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口腔ケア|目的と手順、看護の注意点、観察項目、症状別ケア(総まとめ)

  • 公開日: 2020/3/15

 急性期から在宅まで、あらゆる医療の現場においてケア項目に入ってくる口腔ケア。看護や介護を提供する場面では、口腔ケアが患者さんのQOLの維持・向上のために大きな役割を果たしています。口腔ケアの目的やその効果、観察項目・アセスメント、方法や手順、疾患別のケアについてイラストを用いて解説します。


口腔ケアとは? 口腔ケアの目的

 口腔ケアは、口腔内を清潔にすることで虫歯や歯周病予防だけでなく患者さんの心身の健康をサポートすることを目的に行われます。口腔ケアには、「器質的口腔ケア」と「機能的口腔ケア」の2つに分けられます。

 患者さんのその人らしい生活を支えるためには、この器質的口腔ケアと機能的口腔ケアのいずれも行ってはじめて、口腔ケアの実施とすることが大切です。

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口腔ケアについての概要はこちら
【連載】看護師のための口腔ケア 第1回 口腔ケアとは

器質的口腔ケア

 清拭によって口腔内の細菌数を減少させ、清潔な状態に保つ方法です。歯ブラシやスポンジブラシなど、さまざまなケア用品を使用して食物残渣や歯垢(プラーク)を除去し、歯(義歯)・粘膜・舌を清掃します。

表1 器質的口腔ケアの部位とケア用品

部位 ケア用品
歯・歯肉 歯磨き粉、歯ブラシ、タフトブラシ、歯間ブラシ、糸ようじなど
粘膜 保湿剤、球状ブラシ、スワブ、ガーゼなど
舌ブラシ、球状ブラシ、ガーゼな

機能的口腔ケア

 口腔には、摂食、嚥下、呼吸、発話などさまざまな機能があります。機能的口腔ケアとは、これら口腔機能の低下に対してアプローチする方法です。障害されている機能を見極め、適切なアプローチを行うことが大切です。

表2 機能的口腔ケアの種類と目的

種類 方法 目的
口の体操 口の開閉、頬を膨らませる、舌の出し入れなど  口腔周囲の筋力・舌運動の維持・増強、脳への刺激など
摂食・嚥下訓練 障害部位の見極め、筋のマッサージなど 摂食・嚥下機能の維持・向上
唾液腺マッサージ 耳下・顎下・舌下腺のマッサージなど 唾液の分泌促進

口腔ケアの効果

 器質的口腔ケアでは、感染予防の効果が期待できます。たとえば、認知症や寝たきりの患者さんは口腔内の清潔が保たれにくく、歯の表面を細菌の塊であるバイオフィルムが覆ってしまいます。このバイオフィルムは歯周病や誤嚥性肺炎の原因とされていますが、器質的口腔ケアでバイオフィルムを除去することでこれらの疾患の発症リスクが下げられるのです。

 また、機能的口腔ケアは唾液の分泌や話す・食べる・飲み込むといった口腔機能の維持・向上の効果が期待できます。

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器質的・機能的口腔ケアについて、さらに詳しくはこちら
器質的口腔ケアと機能的口腔ケアの効果

口腔ケアの必要性

 口は生きるために不可欠な器官です。口腔内を清潔で健康な状態に保てば、QOLの維持・向上が図れます。また、摂食・嚥下障害といった口腔機能障害がある患者さんの場合、口腔ケアによって失われた機能の回復や今ある機能の維持が見込めるようになります。

 多忙な医療現場では、毎日の入念な口腔ケアは難しい現状があります。そこで、すべてのケアの工程を一人で完結しようとせず、看護職・介護職・歯科医師・歯科衛生士・家族などで協力して取り組める環境づくりが大切になってきます。

口腔のしくみと働き

 口腔ケアを実施する際は、口腔のしくみや働きについておさえておくとよいでしょう。

口腔の構造と機能

 口腔は、歯・顎骨・舌・歯肉・口蓋・唾液腺などで構成されており、口腔内は粘膜で覆われています。これらの構造を用い、咀嚼・嚥下・発語・唾液の分泌などの機能を果たしています。また、唾液は食べ物の初期消化・口腔内の浄化・歯の再石灰化などの作用をもちます。主に耳下腺、顎下腺、舌下腺の3つの唾液腺から分泌されています。

