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【連載】患者の語りから学ぶ 看護ケア

第33回 がん検診にかかわる誤解と後悔

  • 公開日: 2016/3/31
  • 更新日: 2021/1/6

医療者が患者の治療・ケアを行ううえで、患者の考えを理解することは不可欠です。

そこで、患者の病いの語りをデータベースとして提供しているDIPEx-Japanのウェブサイトから、普段はなかなか耳にすることができない患者の気持ち・思い・考えを紹介しながら、よりよい看護のあり方について、読者の皆さんとともに考えてみたいと思います。


がん検診は、健康増進法に基づく健康増進事業として市町村で実施されており、胃がん、肺がん、大腸がんは1年に1回、子宮頸がん、乳がんは2年に1回の受診が勧奨されています。がん検診を受け、がんを早く見つけ治療ができることは人々にとって大きなメリットがあるため、市町村だけでなく、職場や人間ドックで実施される場合もあります。けれども、DIPEx-Japanのインタビューでは、がん検診にかかわる辛い思いを語る人々もいました。

がん検診を受けていても早期発見できないことがある

「便潜血検査が事業所検診と人間ドックの項目の両方に入っていたんですね?」「そう、両方で必ず(便を)出しますし、出したら必ず引っ掛かってました。はい(笑)。ほんで、それはもう先生に、『先生、これは前に(検査)してあるから痔なんですよ』って。…自分が診断してたんですわ。」

これは、大腸がん検診を1年に2回受けていて、便潜血検査の結果がずっと陽性だったという男性の語りです。この人は、10年前に受けた精密検査の結果が「異常なし」だったことから、出血は痔が原因だと思い込み、それ以来内視鏡検査を受けていませんでした。

しかし、知り合いがポリープを切除した話を聞いて病院に行ったところ、がんであることがわかりました。その時の思いを次のように語っています。

60歳の時に大腸がんと診断された男性(インタビュー時62歳)

こちらからご覧ください

(前略)…一番こたえたんが「手遅れ」、(先生に)「もっと早う来たらよかったね」ってポッと言われたもんで、「もう手遅れやな」とも自分で思い込んでしまうし。

で、後でまあ考えたら、ひょっとしたら先生「もっと早う来たら良かったな」というのは、あの、手遅れという意味じゃなくて、「もうちょっと早く来たら、あの、開腹手術せんと内視鏡で取れたのに、お前はちょっと来るの遅れたから腹切らなあかん」て言われたんかなと思いながら、まあ、その、自分を慰めるような感じだったんですけどね。

まあ、とにかく、最初思ったのは、もうこれはえらいことしたと。自分が、あの、どうとかこうとかいうのじゃなくて、やっぱりその、周りに、家族にもえらいことしたなと思って、自分でちょっと気付けてたら、助かったのにという自分の、何ていうんですかね。不注意で、思い込みで、命落としたと思って、そんなふうに思いまして。

「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン > 大腸がん検診の語り」より


「もっと早く来たら良かった」というのは決して「手遅れ」という意味ではなかったのですが、それでも最近受けた便潜血検査の結果を真摯に受け止め精密検査を受けるべきだった、という思いは大きな後悔になっていました。

他方で、検診の結果が偽陰性(本当はがんがあるのに「異常なし」と出る)の場合もあります。48歳で乳がんにかかった女性は、毎年会社の婦人科検診で乳がん検診を受けてきて、「異常なし」という結果だったにもかかわらず、その後自分で胸のしこりに気づき、乳がんと診断されました。

48歳の時に乳がんだと診断された女性(インタビュー時51歳)

(この語りは音声のみです)
こちらからご覧ください
(検診結果の)報告書には「異常なし」って書かれていたんです。それで、私は、異常ないものだって思って、ずうっとおいて、で、治療がある程度落ち着いたあとですね、乳がんになって手術して、抗がん剤だの何だのが終わって、落ち着いたときに、「そういえば」と思ってその報告書を出して、よく見たら、「触診では何かがあるけれど、超音波の結果、異常なし」っていうそういう診断、その報告だったんです。

で、私は、その結果しか見てなかったので、別に問題ないと思って、自分で(乳房を)触りもせずに問題ないんだと思って、人まかせだったんですね。

「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン > 乳がんの語り」より


この女性は、医師に対して憤りながらも、「異常なし」と書かれた報告書の内容について吟味せず、自分で乳房を触らなかったことを、人まかせだったと語っていました。

このように、がん検診を受けても以前の良い結果を信じ続けて受診を先に延ばしてしまったり、偽陰性だったりして、直ちに早期発見に結びつかないこともあります。人は検診で異常を発見するより安心を得たい思いが強いのかもしれません。

検査結果の読み取り方やその限界等は一般の人にはわかりにくい場合があるので、がん検診に携わる看護職は、かみ砕いて説明しその人の状況に合わせたフォローが必要です。

また、検診を受けていれば、安心ということではなく、便を観察したり乳房をチェックするなど、日頃から自分の体に関心を持ち、体の声を聞くことの大切さを伝えていかなくてはならないと思います。
DIPEx-Japan紹介

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