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【連載】ナースのための接遇セミナー

第1回 看護師が身につけたい医療の場での接遇とは?

  • 公開日: 2014/1/2

経験豊富な看護師にとって、患者さんへの接遇やマナーに自信がないことは少ないかもしれません。けれども、「明るくて元気な頼れる看護師さん」が普段何気なく口にしている言葉や行動が、患者さんの信頼を損ねる原因になることも少なくないのです。

この連載では、外来やクリニックで、日々多数の患者さんに対応する看護師に求められる接遇について、わかりやすい例を通してレクチャーします。


【この連載の他記事はこちら】
* 第2回 【ナースの接遇】伝わる「挨拶」と「お見送り」
* 第3回 【ナースの接遇】言葉遣い
* 第4回 【ナースの接遇】相手に合わせた説明
* 第5回 【ナースの接遇】クレーム対応の考え方
* 第6回 【ナースの接遇】クレーム対応の活かし方


▼看護師のコミュニケーションとマナーについて、まとめて読むならコチラ
看護師のコミュニケーションとマナー


こんな「場面」は身に覚えがありませんか?

Episode1 笑顔が素に戻った瞬間の「怖さ」

 ここは、外来の待合室。いつにも増して大勢の患者さんが、辛抱強く診察を待っています。外来の看護師も大忙しで、次から次へと患者さんを診察室へ誘導していました。

 ある看護師が『○○さま、診察室の前でお待ちください』と、感じのよいにこやかな笑顔で明るく呼び掛けました。ところが、呼び掛けを終えると同時に、その笑顔が消えて……「もう、今日は忙しくって大変よ」という心の声を押しころすような無表情に瞬く間に戻りました。

*笑顔から素の顔に戻る瞬間、それを見せられた側が受ける「怖い印象」について、あなたは気付いていますか。

Episode2 カーテンを勢いよく「シャッ」

 医師から採血の指示を受け、カーテンで区切られたスペースで待つ患者さんの元へ行った看護師。採血を終えると、「はい、しばらく針を刺した部分を押さえていてくださいね」と笑顔とともに伝えて、「次の患者さんのところへ急がなくては」とばかりに、カーテンを勢いよく「シャッ」と閉めました。残された患者さんはビックリ。「そんなに勢いよく閉めなくったって……、なんだか突然遮断されたようで、冷たい感じ」

*ちょっとした動作に困惑する患者さんの気持ちに、あなたは気付いていますか。

「ギャップ」が怖さ・冷たさを与える

 さて、これら2つのエピソードの言葉や動作が、なぜ受け手に不快感を与えるのでしょうか。それは、「ギャップ」の問題なのです。

 最初のエピソードのテーマは、「笑顔から素の顔に戻った瞬間の怖さ」です。この怖さの理由は、「笑顔」と「素の顔(表情)」との間に、患者さんがギクッとするようなギャップ(差異)があることによります。

 2つ目のエピソードでは、カーテンを閉めるときの「動作」に問題があります。素早い動作や動作から発生した「シャッ」という音に対して、人はとても冷たい印象を受けてしまうことも少なくないのです。笑顔でやさしく言葉を掛けてくれたのに、その直後の動作が速すぎる。そのギャップも冷たさを感じさせてしまいます。

 もう一つには、「素」の様子を垣間見させてしまったことも挙げられます。つまり、カーテンを静かに閉めたほうがよいことは、皆さん理解できていますよね。けれども、大勢の患者さんを少しでもお待たせしないようにと、テキパキと仕事をこなしているうちに望ましくない動作が出てしまう。それは、頭で理解できていることが、行動で表せていないこと。そのような医療者の素の事情を見せてしまうのも、怖さ・不安感を与える一因になるのです。

よくない印象を与えてしまう「ナースの行動・動作」

素に戻っている顔

 特に笑顔で対応した直後の素の無表情な顔、物を考えているときの真剣すぎる顔を見せられて、戸惑う患者さんもいる

速すぎる動作

 「テキパキ」「きびきび」はいいけれど、状況に似合わない速すぎる動作は、冷たさを感じさせてしまう

型にはまった笑顔

 相手の様子や状況にかかわらず、いつでも同じ笑顔、いわゆる営業スマイルは、相手に不信感を与えることも

忙しくても共感的な対応ができるのがプロの医療人

自分の真剣な顔を鏡で見ると…

 前半の2つのエピソードで出てきた「笑顔と真剣な顔」「やさしい言葉とは相反する、冷たい印象を与える動作」。これらの「ギャップ」は大きければ大きいほど、不快感、不安感、そして不信感を与えることを覚えておきましょう。

 できれば、ギャップは見せないようにすること。どうしても難しければ、そのギャップをできるだけ小さくすることです。そのためには、どうしたらよいのでしょうか。

 どちらも日頃、何気なく行っている言葉や動作なので、自分で気付くのはなかなか難しいものです。そこで、シミュレーションを通して一度見直してみると、受け手の気持ちを理解することができます。

