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がん薬物療法最前線 免疫チェックポイント阻害剤の基本と看護【PR】

  • 公開日: 2020/2/20
  • # 注目ピックアップ

2019年10月19日、株式会社エス・エム・エス セミナールームにて、「がん薬物療法最前線 免疫チェックポイント阻害剤の基本と看護」セミナーが開催されました。静岡県立静岡がんセンターの村上晴泰先生が、がん免疫療法と肺がん治療における免疫チェックポイント阻害剤の導入・適応について、中島和子先生が、免疫関連有害事象の特徴とアセスメント、電話による免疫関連有害事象の評価・トリアージについて解説しました。

共催:ナース専科/MSD株式会社

免疫チェックポイント阻害剤のABC 最善の治療を実施するために

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静岡県立静岡がんセンター 化学療法センター/呼吸器内科 村上晴泰先生

がん免疫療法の変遷

 がんの免疫療法は、1970年代の免疫賦活療法にはじまり、がん細胞に作用する免疫細胞であるT細胞を増やしたり活性化したりすることで免疫応答を増強する(アクセルを踏む)コンセプトで行われてきました。

 免疫チェックポイント阻害剤(immune checkpoint inhibitor:ICI)は、がん細胞による免疫抑制を解除する(ブレーキを解除する)コンセプトの薬剤で、T細胞が本来もつがん細胞を排除する働きを助けます(図1)。ブレーキの部分は免疫チェックポイント分子と呼ばれ、T細胞上やがん細胞上に発現しています。

 PD-1は1992年に本庶佑先生らが発見したT細胞上の分子で、免疫チェックポイント分子のひとつです。PD-1阻害剤は、PD-1を標的としたモノクローナル抗体で、ニボルマブとペムブロリズマブの2剤があり、悪性黒色腫、非小細胞肺がんをはじめ複数のがん種に用いられています。

 PD-L1はがん細胞に発現する免疫チェックポイント分子で、T細胞上のPD-1に結合してT細胞の働きを抑制します。PD-L1阻害剤には、デュルバルマブ、アテゾリズマブ、アベルマブの3剤があります。これにT細胞上のCTLA-4を標的とした薬剤イピリムマブを合わせた6剤が、臨床導入されています。

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肺がん治療におけるICIの導入と適応

 肺がんに対しては現在、PD-1阻害剤のニボルマブ、ペムブロリズマブ、PD-L1阻害剤のアテゾリズマブ、デュルバルマブの4剤が用いられています。ICIが肺がんに導入されたのは2015年で、進行非小細胞肺がん(Ⅳ期)にニボルマブが用いられ、第Ⅰ相試験で5年生存割合16%という結果となりました1)

 2017年には、ペムブロリズマブがPD-L1陽性の非小細胞肺がん(Ⅳ期)に導入されました。非小細胞肺がんにおいて、免疫組織染色でPD-L1発現陽性細胞が50%以上(TPS≧50%)の場合、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)がTPS<50%の場合に比べて高かったことから2)、PD-L1陽性の患者さんにターゲットが絞られました。

 プラチナ併用化学療法と比べた臨床試験においても、PFS、OSとも有意に高い効果が得られました(図2)3)。これを受けて、肺がんの治療では、治療前に腫瘍細胞のPD-L1発現を評価することが必要になったのです。

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 2018年には、非小細胞肺がん(Ⅳ期)にアテゾリズマブが加わり、化学放射線療法後の非小細胞肺がん(Ⅲ期)にデュルバルマブが導入され、Ⅲ期の患者さんにも治療対象が拡大されました。そして2019年は、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブにおいてプラチナ併用療法が始まり、非小細胞肺がん(Ⅳ期)に導入されました。アテゾリズマブのプラチナ併用療法は、小細胞肺がん(Ⅳ期)にも適応を拡大しています。

 また、ASCO2019で発表された臨床試験(KEYNOTE-001)では、初回治療にペムブロリズマブを投与した進行非小細胞肺がんの5年生存割合が23.2%で、TPS≧50%では29.6%とさらに高く、セカンドライン以降の使用でも25.0%と4人に1人が5年間生存できる可能性が示され4)、治療効果が期待されています。

