第1回 【高齢者看護】加齢による機能低下とそのメカニズム
- 公開日: 2012/9/12
高齢者看護では、成人と異なり、加齢による身体・精神機能の変化を視野に入れ生活機能も含めたアセスメントとケアが求められます。 第1回は、高齢者看護のとらえ方と加齢による身体・精神・社会的機能の変化と特徴について解説します。
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高齢者看護のとらえ方
高齢者看護は患者さんの「持てる力」、すなわち残された機能をできるだけ維持する方向でかかわっていくことが大切です。しかし高齢者の場合、加齢による変化の程度は個々で異なり、小児のように発達段階に応じて見ていくというわけにはいきません。心身の機能の程度はその人のそれまでの生活習慣、生活環境や社会的背景などに影響され、非常に個人差が大きく、年齢だけでカテゴリー分けできるようなものではありません。
高齢者は、身体的要因、精神的要因、社会的要因が影響し合い機能低下することが知られていますが、それらは一度に来るものではなく、身体機能が低下しても精神的な機能まで低下するとは限りません。
その人の状態は、それまで生きてこられた中でのさまざまな因子が複雑に絡み、結果として現れてくるのだといえます。こうした背景を持つ高齢者疾患の主な特色として、次のことが挙げられます。
1. 複数の疾患(多臓器の疾患・同一臓器に多疾患)を併せ持つ
2. 高齢者特有の疾患(認知症・尿失禁・転倒など)がある
3. 非定型症状を示し、一般的に症状に乏しい
4. 日常生活上の機能障害を起こしやすい
5. 免疫機能・基礎体力の低下で急性疾患からの回復が遅延する(病前の状態に戻るのが難しい)
6. 訴えが不明確である
しかも、罹患後の長期臥床や安静によって筋力が落ちるなど、成人に比べて身体機能が低下しやすく、転倒による骨折や寝たきりなどのリスクも高くなります。さらに、入院の原因となった疾患を治療する間に、その疾患とは直接関連のない合併症を発症することも多く、そのために入院期間が延長してしまうこともあります。
成人であれば疾患が回復すると入院前の状態まで回復することもできますが、高齢者の場合は疾患が慢性化しやすいため、入院前の状態に戻りにくいケースも多く、疾患にかかることで日常生活動作(以下、ADL)そのものが落ちたり、損なわれたりします。
そしてそのADLの低下が、さらに症状の改善を阻害するという悪循環に陥りやすくさせます。
高齢者看護では、こうした加齢による変化を理解した上で患者さんの残された機能を把握し、支援していくことが望まれます。
加齢による身体機能の変化と特徴
高齢者の身体的特徴としては、
1. 予備能力の低下
2. 内部環境の恒常性維持機能の低下
3. 複数の病気や症状を持っている
4. 症状が非定型である
5. 現疾患と関連のない合併症を起こしやすい
6. 感覚機能の低下
などがあります。
高齢者は、予備能力がないため疾患にかかりやすく、身体の内部環境の恒常性が維持できないことで、体温、水、電解質バランスが取りにくくなり、容易に脱水症状が起こります。
また、成人と違って複数の疾患を持っていることも少なくありません。例えば、糖尿病を持ち、脳梗塞を患い、今度は肺炎あるいは骨折……と、さまざまな疾患を併発し、治療後も障害が残る、あるいは慢性化したりします。
疾患の症状にしても教科書的な症状の出現がない場合も多く、例えば肺炎でも、発熱や咳といった特徴的な症状が現れなくても、何か様子がおかしいとX線を撮ってみると肺炎を起こしていたということがあります。症状に気付いたときには、重篤化していることもあります。
また、肝・腎臓機能が低下しているため、薬物の代謝や排泄が十分に機能せず、体内に蓄積されて思いもよらない副作用が出現することがあります。さらに、視力や聴力といった感覚機能も低下しているところに、入院などの環境の変化が加わることで思わぬ事故につながることもあります。
精神・社会的機能の変化と特徴
高齢者の精神機能の特徴としては、
1. 長い人生経験により培われた個性が影響
2. 老いた自分を受け入れられない
3. 経験主義的、発展性に乏しく形式的
4. 喪失感・孤独感・不安感
5. 悲観的・寂しがり・愚痴っぽくなる
6. 職業上の責任や義務からの解放
といったことがあり、社会的特徴として、
1. 社会の第一線から離れる(役割の喪失)
2. 経済力の低下
3. 人間関係や役割などの社会的交流の減少
4. 社会との交流の機会や生きがい等を失いやすい
5. 扶養する立場から、扶養され世話を受ける立場へ(家長の交代)
6. 高齢者の二人暮らし、あるいは独居
などが挙げられます。
高齢者は、加齢によって、感覚、知覚、記憶、思考、知能といった精神機能の中でも記憶力・分析力・学習力が低下しやすいことが知られています。
例えば、時間や場所が分からなくなったり、人や物の名前がすぐに出てこなかったりする見当識障害や、昔のことは覚えていても、最近起こった出来事は忘れてしまう記銘力障害が出現するなど、新しいことを記憶する能力や、注意集中力、持続力の低下も見られるようになります。
また、高齢になると、退職によって職場を失う、社会的役割を失う、あるいは配偶者や親しい友人を失うなど喪失感を感じる出来事が多く、不安感や孤独感なども感じます。それらが要因となり、感情鈍麻、感情失禁、不安状態、うつ・躁状態といった感情障害を引き起こしやすくなります。そこから脱水や食欲不振などを発症する可能性も高く、精神的なものから身体的な症状に移行する、あるいはその逆の場合もあります。
高齢者の精神機能は、加齢だけではなく疾患や身体機能の低下、社会・生活環境の変化が大きく影響し合っているのが特徴で、個々人に合ったケアの提供が求められます。
次回は高齢患者さんをアセスメントするために知っておきたいことについて解説します。
(『ナース専科マガジン』2011年2月号より転載)