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EGFR変異陽性非小細胞肺がんに新たな治療選択肢

  • 公開日: 2025/9/1
ヤンセンファーマ株式会社が、『非小細胞肺がん治療は今、新たなステージへ 「ライブリバント」と「ラズクルーズ」の併用療法 EGFR 遺伝子変異を有する切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんの新たな一次治療に』と題したメディアセミナーを開催しました。ここでは、林秀敏先生(近畿大学医学部 腫瘍内科 教授)の講演をレポートします。


肺がんの疫学

 がんは非常に頻度の高い疾患であり、生涯でがんになる確率は男性で約65%、女性では約50%とされています1)。中でも肺がんは、2021年のデータで罹患数予測が約127,400人と全がん種のなかで3番目の数字を示し、死亡数予測に関しては約74,900人と最も多くなっています2)

 喫煙は肺がんの危険因子の1つですが、非喫煙者でも肺がんになる人が増えてきています。特に東アジア地域の女性に顕著で、アメリカの女性の肺がん患者さんの喫煙率が94.8%なのに対し、日本では25.6%、韓国は9.9%、台湾は6.4%と、決して高くないことがわかります3)

肺がん(非小細胞肺がん)の治療

 肺がんは、非小細胞肺がんと小細胞肺がんに大別され、ほとんどを非小細胞肺がんが占めます。治療法は病期と患者さんの全身状態をもとに決めていきますが、非小細胞肺がんでⅠ期の場合、基本的に手術が選択されます。Ⅱ期やⅢ期の場合は手術に加えて化学療法が行われ、Ⅲ期で手術ができない患者さんに対しては、化学放射線療法が実施されます。Ⅳ期の非小細胞肺がんについては、薬物療法(従来の抗がん剤、分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害薬)が中心となります。

分子標的治療薬開発の歴史

 これまで、肺がんにかかわるさまざまな遺伝子変異が見つかっており、従来の抗がん剤治療よりも効果が期待できる分子標的治療薬が開発されてきました。2002年に、EGFR阻害薬であるゲフィチニブが日本で初めて承認され、これを第1世代として、第2世代のアファチニブ、第3世代のオシメルチニブと続きます。

 『肺癌診療ガイドライン2024』では、EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がんに対する一次治療として、「オシメルチニブ単剤療法を行うよう強く推奨する」とされています4)。ただ、分子変異〔TP53変異、MET(肝細胞増殖因子受容体)増幅、EGFR C797S変異〕が出現すると、耐性の獲得や効果の減弱が生じ、オシメルチニブを使用してから数年程度、場合によっては1年も経たずに効果が得られなくなることが課題となっていました。

アミバンタマブとは

 耐性の獲得や効果の減弱といった課題を克服するために、第4世代のEGFR阻害薬の開発が期待されましたが、実現していないのが現状です。そのようななかで登場したのが、アミバンタマブ(ライブリバント)です。

 アミバンタマブは二重特異性抗体(バイスペシフィック抗体)で、がん細胞の表面に出現したEGFRおよびMETに結合し、がん細胞を増殖させる信号を抑えます。さらに、免疫細胞を引き寄せてがん細胞を異物と認識させ、攻撃させる作用をもちます。

アミバンタマブ+ラゼルチニブ併用療法の有効性・安全性の評価

 EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がんの患者さんを対象に、アミバンタマブとラゼルチニブ(オシメルチニブと同じ第3世代のEGFR阻害薬)の併用療法の有効性及び安全性を評価するための臨床試験が行われました。参加した患者さんは1,074人で、2:2:1(アミバンタマブ+ラゼルチニブ群、オシメルチニブ群、ラゼルチニブ群)の比で無作為に割り付けて調査したものです。

 まず、無増悪生存期間(PFS)についてですが、24カ月時点における無増悪生存率がオシメルチニブ群で34%だったのに対し、アミバンタマブ+ラゼルチニブ群では48%となり5)、6)、アミバンタマブ+ラゼルチニブ群の優越性が検証されました。2年間、がんが増悪しなかった患者さんが14%増えたということであり、非常に大きな変化といえます。なお、PFS中央値は、オシメルチニブ群で16.59カ月、アミバンタマブ+ラゼルチニブ群では23.72カ月でした5)、6)

 次に、全生存期間(OS)を見てみると、カットオフ時点までに死亡が認められた割合がオシメルチニブ群で50.6%だったのに対し、アミバンタマブ+ラゼルチニブ群では40.3%となり、アミバンタマブ+ラゼルチニブ群はオシメルチニブ群と比較して、有意なOS延長を示しました7)