口腔の構造と唾液腺

図1 口腔の構造と唾液腺

看護の役割

 看護師は、日々のケアを通して患者さんの口腔内トラブルの予防と早期発見に努めます。口腔内の状態によっては、歯科などと連携を図り、チームで口腔ケアにあたることも大切です。

 患者さんの個別性に合わせたケアを行うために必要な観察項目やアセスメントのポイントは次の通りです。

観察項目

 口腔ケアを実施する前に、義歯の有無や嚥下障害の程度など患者さんの基本情報を把握しましょう。次に歯の汚れ、プラークの付着、舌苔、口臭といった口腔内の状況を観察し、患者さんの状態に応じて介入すべき範囲を判断していきます。

<基本情報の把握>
・嚥下障害の有無と程度
・栄養摂取の状況
・義歯の有無
・意識状態
・認知の程度 など

<主な観察項目>
・歯の汚れの程度
・プラーク付着の程度
・舌苔の付着の程度
・口臭の程度
・口腔乾燥の程度
・出血傾向の有無
・開口度
・口腔ケアの受け入れ など

アセスメント・評価のポイント

 患者さん一人ひとりの状態に合わせた口腔ケアを行うためには、口腔内の状態や残存機能をていねいにアセスメントしすることが大切です。またアセスメントは1度で終わらせず、定期的に繰り返し評価することが重要です。

 口腔状態のアセスメントシートや評価ツールとして、下記のようなものがあります。

表3 口腔状態のアセスメントツールの例

ツール名
・迫田式 口腔アセスメントシート
・慢性期医療協会版 口腔ケアアセスメントツールVer1.01
・介護予防口腔機能向上マニュアル
・山口赤十字病院 口腔ケアマニュアル

 オリジナルツールを用意している施設も多いため、口腔ケアチームがある場合は、自施設のものがあるか確認してみるとよいでしょう。

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ケアの注意点

 口腔ケアを行う際は、患者さんの状態が安定していることを確認したうえで実施するように留意しましょう。ケアの実施を優先したことでケアの拒否や誤嚥や出血などのリスクを増加させてしまうことに繋がります。口腔ケアは1人で完結しようとせず、チームで協力して取り組むことが大切です。

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口腔ケアの物品・方法・手順

 実際に口腔ケアを行う際の手順は次の通りです。

ケア用品の準備

 ベッドサイドで口腔ケアを行う際に必要な主な物品は次の通りです。

<準備する物品>
・コップ(吸い飲み)
・ベースン
・防水エプロン(防水シーツ)
・洗口液
・保湿ジェル
・綿棒
・歯ブラシ、舌ブラシ、スポンジブラシ
・歯磨き粉
・ソフトガーゼ
・舌圧子
・ワセリンやリップクリーム
・開口器、バイトブロック(開口困難な場合) など

口腔ケア用品1

図3-1 口腔ケアで準備する物品


口腔ケア用品2
図3-2 口腔ケアで準備する物品

歯ブラシ・スポンジブラシの種類

 歯の清掃に使う歯ブラシは、患者さんの状態に応じて毛の硬さやヘッドの大きさなどを選びます。口の奥や粘膜の清掃が行える球状ブラシ、残存歯が少ない場合に有効なワンタフトブラシ、舌苔除去のための舌ブラシなどもあります。歯間の清掃にフロスも便利です。

 出血傾向にある患者さんのケアや口腔内粘膜のケアには、スポンジブラシが適しています。ヘッドがさまざまなサイズのものが出ており、ケアの部位に合わせて選ぶことができます。

 嚥下機能が低下している患者さんには、口腔ケア中の唾液や洗浄水を誤嚥しないよう吸引器付きブラシやスポンジが便利です。

口腔ケア用ブラシ

図4 口腔ケア用ブラシの種類

保湿剤や洗口液の種類

 口腔内の乾燥が強い場合や口内炎などによりブラシの使用が難しい場合、保湿剤や洗口液を使用します。保湿剤にはジェルタイプやスプレータイプなどがあります。

声かけと体位の確保

 口腔ケアを安全安楽に行うためには、声かけと体位の確保が大切です。特に嚥下障害のある患者さんは頸部を前屈させ、誤嚥しないように注意します。片麻痺の患者さんに洗口液を含んでもらう場合は麻痺側から流し、健側で吸引したりベースンで受けたりします。

