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【連載】野原幹司先生のこんな時どうする!?摂食嚥下ケア

第26回 摂食嚥下障害の臨床Q&A「口腔ケア時のブクブクうがいでむせてしまうとき、どうすればよい?」

  • 公開日: 2016/9/13

脳梗塞の既往歴がある85歳男性。食事はペースト食で10割摂取できています。歯は数本残っています。口腔ケア後にうがいをしていただいているのですが、最近になってむせるようになりました。うがいは大切だと歯科衛生士さんにいわれましたが、続けなくてはなりませんか?


まずうがいには「ガラガラうがい」と「ブクブクうがい」の2つがあります。ガラガラうがいは喉に付着したものを取り除くための喉に対するケアです。ブクブクうがいは口腔を清潔に保つための口腔に対するケアです。このことから食後に行うのはブクブクうがいになります。
しかし「うがいをしてください」と患者さんに伝えるとガラガラうがいをしてしまうことがあります。そのため「ブクブクうがい」であることをあらかじめ明らかにしておくと良いでしょう。伝え方は「ブクブクしてください」、「ウグウグしましょう」、「グチュグチュしてみてください」などです。通じにくい場合は「ブクブクうがい」の言い方が地域や患者さんの年齢によって様々あるため、いくつか試してみてください。

さて今回は食後のうがいの必要性について考えてみます。


うがいの目的

うがいは口腔内を速やかにきれいにする方法として効果的です1)。口腔ケア後のうがいは食物残渣だけではなく、歯ブラシによってかき出された汚れ(歯垢、口腔内細菌)や剥離上皮などを吐き出して口腔内を衛生的に保つために行います。また口臭予防、口腔内の不快感をなくす、口腔乾燥の緩和などの効果もあります。

うがいを行うポイント

うがいを行う時にむせないようにするには、いくつかポイントがあります。
患者さん本人がうがいを実施している場合はコップに入っている水の量が誤嚥に影響します。コップに入っている水の量が少ないと口腔内に水が入ってくるまでコップを傾けなくてはなりません。この姿勢は頸部伸展になり、誤嚥しやすくなります。そのため水は8割程度コップに入れるようにします。すると頸部伸展になりにくく口腔内に水を入れることができます(写真)。
介助で実施している場合は患者の後頭部付近を軽く支え、口腔内に水を入れたときに頸部伸展にならないよう心がけてください。
また、ロックグラスのように背の低いコップを使うと頸部が伸展しにくくなるので誤嚥予防になります。このような誤嚥予防対策をしても疾患・病態によって予防しきれないことがあります。誤嚥性肺炎になりやすい疾患・病態はパーキンソン病関連疾患、脳卒中後などです(「第2回 摂食嚥下障害の原因となる疾患」を参照)。咳払いが弱い、湿性嗄声・湿性咳嗽が普段から多いときは無理にうがいをせず、口腔内の汚れをしっかり拭き取るようにします。

頸部伸展説明写真

うがいをしない場合の口腔ケア

うがいの代わりに清拭を行う口腔ケア方法について説明します。
口腔内の清拭はガーゼよりも不織布がおすすめです。不織布はガーゼに比べると強度は劣りますが、伸縮性がありソフトな感触のため粘膜を清拭するには適しています。清拭はガーゼや不織布を指に巻き付けて行うことになりますが、分厚く巻いてしまうと狭い口腔内での操作性が悪くなります。巻き付けは1~2重程度にしておくと操作性が良く清拭が行いやすくなります。
清拭は口蓋、頬粘膜、舌、歯、歯肉など口腔内全体を行い、口腔内に残っている水分や食物残渣をしっかり回収してください。また、食べ物は歯の表側の口腔前庭(図)に残りやすいので、口唇・頬粘膜を軽く外側に引っ張りながら清拭をしてみると良いでしょう。

口腔

症例のような脳卒中後の患者さんは嚥下機能が低下している可能性があります。そのためうがいの水を誤嚥してむせているかもしれません。うがいの工夫をしてもむせてしまうのであれば無理にうがいをせずに清拭をしっかり行うようにしても良いでしょう。
しかしむせているからと言って必ず中止する必要はありません。誤嚥性肺炎の徴候がなく患者本人がうがいをしたいと思っている場合は誤嚥性肺炎徴候を見逃さないようにしつつ継続することもあります。

 口腔ケアは整容のひとつですが、誤嚥性肺炎の予防でもあります。疾患に合わせて療養・生活上の状況から口腔ケアの方法を考え、最も有効な口腔ケアの方法を選択できるのは看護師さんならではです。看護師さんの日々行う口腔ケアが誤嚥性肺炎の予防につながります。

参考文献

1)神野恵治, 茂木健司, 笹岡邦典, 根岸明秀: 各種口腔ケアの効果に関する検討-口腔常在菌を指標として-第2報各種含嗽剤による含嗽効果の検討. Kitakanto Med J, 58: 1-7, 2008.

イラスト/たかはしみどり

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