アミバンタマブ+ラゼブチニブ併用療法の副作用とその対応

 アミバンタマブ+ラゼルチニブ併用療法では2種類の薬剤を使用するため、オシメルチニブ単剤に比べて副作用が多い傾向にあります。実際に、副作用によって服用を中止せざるを得なくなった患者さんがオシメルチニブ群で3%だったのに対し、アミバンタマブ+ラゼルチニブ群では10%でした6)

 アミバンタマブ+ラゼブチニブの併用療法で注意すべき副作用として、注入反応(インフュージョン・リアクション)があり、呼吸困難、ふらつき、潮紅、発熱といった症状がみられます。アミバンタマブでは、初回(1サイクル目の1日目)にインフュージョン・リアクションが起こることが多く、点滴終了後、少なくとも24時間は注意が必要です。

 ほかに注意すべき副作用に、ざ瘡様皮膚炎や爪囲炎などの皮膚障害があります。1日目から症状が現れる患者さんもいるため、治療開始と同時にセルフケアを実践することが大切です。皮疹が出たときには外用薬を使用し、皮膚は清潔に保ちます。洗浄剤は皮膚への刺激ができるだけ少ないものを選び、アルコールを含むものは、皮膚を乾燥させる可能性があるため使用は避けます。また、強くこすったりしないように、泡で出てくるタイプの洗浄剤を選ぶようにしましょう。洗髪時に使うシャンプーも低刺激のものが望ましく、目にしみない子ども用のシャンプーを患者さんに勧めることもあります。

 静脈血栓塞栓症にも注意が必要です。下肢で起こると浮腫や腫張に、肺で起こると肺塞栓につながるおそれがあるため、アピキサバンなどの抗凝固薬を投与し、発症を予防します。

二次治療におけるアミバンタマブ+化学療法の効果

 これまで、EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がんの患者さんの一次治療は、オシメルチニブ単剤が標準治療とされていましたが、オシメルチニブで効果が得られなくなった患者さんを対象に、二次治療で従来の抗がん剤とアミバンタマブの併用療法を行った場合の効果を検証した臨床試験があります。結果は、抗がん剤のみを使用した場合のPFSの中央値が4.17ヵ月であったのに対し、アミバンタマブを追加した場合のPFSの中央値は6.28カ月となり、改善がみられました8)、9)

 EGFR変異陽性の非小細胞肺がん患者さんの生存期間の改善のために、今後、アミバンタマブが広く用いられることが期待されます。

引用文献

1)がんの統計編集委員会:がん統計〈2022年度版〉.がん研究振興財団,2022,p.38.(2025年8月18日閲覧) https://ganjoho.jp/public/qa_links/report/statistics/pdf/cancer_statistics_2022.pdf
2)がんの統計編集委員会:がん統計〈2022年度版〉.がん研究振興財団,2022,p.70-1.(2025年8月18日閲覧) https://ganjoho.jp/public/qa_links/report/statistics/pdf/cancer_statistics_2022.pdf
3)Fei Zhou,et al:Lung cancer in never smokers-the East Asian experience.Transl Lung Cancer Res 2018;7(4):450-63.
4)日本肺癌学会:Ⅱ.非小細胞肺癌(NSCLC) 7 Ⅳ期非小細胞肺癌.肺癌診療ガイドライン 2024年版(2025年8月18日閲覧) https://www.haigan.gr.jp/publication/guideline/examination/2024/1/2/240102070100.html
5)社内資料:アミバンタマブ/ラゼルチニブ併用療法の非小細胞肺癌患者に対する臨床成績 (73841937NSC3003試験、承認時評価資料)
6)Byoung C Cho,et al:Amivantamab plus Lazertinib in Previously Untreated EGFR-Mutated Advanced NSCLC.N Engl J Med 2024;391(16):1486-98.
7)社内資料:アミバンタマブ ラゼルチニブ併用療法の非小細胞肺癌患者に対する臨床成績 (73841937NSC3003試験、審査の過程で紹介事項に対する回答として提出され承認された資料)
8)社内資料:アミバンタマブの非小細胞肺癌患者に対する臨床試験(61186372NSC3002試験、承認時評価資料)
9)A Passaro,et al:Amivantamab plus chemotherapy with and without lazertinib in EGFR-mutant advanced NSCLC after disease progression on osimertinib: primary results from the phase III MARIPOSA-2 study.Ann Oncol 2024;35(1):77-90.

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