 口腔ケア中は患者さんの状態をよく観察し、誤嚥や気分不良などの変調にいち早く気づけるようにしましょう。

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口腔ケアの手順

1.患者さんに口腔ケアを行うことを伝え、体位を調整します
2.口腔内の観察を行い、異常がないか確認します
3.粘性の痰があれば吸引除去します
4.含嗽などで口腔内を湿潤させ、食物残渣があれば取り除きます
5.患者さんの口腔内の状態に合わせたブラッシング法でブラッシングを行います。状況に応じてスポンジやガーゼを選択します
6.舌苔や口腔粘膜についた汚れを取り除きます
7.含嗽などで口腔内を洗浄します。含嗽が難しい患者さんでは、吸引やガーゼを使って拭い取ります。最初から吸引器付きブラシを使ってブラッシングする方法もあります
8.口腔ケア終了後は片付けを行い、患者さんの身の回りを整えます

痰の除去

 口臭が強い場合は痰の貯留を確認します。粘性の痰であれば吸引により除去し、乾燥した痰で剥がれにくい場合は無理に剥がさず、保湿剤などで湿潤させ数日かけて清拭していきます。

ブラッシング法

 ブラッシングには、操作が簡単で幼児などでも行いやすい「横磨き」、清掃効果が高いといわれる「スクラッピング法」、プラークを掻き出す「ローリング法」、力のない高齢者などに適する「フォーンズ法」、歯周ポケットの清掃に向いた「バス法」などがあります。

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舌苔の取り方

 舌苔は口腔内細菌が食物を分解した際の産生物です。舌に舌苔が付着したままの状態で経過すると、味が感じにくくなったり口臭の原因となったりします。分厚いものや乾燥しているものは、1回のケアで取り切ろうとはせず、保湿しつつ数日かけて清掃します。ただし清掃のしすぎは粘膜を傷つけるため1日1回にとどめます。

 舌苔除去の手順は、スポンジブラシやガーゼなどで舌の奥から手前に向かってなでるように汚れを取り除いていきます。専用の舌ブラシも販売されています。しつこい汚れにはオキシドールの希釈液などを使用します。

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唾液腺マッサージ

 口腔内が乾燥すると口腔トラブルの原因とながちです。そこで、唾液の分泌が低下している高齢者などには、分泌を促すために唾液腺マッサージを行います。

 主な唾液腺である耳下腺・顎下腺・舌下腺はそれぞれ頬・顎の下・舌下に位置しています。唾液腺マッサージを行う際は、まず手のひらで頬と顎下を包み、ゆっくり円を描くよう10回程度マッサージします。

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高齢者の口腔ケア

高齢者の口腔ケアの目的

 高齢者の口腔ケアは、機能低下にともない起こりうる乾燥や誤嚥性肺炎発症のリスクを回避する目的があります。

 高齢者は手指が思うように動かなかったり認知機能が低下したりすることによって、セルフケアが十分に行えない状態にあります。また、唾液が分泌されにくくなることで乾燥傾向となり、口腔内や咽頭の筋力低下が嚥下機能の低下を引き起こします。このような機能不足の部分を口腔ケアで補い、健康と機能の維持向上を目指します。

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義歯(入れ歯)の扱い

 義歯も口腔内と同様に洗浄し、清潔な状態に保つようにしましょう。これは、歯周病や誤嚥性肺炎の原因であるバイオフィルムが義歯にも付着するからです。洗浄する際は義歯専用の洗浄剤を使います。保管する場合は、水を張った容器に入れて破損しないようていねいに扱います。

義歯の洗い方

・義歯を外し手の上にのせ、義歯用ブラシで汚れを除去する
・流水でよく流す
・ぬるま湯を張った義歯ケースに義歯洗浄剤を入れ、浸け置きする
※義歯を入れるときは洗浄剤をよく洗い流す

図5 義歯の洗い方

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症状別口腔ケア

 一口に口腔ケアといってもその方法はさまざまです。ここからは、ケースに応じた口腔ケアについてみていきたいと思います。

乾燥の強い人のケア

 口腔内が乾燥している状態でブラッシングや汚れの除去を行うのは粘膜を傷つけ出血を起こす可能性があります。保湿剤などで口腔内を湿潤状態にしてからケアを行うようにしましょう。

開口できない人のケア

 開口できない原因を確認したうえでケアを行うことが大切です。口が開かないのか、それとも口を開けたくないかによってもアプローチが変わってきます。患者さんの状態をよく観察し、一人ひとりに合ったケアを行っていくようにしましょう。

