。

セルフケアの支援とサポート体制の整備

 患者さんのセルフケア支援として、有害事象と連絡の方法を書いた1枚の紙を、トイレや冷蔵庫など1日1回は必ず目に付くところに貼ってもらっています(図1、図2)。

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 「いつもと違う」と感じたら、自分ひとりで様子をみるのではなく、まず家族など周囲の人に声を掛け、病院に確認するように伝えています。「いつもと違う」は、普段の状態を把握してこそわかるものです。初回の治療の際、なるべく家族にも同席してもらい、患者さんから普段の状態を細かく聴き取り、それを患者さんと医療者だけではなく、家族みんなで共有して確認し、そこから悪化するようだったら電話連絡してくださいと伝えています。自宅の場所、サポート体制を確認しておき、前もってどうしていくか対応を考えておきます。

 意思決定支援では、患者さんの病状理解の程度、病気や治療への思い、生活をしていくうえで大切にしたいことは何かを聞くようにしています。それから、患者さんそれぞれの治療の効果やスケジュール、有害事象、治療費を比較して説明を行っています。患者さんの社会的背景を知り、治療への思いや希望に寄り添う姿勢が求められていることから、それに応えられるよう努めています。

引用文献

1)Reck M et al:Pembrolizumab versus Chemotherapy for PD-L1–Positive Non–Small-Cell Lung Cancer.N Engl J Med 2016;375:1823-33.
2)Ohe Y,et al :Randomized phase III study of cisplatin plus irinotecan versus carboplatin plus paclitaxel,cisplatin plus gemcitabine, and cisplatin plus vinorelbine for advanced non-small-cell lung cancer:Four-Arm Cooperative Study in Japan.Ann Oncol 18:2007,317-23.
3)Fossella FV,DeVore R,Kerr RN,et al:Randomized phaseⅢ trial of docetaxel versus vinorelbine or ifosfamide in patients with advanced nonsmall-cell lung cancer previously treated with platinum-containing chemotherapy regimens. The TAX 320 Non-Small Cell Lung Cancer Study Group.J Clin Oncol. 2000;18(12):2354-62.
4)国立がん研究センターがん情報サービス:免疫療法もっと詳しく知りたい方へ.(2019年9月20日閲覧)https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/immunotherapy/immu02.html
5)Haratani et al:Association of Immune-Related Adverse Events With Nivolumab Efficacy in Non-Small-Cell Lung Cancer.JAMA Oncol 2018;4(3):374-8.

添付文書

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