【知覚障害の看護】知覚障害とは?原因と緊急性の判断
- 公開日: 2011/10/25
刺激をキャッチするのが知覚ですが、刺激を感じるということは、危険を回避する機能が働いているともいえます。
今回はそんな危険から身を守る機能も担っている身体センサーについて考えてみましょう。
まずは、これを考えよう!
知覚障害とは?
■知覚は身体を守るための大切な機能
身体センサーともいえる感覚には、表在知覚や深部知覚などがあります。ここでは表在感覚を取り上げることにします。
光や音、温度などの外部からの刺激や、疼痛など体内から受ける刺激、こうした刺激を適切に感知できない状態が知覚障害です。症状には、刺激に対し異常に強く感じる「知覚過敏」、逆に感覚が鈍くなる「知覚鈍麻」、そして刺激が無いのに痛みやしびれを感じる「異常知覚」があります。
ここで、私たちの身体が刺激を感じる知覚の仕組みを思い出してみましょう。刺激を身体表面や内部の感覚受容器で情報として受け取る→情報を電気信号に変えて大脳皮質の感覚中枢に伝達する→感覚中枢で刺激の性質や形態など、情報の中身を分析する、このような手順を踏んではじめて熱いとか冷たいとか痛いということを感じる仕組みになっているのです。
例えば、熱い鍋に触れて、瞬時に「アチチ」と手を引っ込める、という経験をしたことがあるでしょう。これは、「熱い」という外からの刺激を身体表面の感覚受容器すなわち皮膚が感知し、それが情報として末梢神経や脊髄を通って大脳皮質の感覚中枢に伝えられ、情報が大脳で分析されます。
こうして「アチチ」という「熱い」感覚をキャッチすると、この情報を基に大脳皮質から「危険だからすぐに鍋から手を離せ」という命令がフィードバックされ、手を引っ込める行動につながるというわけなのです。
このように身体の安全を守るためにも、知覚という機能は大切です。では、なぜ身体の感覚が正常に働かないのでしょうか?
そこには、さまざまな原因や疾患が潜んでいると考えられます。
知覚障害の原因
患者さんに知覚障害がある場合、刺激が情報として脳に送られるその伝達経路、あるいは脳そのものに障害が起こっていると考えられます。
これをアセスメントの出発点として、緊急性や原因疾患として精査すべきリストを整理すると次のようになります(表)。
■伝達経路に起因
1)末梢に問題が生じている場合
感覚受容器や末梢神経に障害が生じて、感覚が鈍くなったり、激しい痛みやしびれが出現したりすることがあります。原因疾患として考えられるのは、外傷(熱傷含む)、腫瘍、椎間板ヘルニア、糖尿病、関節リウマチ、帯状疱疹など。
2)脊髄に問題が生じている場合
伝達経路の要でもある脊髄が障害されている可能性があります。原因疾患として考えられるのは、外傷、腫瘍、椎間板ヘルニアなど。刺激を感じにくくなる場合と椎間板ヘルニアのように激しい痛みを生じさせる場合があります。
■脳に起因
情報が脳に届いても、脳自体が障害されていると、それを受け取ることも、その情報に基づいて適切な反応をすることもできません。原因疾患として考えられるのは、脳出血、脳梗塞、くも膜下出血などの脳血管障害や脳腫瘍、脳外科手術後遺症、頭部外傷による脳障害など。
急激に発症した場合は緊急対応が必要な場合もある
初めに知覚障害にはいろいろな種類があるといいました。ところが、いずれの場合にも、その症状は患者さんだけが実感する主観的なものです。従って、患者さんの訴えが重要なキーワードになるのですが、それゆえに注意が必要となります。
なぜなら、こうした症状が起こった場合、患者さんからの訴えが「しびれる」という表現に集約されているケースが少なくないからです。「しびれ」とは、正座などの後で足がジンジンするあの感覚です。
このような長時間の正座などによるしびれは、末梢血管への血行が滞って生じるもので、心配はいりません。
しかし患者さんが「しびれる」と訴える場合、正座の後のような一過性のジンジンする状態だけではなく、刺激を感じにくくなっていたり、まったく感じないことを意味しているケースが少なくありません。また、主観的な症状ゆえに、その障害の程度も把握しにくいのが現実です。
簡単な検査と問診で、できる限り患者さんの訴えの内容を把握するように努めましょう。
また、急激に発症した場合は急変対応が必要になる場合があります。意識レベルや血圧が低下していないかをすぐに確認して、緊急度をアセスメントしましょう。
知覚障害のアセスメントと看護のポイント
発症の様子や具体的な症状から絞り込む
■具体的な症状の様子、内容を聞く
■「どんな感じですか?」を、こんな質問で絞り込もう
「しびれていますか?」
「ピリピリとかヒリヒリなど具体的な言葉で表現すると、どんな感じになりますか?」
「何も感じませんか?」
「どんなときに感じますか」
■ 【アセスメントのヒント】
■知覚障害の程度を聞く
■「どのあたりに症状が出ていますか?」を、こんな質問で絞り込もう