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口内炎、潰瘍がある人のケア

 口内炎や潰瘍がある場合は、タフトブラシなどを使用して口腔内の清潔を保つようにします。適宜含嗽をしたりジェルスプレーを噴霧したりしながら痛みや苦痛の緩和に努めていきます。

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出血がある人の口腔ケア

 口腔内に出血を認める場合は、刺激の少ないスポンジブラシやガーゼで拭うようにケアを行います。血餅が形成されている場合は無理にはがさず、保湿剤で口腔内の湿潤を保つようにしましょう。

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片麻痺がある人の口腔ケア

 片麻痺がある場合は口腔ケアの前に麻痺側の食物残渣や傷の有無を確認します。洗浄する際は麻痺側から健側に向かって水や洗口液を流すことで誤嚥予防につながります。

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意識障害がある人の口腔ケア

 意識障害がある場合、開口困難でケアが十分にできなかったり誤嚥のリスクが高まったりします。寝たきりで要介護状態にある患者さんの場合も、体位の工夫や吸引しながらのケアに努めるようにしましょう。

経口挿管中のケア

 気管内挿管中に口腔ケアを行う際は、誤嚥による人工呼吸器関連肺炎が起こらないよう、カフ圧確認を怠らないようにしましょう。唾液はカフの上部に溜まりますから、痰の除去も兼ねて適宜吸引しながらケアを行います。また、口腔内は乾燥傾向にありますから、湿潤環境が保たれるように注意を払うことが大切です。

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摂食・嚥下障害がある人の口腔ケア

 器質的口腔ケアを行う際の誤嚥性肺炎のリスクは高く、体位の工夫や吸引を用いたケアなど患者さん一人ひとりの残存機能に合わせたケアを行います。また、あいうべ体操などの口腔機能訓練を日常生活に取り入れるとよいでしょう。

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認知症の人の口腔ケア

 認知症の患者さんへの口腔ケアで多くみられるのはケアの拒否です。認知症では徐々にセルフケア力が低下していくにもかかわらず、歯磨きや口腔ケアへの抵抗がよくみられるようになります。これには、「口腔ケアの意味がわからない」「口の中に触れられるのが怖い」「口の中を見られるのが嫌」などいくつかの理由があり、強要すれば「嫌」という感情が強く残り、ますます拒否が強くなってしまいます。

 認知症の患者さんに口腔ケアを行う際には、次のようなことに留意するようにします。

<認知症の患者の口腔ケア時の留意点>
・声かけやスキンシップなどを図り、リラックスした雰囲気を作る
・歯ブラシやスポンジブラシなど物品を見せ、触れて慣れてもらう
・理解できなくても口腔ケアを実施することをやさしく説明し、了解をもらう
・いきなり口腔内に触れず、頬のマッサージなどを行い顔から触れていく
・開口してくれない場合は、「口の中をマッサージしましょう」と伝えると有効な場合も
・歯肉マッサージから始めると大きく開口してくれやすくなる
・痛いケアにならないよう、力加減に十分注意する
・うがいがうまくできない場合は、横でうがいしてみせると上手くいく場合も
・ケアのあとには、きちんと感謝の気持ちを伝える

 なお、口腔ケアを介助するときには、前に腰掛けて口腔内をのぞき込んで行う方法と、鏡の前に座ってもらい、ケア者がうしろから両手を回して行う方法があります。

認知症の口腔ケア_前から

図6-1 認知症の人の口腔ケア(前方から介助)


認知症の口腔ケア_背後から
図6-2 認知症の人の口腔ケア(後方から介助)

寝たきりの人の口腔ケア

 寝たきりの患者さんにも口腔内の環境を清潔に保つ口腔ケアは大切です。意識がありセルフケアできる患者さんであれば、できるかぎり自分で歯磨きをしてもらいます。セルフケアできない場合は、誤嚥に注意して看護師が口腔ケアを行います。

<セルフケア可能な場合>
・横を向いてもらい、顔の下にビニールシーツなどを敷きます
・口元にガーグルベースン、水を入れた吸い飲み、歯ブラシ、タオルを準備します
・自分で歯を磨いてもらい、口をゆすいだ水はガーグルベースンで受けます
ポイント:うがいしづらい体位であるため、歯磨き粉はつけないほうがよいでしょう

