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【連載】すぐに使える移動・移乗テクニック

慣性モーメント、トルクの原理を使って一人でできる! スマート体位変換

  • 公開日: 2014/3/24
  • 更新日: 2020/10/22

これまで続けてきた力任せの援助技術から、患者さん・看護者両者の身体が楽になる援助技術に変えるには、基本原理を正しく理解する必要があります。今回は援助技術に必要な基礎理論と実践方法を解説します。


【目次】


まずは基本原理を押さえよう!

体位変換の実践に入る前に、いくつか知っておきたい基礎理論があります。これらを理解しておくと、援助動作をより効率的に、スムーズに行うことができます。

その1 身体はコンパクトにまとめる

スケート選手はスピンの回転速度を上げるとき、両腕を胸の前で組み、できるだけ身体をコンパクトにします。これは質量(この場合は選手の腕や脚)が回転軸の近くにある方が回転しやすいからです。こうした理論を「慣性モーメント」といいます。

同じ原理で、患者さんの身体を移動・回転させる場合においても、できるだけ身体をコンパクトにすることで動かしやすくなり、より小さな力で移動・回転させることができます。

その2 回転する力を利用する

物体を回転させるとき、その物体のどこを押すかによって、必要な力と動かしやすさが違ってきます。回転に必要な力はてこの原理と同じで、回転軸からの距離に反比例します。つまり、力を入れる場所が回転軸から離れているほど、さらに力を垂直方向に掛けるほど、少ない力で回転させることができます。このときの回転軸にかかる力の大きさを「トルク」と呼びます。

援助技術では、患者さんを「持ち上げる」場面も多く、それによって看護者が腰痛に悩まされることが少なくありません。同時に、持ち上げられることで患者さんも身体を緊張させています。持ち上げる動作を極力なくし、回転する力=トルクを利用した体位変換を行うことで、患者さん・看護者ともに負担が軽減されます。

その3 重心を安定させる

重心を安定させるには、重心の位置が低いこと、支持基底面(物体を支え持つ面)が広いこと、重心線(物体の重心を通る垂線)が支持基底面の中にあることが大切です。電車に乗っているときに足を開くと安定感が増すのは支持基底面が広がるから、といえばわかりやすいかもしれません。

同様に、体位変換時や荷物を持つときなどはなるべくその重心を身体に近づけ、自分の支持基底面の中に重心線が通るようにすると安定させやすくなります。

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なっとく! 体位変換のコツと技

体位変換を行うときによくみられるのが、バスタオルを用いた方法です。一般的に、仰臥位から側臥位への体位変換では、身体の下に敷かれたバスタオルの端を把持し、手前に引くことでバスタオルごと患者さんの身体を横に向かせ、枕などで安楽な姿勢を保持します。

一見楽なようですが、患者さんへの注意に欠けると、麻痺側の腕が身体の下にきてしまい、身体の重みで腕が圧迫されるといったことが起こり得ます。

また、患者さんを持ち上げる力が必要になるので、看護者の腕や腰などにはどうしても負担がかかります。患者さんとのスキンシップの機会が失われがちになるのもマイナス面といえます。

実践方法

実践方法 1

患者さんに「横を向きますよ」と声かけをして、横向きに体位を換えることを意識してもらいます。

[ラクらくのコツ]
ベッドの高さは、自分の脚の付け根( 腰の高さ)辺りにくるのがベストです。動作を開始する前に必ず調節しておきましょう

実践方法 2

患者さんの両手をできるだけ胸の上部で組み、向いてもらう方向に顔を向けます。

[ラクらくのコツ]
両肩を抱くような格好をイメージして組むようにすると、巻き込みを防止できます。

実践方法 3

つま先を患者さんの膝先に向けて立ちます。

実践方法

実践方法 4

足を肩幅に開き、前方の足に体重を掛けます。患者さんの膝下に手を入れ、そのまま後方の足に体重を戻して膝を上げます。

[ラクらくのコツ]
重心移動を行うことで力は不要になり、「よいしょ」と持ち上げる必要がなくなります。

これまでの習慣から力を入れて持ち上げたくなりますが、前方に傾斜した身体をそのまま後方に戻すことを意識しましょう。目線を落とさずに行うと流れがつかみやすくなります。

実践方法 5

踵をできるだけ臀部に引きつける要領で膝を立てます。

[ラクらくのコツ]
上げた膝を戻すときに、左手で膝頭を、右手で足首を固定すると、踵を臀部に引きつけやすくなります。

実践方法 6

患者さんの膝に手を置き、膝を手前に倒します。

[ラクらくのコツ]
回転軸となる臀部に踵を近づけることで回転がよりスムーズになります(慣性モーメント)。
また、ベッドから膝までの高さが高いほど、少ない力で患者さんを回転させることができます(トルクの原理)。できるだけ踵を臀部に引きつけるのはこのためです。

実践方法 7

膝を倒すと腰が回転し、その後、背部、肩、頭部と回転していくので、もう片方の手を順に添えていきます。

説明図

実践方法 8

完全に側臥位になったら、患者さんが楽な姿勢に整え、背部に安楽枕などをあてます。

このとき、支持面積を広くするため、患者さんの身体と枕との間に隙間ができないように注意します。

今回の“なるほど”ポイント

  1. 患者さんの身体を小さくコンパクトにすることで、回転しやすくなる。 ⇒慣性モーメントを活用しよう
  2. 力を加える場所が回転軸から遠いほど、回転させるために必要な力は小さくなる。⇒トルク(てこ)の原理を利用しよう
  3. 身体は垂直方向に持ち上げない。看護師の重心移動で動かすことを心掛ける。
  4. 力が働く方向を意識し、その方向に足先を向けて重心を移動させる。⇒重心の位置と移動方向をしっかりととらえよう

参考文献

・平田雅子著:[完全版]ベッドサイドを科学する── 看護に生かす物理学、学習研究社、2009.
・紙屋克子 監修・著、原川静子 著:ナーシングバイオメカニクスに基づく 自立のための生活支援技術、ナーシングサイエンスアカデミー、2010.

(『ナース専科マガジン』2011年4月号より転載)

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