 こうした適応拡大や治療効果を受け、当院でもICIを使用する機会が増えてきています。今年度は従来のプラチナ併用療法との併用で初回治療からの選択が拡大し、呼吸器内科では半数を超えるのではないかと考えています。

irAEへの対応

 ICIは腫瘍免疫を標的とするため、正常な免疫細胞も影響を受けます。そのため、免疫細胞が活性化しすぎて、全身の免疫反応が過剰に起こってしまうことによる免疫関連有害事象(immune-relatedadverse events:irAE)が生じます。irAEは細胞障害性抗がん剤の有害事象と比べ、いつ生じるか予測するのが難しい面があるほか、使用する患者さんの増加に伴い、irAEとして報告される数も増えています。

 irAEについては医療者だけでなく、患者さんにも理解してもらうことが大切です。当院では、患者さん向けの「情報処方冊子」を多職種で作成し、注意を要するirAEの初期症状や、緊急受診する際の注意点などを解説しています。

 厚生労働省の医薬品の最適使用推進ガイドラインにも記されているように、irAEへの対応には医師だけなく、看護師や薬剤師も含めたチーム医療体制が非常に重要です。学会などでも、医師、看護師、薬剤師がチームで申し込む「がん免疫薬物療法マネジメントセミナー」を開催しています。こういったセミナーにぜひ積極的に参加して、患者さんの支援や治療継続に役立つ知識を身に付けていってほしいと考えています。

免疫チェックポイント阻害剤治療を受ける患者さんへのケアと院内での看護師の役割

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静岡県立静岡がんセンター がん化学療法看護認定看護師 中島和子先生

irAEの特徴

 免疫チェックポイント阻害剤(ICI)によって生じる免疫関連有害事象(irAE)は、症状が多種多様で発現形態も多彩なうえ、発現時期の予測が困難で、治療終了後6カ月以降に発現することもあります。

 当院で2017年度にICI治療を受けた患者さん277名のうち、irAEで入院となったのは25名でした。内訳は間質性肺疾患9名、副腎機能障害6名、大腸炎・下痢4名、肝機能障害2名、筋炎、1型糖尿病、下垂体炎、その他が1名ずつでした。11名が電話相談のうえ緊急受診していましたが、14名は予定受診まで我慢していました。

 患者さんには「症状の変化があったときは早めに連絡してください」とお伝えしていますが、37℃の発熱1週間、食欲不振1週間、1日5~6回の下痢(Grade 2)が10日前後、倦怠感により活動性が低下した状態が1週間前後持続、口渇3日間、少しの息切れなどがみられても、患者さん自身が比較的症状が軽いと判断した場合に、電話連絡が遅れる傾向がありました。

 もともと咳嗽や腫瘍熱がある肺がんの患者さんが、熱や咳で受診したときなど、irAEの症状なのか、がんによる症状なのかわかりにくいケースがよくみられます。電話での症状の相談においては、患者さんからの十分な聞き取りが難しい場合も多く、電話を受ける看護師のICI精通レベルに差があることや、専門医がいない症状への対応など、医療者側の課題もあります。

 発熱、倦怠感、食欲不振、そして呼吸器症状が重なったときは重篤化することがあり、注意が必要です。irAEに適切に対処するためにも、アセスメントと電話対応のスキルアップが求められます。

irAEのアセスメント

投与前のアセスメント
 治療を始める前の普段の体調を「基準の体調(ベースライン)」として、患者さんと一緒に把握し、共有しておくことが非常に重要です。体温、排便回数、排尿の頻度、体重、飲水量、皮膚の状態、労作時の疲労や息切れ、視野、精神の安定度などを押さえます。そして現在の有症状、前治療歴と有害事象の経過についても把握しておきます。

 irAEはいつ起きるかわからないため、緊急受診のタイミングや受診方法、交通手段、サポートの状況についても事前にチェックし、備えておくことが大切です。

投与中のアセスメント
 投与中は、帰宅後に患者さん自身がセルフモニタリングで体調の変化に気づけることがとても重要になります。日常生活の中で、基準の体調からの違いに気づけるよう支援します。