<セルフケア不可能な場合>
・ベースン、水を入れたコップ、ガーゼ、綿球、歯ブラシ、スポンジブラシなどを準備します
・まず口腔内を観察し、汚れ具合をチェックします
・必要があれば保湿ジェルなどを塗布し、口腔内を保湿します
・水を良く切った歯ブラシやスポンジブラシなどを用いて、口腔内を清掃します(可能であれば吸引器付きブラシを用います)
・ガーゼ・綿球・口腔ケア用シートなどを用いて、口腔内を拭い取り、仕上げます
ポイント:誤嚥を防ぐため、水をできるだけ使わずに実施します

口腔ケアに関するガイドライン・マニュアル

 オリジナルの口腔ケアマニュアルをもっている病院や施設は多くありますが、ここでは学会が作成した口腔ケアに関するガイドラインやマニュアルをいくつかご紹介します。

・MASCC/ISOO ガン粘膜炎障害に対するエビデンスに基づいた臨床診療ガイドライン1):がん治療を受ける全ての患者さんに対して口腔ケアを行うとするもの
https://www.mascc.org/assets/Guidelines-Tools/guidelines%20summary%207nov2014-japanese.pdf(2020年3月2日閲覧)

・口腔機能維持管理マニュアル2):要介護高齢者に対する口腔機能維持管理が多くの施設で実施できるようケア及びマネジメントの方法を示したもの
http://www.gerodontology.jp/publishing/file/manual.pdf(2020年3月2日閲覧)

口腔ケアの関連学会

 口腔ケアの関連学会には次のようなものがあり、常に新しい知識と触れ合うことができます。

・日本口腔ケア学会(http://www.oralcare-jp.org/):口腔ケアに関する研修会の開催や、学会誌の発行、口腔ケア認定の実施など口腔ケアに関する活動を幅広く実施

・日本摂食嚥下リハビリテーション学会(https://www.jsdr.or.jp/):摂食嚥下に関するリハビリテーションの研究・教育・普及・構造化、認定士制度の構築、e-大学開設

 このほか、日本集中治療医学会や日本クリティカルケア看護学会などでも口腔ケアに関する実践ガイドを作成するなど、さまざまな学会が口腔ケアを重要なトピックとして扱っています。

口腔ケアに関する資格

 口腔ケアに関する資格では、日本看護協会(https://www.nurse.or.jp/)が認定する「摂食嚥下認定看護師」があります。摂食嚥下障害の原因疾患や治療の知識・病態を理解し、看護の実践や具体的な指導など多くの能力を期待される資格です。

 他にも日本口腔ケア学会(http://www.oralcare-jp.org/index.html)が「口腔ケア認定制度」を設けています。こちらは知識や能力に応じて1級から5級の5段階に分かれていて、5級は医療教育機関の学生も受験が可能です。

【参考文献】
・野村義明他:歯・口の機能.厚生労働省 e-ヘルスネット(2019年12月26日閲覧)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-01-001.html
・寺岡加代:要介護高齢者の口腔ケア.厚生労働省 e-ヘルスネット(2020年2月6日閲覧)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-08-003.html
・曽我 賢彦,訳:MASCC/ISOO がん治療に伴う粘膜障害に対するエビデンスに基づいた臨床診療ガイドライン概要(2019年12月26日閲覧)https://www.mascc.org/assets/Guidelines-Tools/guidelines%20summary%207nov2014-japanese.pdf
・口腔機能維持管理マニュアル.一般社団法人日本老年歯科医学会老人保健健康増進等事業班(2019年12月26日閲覧)http://www.gerodontology.jp/publishing/file/manual.pdf
・一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会(2019年12月26日閲覧) https://www.jsdr.or.jp/
・人工呼吸器関連肺炎予防のための気管挿管患者の口腔ケア実践ガイド.合同委員会作成委員(2019年12月26日閲覧)https://www.jsicm.org/pdf/koku_care2017.pdf
・認知症高齢者等への口腔ケア技術提供事業:認知症の口腔ケア(2020年2月6日閲覧)http://oralcare.agu.ac.jp/index.html
認定看護師教育基準カリキュラム.日本看護協会(2019年12月26日閲覧)https://nintei.nurse.or.jp/nursing/wp-content/uploads/2018/06/15_sessyokuenge_20180626.pdf
・口腔ケア認定制度.一般社団法人日本口腔ケア学会(2019年12月26日閲覧)http://www.oralcare-jp.org/reco/pdf/system.pdf

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