「全身にしびれがありますか?」
「どこか一カ所がおかしいですか?」
「急に症状が出ましたか?」
「徐々に症状がひどくなっていますか?」
「以前にもこういう症状が出たことはありますか?」
■【アセスメントのヒント】
■随伴症状を聞く
■「ほかに気になることはありませんか?」を、こんな質問で絞り込もう
「痛みはありませんか?」
「息苦しくはありませんか?」
「糖尿病の既往歴はありませんか?」
■【アセスメントのヒント】
緊急度はバイタルサインでその他の検査で原因を精査する
本人の訴えを聞きながら、身体症状なども合わせて確認していきます。
■バイタルサイン、意識レベルを確認する
脳に障害があった場合、頭蓋内圧が亢進して呼吸困難に陥る可能性があります。急激に知覚障害が発症した場合は、呼吸状態を確認しましょう。また、頸椎の損傷でも損傷した部位によっては、呼吸状態が悪化することがあるので、注意が必要です。そのほか、意識レベルや血圧が低下していないかも確認します。
■痛覚と触覚の検査
木製の舌圧子(ディスポーザブルタイプ)を2つに折ったもので、痛覚と触覚の確認をします。手順としては、患者さんに目を閉じてもらい、触れられていることが分かったら合図をして、尖った側なら「チクチク」、丸い側に触れたら「丸い」などとどちらの側で触れたかをいってもらいます。
触るときは一瞬で、すぐに離し、左右差も確認します。これは感覚には個人差があるので、同じ患者さんに同じ条件で左右に触れ、その違いを確認する必要があるからです。
触覚の低下は脊髄の障害側と一致し、痛覚の低下はその逆側に生じます。これは、この二つが異なる末梢神経を通るために、障害部位で感じ方が異なるからです。従って、右側で「チクチク」と感じる場合でも「丸い」が感じられなければ、右側の脊髄障害が考えられます。
また、左右にかかわらず痛覚や触覚が低下している場合では、無感覚症、痛覚鈍麻の可能性があります。
■皮膚の状態を確認する
患者さんが訴えている部位がどこか一カ所であれば、発赤や水疱、外傷がないかを確認します。
アセスメントを看護につなごう
一口に知覚障害といっても、その症状に応じてタイプもさまざまです。
また、慢性疾患である場合には、経過による症状の変化に応じてアセスメントを繰り返し、適切な看護につなげていかなくてはなりません。
特にこのように患者さん自身にしか感じられない主観的な症状の場合、状態が改善されないと、誰にも理解してもらえないというような精神的ストレスをもたらすこともあります。
傾聴、受容が患者さんの症状理解につながるのはもちろんのこと、心理面のケアにもつながることを忘れないでください。
脳に起因する場合は緊急度が高い
患者さんに起こっている症状が脳に起因する場合は、緊急対応が必要です。医師に速やかに伝えると同時に、血圧が低下しているなら、輸液を行ものではありませんが、激しい痛みを伴うので、疼痛緩和という点で緊急の対応が必要となります。
緊急性がない場合は予防と悪化防止に努める
緊急性がない場合の看護としては、苦痛の軽減と二次的な障害の予防がポイントです。
知覚過敏の場合、刺激要因によって苦痛が憎悪することがあります。経過観察をきめ細やかに行い、どういう場合に、どんな刺激で苦痛の強さなどが変化するのかを記録し、予防や改善に役立てましょう。
低栄養で寝たきりの患者さんの場合、知覚が低下していると、痛みを感じにくいことから、褥瘡が発生しやすくなります。体位変換などの予防対策を行いましょう。
糖尿病で末梢神経が障害されている患者さんの場合も知覚が低下しているので、熱傷、凍傷、外傷などの危険性が高まります。特に冬場は身体を温めようとして暖房器具による低温火傷を負うことがあります。
患者さんに知覚低下の危険性を理解してもらい、予防と悪化防止につなげることが大切です。
帯状疱疹であった場合は、皮膚科を受診し、薬を処方してもらい、範囲が広がらないようにします。皮膚症状が治っても数日間痛みが残る可能性があることも伝えておきましょう。
まとめ
患者さん自身にしか分からない主観的な症状は、その苦痛の内容や程度、原因を把握するのが容易ではありません。そして、そういう場合にこそ、フィジカル・アセスメントが看護ツールとして役立つといえるのではないでしょうか。
アセスメントは目的ではなく、患者さんにより良い看護を提供するためのツールです。これを活用するためには、これまでも何度となく繰り返して述べてきましたが、マニュアル思考に陥らないことです。
AだからBと単純な図式に当てはめず、患者さんに何が起こっているのか、情報を集めて精査、評価、判断しましょう。そして、その際に必要なのが、知識の裏付けです。
知識と臨床経験からの学びを合わせて、看護の力を積み重ねていきましょう。
(ナース専科「マガジン」2011年1月号より転載)
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