 「犬の散歩中に、いつもより息切れの回復に時間がかかった」から初期の間質性肺疾患が、「時々めまいを自覚することはあったが、今日は数歩歩くだけでクラクラした」から心筋炎が見つかることもあります。医療者側もこういったirAEの症状体験を蓄積していくことで、問診力がついていきます。

併用療法のアセスメント
 ICIの2剤併用や、ICIと細胞障害性抗がん剤との併用では、アセスメントもより複雑になります。irAEか、それとも細胞障害性抗がん剤による有害事象なのか、いつ頃から、どんな程度か、症状がだんだん増強していないか、生活への影響、ほかの症状、リスク因子、検査データなど、原因を絞り込むための情報を吸い上げてアセスメントしていく必要があります。

電話によるirAEの評価とトリアージ

 当院では2018年6月に、医師5名、薬剤師1名、看護師2名からなるirAEトリアージチームを立ち上げました。ICI療法中に電話相談があった患者さんで、緊急入院になった事例を整理し、皆で情報共有しています。

 具体的な事例としては、「自転車通勤の患者さんがふらついて自転車に乗れないことに対して、家族がおかしいと感じて電話相談。受診により1型糖尿病を発症していることがわかり緊急入院」「テレビのリモコンを操作できていない様子に異変を感じた患者さんの家族が電話相談。採血の結果、かなり強い肝腎障害がみられ緊急入院」などがありました。また、他施設のICI治療の取り組みについても、講師を招いて情報収集しています。

 さらに、救急外来や外来で、患者さんからの電話を最初に受ける看護師がirAEの精通レベルを問わず対応できるよう、irAE外来電話対応フロー(下記①~③)を作成し、実行しています。

フロー①:投与歴の確認
 氏名・ID番号を確認し、カルテを開く。経過要約にICI(ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アベルマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブ、イピリムマブ)投与歴、報告者(患者さん、家族、その他)を確認する。

フロー②:問診票による症状の確認
 問診票に日時・患者ID・氏名・薬剤名を記載。発熱の有無、意識・全身の症状、呼吸器症状、消化器症状、高血糖症状、皮膚症状を問診票(図3)に沿って確認し、チェックを入れる。その他に気になる症2状がないか図4を参照しながら質問していき、症状の悪化がみられるかどうかも確認。問診票の内容をカルテに記載する。

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フロー③:医師への報告・受診の相談
 症状確認後、担当医または当直医に報告。意識障害、著しい活動性の低下、広範囲に及ぶ皮膚障害をはじめとする図3、図4の赤字の症状がある場合は、受診の必要性を強調しながら報告すること。受診の場合は、医師が免疫関連の検査のオーダーを入力。

 irAEマネジメントのポイントは、症状を早期に発見し、重症化を予防することです。継続した患者教育によって患者さんが些細な体調の変化に気づき、症状を言語化して、適切なタイミングで電話相談ができるようにサポートしていくことが大切です。

引用文献

1)Scott Gettinger,et al:Five-Year Follow-Up of Nivolumab in Previously Treated Advanced Non-Small-Cell Lung Cancer: Results From the CA209-003 Study.J Clin
Oncol 2018;10;36(17):1675-84.
2)Edward B,et al:Pembrolizumab for the treatment of non-small-cell lung cancer.N Engl J Med 2015;372(21):2018-28.
※本試験はMSD社の資金提供を受けており、著者らは同社の社員や謝金を受領したものを含みます。
3)Martin Reck,et al:Pembrolizumab versus Chemotherapy for PD-L1‒Positive Non‒Small-Cell Lung CancerN Engl J Med 2016;375(19):1823-33.
※本試験はMSD社の資金提供を受けており、著者らは同社の社員や謝金を受領したものを含みます。
4)Edward B,et al:Five-Year Overall Survival for Patients With Advanced Non‒Small-Cell Lung Cancer Treated With Pembrolizumab: Results From the Phase I
KEYNOTE-001 Study.J Clin Oncol 2019;37(28):2518-27.
※本試験はMSD社の資金提供を受けており、著者らは同社の社員や謝金を受領したものを含みます。

添付文書

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