 例えば、素の顔とはどんな顔をしているのかを確認するために、例えばこうしてパソコンに向かっているとき、または雑誌を読んでいるときに、鏡で自分の表情を見てみてください。いかがですか? 真剣な顔、真面目な顔というのは、自分が想像する以上に実は、硬くて怖いものだということがわかるのではないのでしょうか。

 あるいは、スタッフ同士で患者役・スタッフ役となってみるのもよい方法です。カーテンを閉める動作はゆっくり過ぎても速すぎてもNG。「この程度ならOK」「ちょっと速いかな」と、評価し合うのです。地道な作業の繰り返しですが、体で覚えることは、接遇を一つレベルアップさせる近道です。

「患者さんだったらどう感じるだろう」が大切

 表情や動作を検討することと合わせて、接遇をレベルアップするために大切なのは、患者さんにどう接するか、基本的な考え方を持つことです。そのベースとなる6つのキーワードを紹介しましょう。

下記の、よい接遇を行うための「6つのキーワード」の中で、医療の場での接遇に最も特徴的なのは、「(6)安心感を与えること」です。そもそも医療施設を訪れる患者さんは、病や障害を抱えて不安な気持ちでいっぱいです。そこで、医療者の言葉や態度から、「私たちがきちんと対応するので、大丈夫ですよ」というメッセージが得られると安心できるのです。

 安心できるメッセージを与えるためには、受け手である患者さんの心に寄り添い、「私が患者さんだったら、どう感じるだろう」と、共感する気持ちが大切です。体がつらい人には、ゆっくりと丁寧に言葉を掛けます。形だけの笑顔やテキパキしすぎる動作は、反感を得てしまうことを忘れないようにしましょう。「おつらい状況がよくわかりますよ」という共感の態度が伝われば、患者さんは「わかってもらえている」という安心感を得ることができます。

 とはいえ、忙しいときにどの患者さんにも「親切で丁寧」な接遇を実践するのは、とても難しいこと。そこをあえて、いつでも安定的な態度で接することができるのが、本物のプロの医療人です。まずはどんなときでも、どんな相手に対しても、「笑顔と素の顔」「言葉と行動」の間に生じる差(ギャップ)を小さくできるように、日頃の言動を見直すことから始めてみましょう。

よい接遇を行うための「6つのキーワード」

 1. 見ること(相手をよく見て応対すること)
 2. 聴くこと(相手の話に耳を傾けること)
 3. 届けること(相手に気持ちを届けること)
 4. 伝えること(相手に心を伝えること)
 5. 意識を持つこと(常に見られている、聞かれているという意識を持つこと)
 6. 安心感を与えること(すべての方に安心して来院していただくこと)

「相手軸」で考えるとプロとして行動できる

 プロの医療人として、忙しいときでもそうでないときでも、「安定的な態度」で接するには、どうしたらいいのでしょうか。

 その核となるのが、メンタル面での心の持ちようです。医療人ならば、自分中心で考える「自分軸」ではなく、相手のためを考える「相手軸」の発想で行動することです。

 例えば、医療機関に多くの患者さんが訪れてくれれば、組織としてはとてもありがたいことで、これはすべてのスタッフが理解しているはず。でも、自分が忙しいとき、あるいはようやく休憩が取れたときに飛び込んできた患者さんに対して、「自分軸」という個人の視点で考えると「なぜ、こんなときに」と感じてしまいがちです。

 一方、「相手軸」で考えれば、ちょっと一呼吸をおいて、「とても困っているのだから、役に立とう」と思いやりを持った対応ができることでしょう。プロの医療人ならば、相手を察することのできる「相手軸」で考えていきたいもの。それが、どんなに忙しくても、「安定的な態度」を提供するためのプロのコツです。

好感度upの“なるほど”ポイント

 世間では、「接遇」=「笑顔での対応」と捉えられることも多いものです。でも実のところ、医療の場での接遇では、「ニコニコの笑顔(満面の笑顔)」はとても危険です。特に歯を大きく見せた笑顔は、「喜び」と受け取られるため、状況によっては注意が必要です。

 具合の悪い患者さんや病状に不安を抱く家族らを「ニコニコの笑顔」でお迎えすると、たとえ言葉では「大丈夫ですか?」と声をかけても、患者さんから「何笑っているの。具合の悪い私のつらさが、わからないのかしら」と、不信感を与えかねません。

 患者さんに対しては、気持ちや状況に合わせた表情、共感している表情をとることがポイントとなります。無表情にも苦笑いにも見えないこと、退院時や回復時などはともかく、喜びのニコニコの笑顔に見えないこと。それには、「口角5ミリアップのほほえみ」がキーワード。相手の状況を察して共感(自然な変化)ができる安定的な表情となります。思いやりの心を添えた安定的な表情「ほほえみ」を心掛けてみましょう。

(『ナース専科マガジン』2011年4月号より転載)

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